バイデン政権の対中外交 対決か協調か

バイデン政権の対中外交 対決か協調か
政界Zoom
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『1月に発足したバイデン米政権の対中政策を世界が注視する。当面はトランプ前政権が進めた強硬路線を維持すると主張するものの、気候変動問題などでは中国との協力も探る。日本の安全保障環境や国際秩序に大きな影響を与える米中関係の変化について有識者に聞いた。

「競争」と「忍耐」の併存関係に 兼原信克氏 元内閣官房副長官補

バイデン大統領の民主党は上下両院で多数を押さえた。共和党による歯止めはかからず、民主党が…

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共和党による歯止めはかからず、民主党が重視する新型コロナウイルス対策や気候変動対策、核不拡散などの推進へ動くだろう。中国との協調が必要になる分野だ。

サキ大統領報道官は対中外交について「戦略的忍耐(strategic patience)」と「戦略的競争(strategic competition)」という2つの表現を使った。

「競争」を少し薄めるために「忍耐」にも触れたとみている。バランスを取りながら対応する方針が読み取れる。

反中色が強く出過ぎれば、中国と交渉する気候変動チームが反発する。気候変動は内政で得点になる政策だ。だからといってアジアの安全保障や「自由で開かれたインド太平洋」の理念、台湾問題をおろそかにしてはならない。

米中の全面的なデカップリング(分断)はあり得ない。線引きを考える必要がある。おそらく8割くらいの分野で中国との関係が続く「プチ・デカップリング」になる。米国経済に入り込んだ中国は冷戦期のソ連とは違う。

経済安保は米国の方針が固まっていない。分野ごとに分析しなければならない。

グーグルやフェイスブックのようなプラットフォーム系とネットワーク系の米企業は中国がすでに自国市場から締め出した。米国も中国企業の遮断に動き出した。TikTok(ティックトック)などへの規制が該当する。

半導体は米国が中国に使わせない。米国企業の技術が関わる半導体は華為技術(ファーウェイ)への輸出が規制された。台湾積体電路製造(TSMC)はアリゾナ州で最先端工場の建設を決めるなど中国ではなく米国を選んだ。

アップルやテスラのような製造業は中国に拠点を置く。この分野のサプライチェーンをどうするかの議論は見えない。フィンテックの領域や量子などの先端技術、資金調達する証券界といった分野も含めて中国をどこまで分断するのかが焦点になる。

バイデン政権は西側諸国全体で中国に関与していく外交を展開するだろう。圧倒的な強大国だった以前とは違い、一国だけでは対応しない。主戦場となるアジアの問題に欧州諸国を引き込む交渉がこれから進む。

ここは日本の出番だ。トランプ氏は欧州との関係を壊した。中国と地理的に遠い欧州は台湾問題にも関心が薄い。日米で欧州を巻き込んでいかないといけない。日本は米側に軸足を置いたうえで、中国に働きかければいい。(聞き手は政治部長 吉野直也)

かねはら・のぶかつ 1981年(昭56年)東大法卒、外務省へ。日米安全保障条約課長、国際法局長、内閣官房副長官補、国家安全保障局次長を経て2020年同志社大学特別客員教授。山口県出身、62歳。

対中競争の分野、日米で協議を 

ミレヤ・ソリス氏 米ブルッキングス研究所東アジア政策研究センター長

米国のトランプ前政権は多くの分野で中国に強硬姿勢をとりつつ、トランプ氏本人は貿易交渉の助けになるなら他の政策で譲歩する構えをみせることがあった。バイデン大統領はより一貫したアプローチをとるとみる。

たとえばケリー大統領特使(気候変動担当)は気候変動で協力を探るからといって、他の政策を犠牲にはしない旨を発言した。中国が気候変動を材料に米国の立場を変更させることはできないだろう。

バイデン政権は米中関係を「戦略的競争」ととらえ、対決する分野と協力する分野を区別する。米中の完全なデカップリング(分断)は非現実的で、望ましくもない。東アジアの地域的な包括的経済連携(RCEP)の妥結をみれば、中国を製造拠点から排除するのは難しくなった。

サキ大統領報道官が対中政策で用いた「戦略的忍耐」という表現は、これまでの政策の検証や各省間の調整がすぐには進まないという意味だと考える。異例の政権移行で、前政権からの引き継ぎも不十分だったとみられる。

日本は米国に「選択的な競争」、すなわちどの分野を中国と競争するかを提案できる。沖縄県尖閣諸島の問題で断固とした態度をとりながら経済関係の維持を探るようなバランスのとれた対応で日米が協調するのが効果的だ。

友好国と連携すれば中国への圧力は一段と威力を発揮する。台湾も日米で話し合うべき最重要課題の一つとなる。

バイデン政権は国家安全保障会議(NSC)にインド太平洋調整官を新設し、アジア政策に詳しいカート・キャンベル氏を据えた。インド太平洋重視の表れで、日米にオーストラリア、インドを加えた4カ国協力「クアッド」が一段と重要な基盤になる。

米国の環太平洋経済連携協定(TPP)復帰は時間がかかる。2022年秋の中間選挙までは難しい。当面は国内問題に注力し、貿易は優先課題にならない。政府調達で米国製品を優先する「バイ・アメリカン」法の適用を強化したのが象徴的だ。中国は米国不在が続く恩恵を受ける。

バイデン政権は復帰の条件を明確にしていない。ヒントになるのはトランプ前政権が北米自由貿易協定(NAFTA)に代わって結んだUSMCA(米国・メキシコ・カナダ協定)だ。

野党だった民主党を含む超党派で合意し、TPPより強い労働者保護の規定が盛り込まれた。バイデン政権がTPP復帰に向けた再交渉を求める場合、こうした点を考慮する可能性がある。(聞き手はワシントン=永沢毅)

Mireya Solis 専門は比較政治経済学、通商政策など。1998年に米ハーバード大博士(政治・政策研究)。アメリカン大准教授などを経て現職。日米関係や日本の政治・経済に精通。

市場原理を超える覇権争い 政治部長 吉野直也

サキ米大統領報道官が国務省の報道官だった頃の記者会見で「戦略的忍耐」という言葉を何度も聞いた。北朝鮮が非核化に動くまで交渉に応じないとの米側の方針だが、それは北朝鮮の核開発を進めただけに終わった。失敗である。

米歴代政権の外交専門家が主張した中国に関与し、西側陣営に引き込めば、西側のルールに基づき外交を優位に進められるという政策も、幻想だった。2つの事象は異なるものの、バイデン政権が対中政策で用いた「戦略的忍耐」にはこの2つの不安を想起させる。

米側はこうした表現を使う際に政権内で熟議する。バイデン政権もそこに外交メッセージを込めたのだろう。2人の識者はこの言葉から対決一辺倒だったトランプ前政権からの変化の芽を読み取った。

全面的なデカップリング(分断)ではなく、プチ・デカップリングに向かう点である。バイデン大統領が重視する気候変動問題では中国と協力する用意があるためだ。

問題はプチ・デカップリングの行方だ。世界の覇権争いという文脈でいうと、覇権国家は1つしかない。米中で共存できる分野はあるにせよ、結局は相いれなくなる。大枠でトランプ政権の対中政策と変わらない、といわれるゆえんだ。

兼原氏は米中の構造について「権力闘争と市場原理がぶつかると権力闘争が勝る」と推測する。一方で米中のむき出しの権力闘争は世界を揺るがす。

それを回避するために日本が介在する余地はある。米国との同盟関係を基軸に欧州、アジア各国と安全保障と経済の両面で協力を広げ、東アジアでの抑止力を強化することだ。米中対立は、日本外交にとってリスクであり、好機でもある。

まるわかりバイデン政権始動 https://r.nikkei.com/topics/topic_trend_20121600