欧州経済、真の試練はコロナ危機の後に
ベルリン 石川潤
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGM05C3Y0V00C21A2000000/
『欧州経済に逆風が吹いている。変異ウイルスの広がりで各国のロックダウン(都市封鎖)は出口の見えない状況が続き、2日発表のユーロ圏の10~12月期の実質成長率は2期ぶりにマイナス圏に沈んだ。頼みの綱であるワクチンも欧州連合(EU)は十分な量を確保できず、輸出制限を打ち出すなど焦りが目立つ。
大西洋の反対側では、10~12月期にプラス成長を維持した米国が、ワクチン接種でも先行している。足元の混乱ぶりだけ…
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足元の混乱ぶりだけをみれば、新型コロナウイルスへの対応で後手に回った欧州の独り負けに見えるが、実際はどうだろうか。
欧州経済はもちろん順風満帆とは言えない。だが、過度に悲観的に見過ぎても、本質を見失うのではないか。欧州中央銀行(ECB)のラガルド総裁は1月21日の記者会見で、欧州経済について前向きな面と、あまり前向きとは言えない面を列挙してみせた。
変異ウイルスの拡大は確かに懸念材料だが、新型コロナのワクチンが開発され、英国のEU離脱による混乱は回避された。コロナ禍からの7500億ユーロ(約94兆円)の復興基金も動き出そうとしている。下方リスクは依然として大きいが、悲観一辺倒だった昨年までと比べれば、明るさも増してきた。
欧州最大のドイツ経済をみても、10~12月期の国内総生産(GDP)は市場予想を上回ってプラス成長を維持した。ロックダウンでサービス業はどん底だが、稼ぎ頭の製造業は堅調だ。
新型コロナの感染状況も最悪を抜け出しつつある。メルケル首相が重視する人口10万人あたり7日間累計の新規感染者数は一時期は200人近くまで上昇していたが、いまは100人を割り込み、目標の50人に近づきつつある。
新型コロナウイルスが広がりやすいとされる欧州の長い冬もやがて終わり、春を迎える。ワクチン接種をどれだけの速さで進められるかは大きな課題だが、達観してみれば時間の問題といえなくもない。
欧州にとっての真の試練はむしろコロナ危機後にやってくるのではないか。なりふり構わぬ財政出動と異例の金融緩和で経済を支えてきたが、感染状況が改善すれば、やがて正常化の道を探ることになる。
比較的堅調なドイツなど欧州北部と回復が遅れがちな南部の経済格差は、コロナ危機を通じて一段と強まった。これまではドイツが財政健全化路線を封印するなど協力して政策を進めてきたが、ひとたび危機が去れば、金融政策の正常化のタイミングなどを巡って足並みは乱れかねない。
過剰流動性のもと資産バブルもささやかれる金融市場はどう反応するのか。危機の宰相と呼ばれ、EUの重しとなってきたメルケル氏が秋に引退することも不安材料だ。
[日経ヴェリタス2021年2月7日号]