ミャンマー、狙い澄ましたクーデター 直前に中国と接触

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『1日のミャンマー国軍によるクーデターは、狙い澄ましたかのようなタイミングで起きた。任期切れが迫る国軍総司令官はアウン・サン・スー・チー国家顧問が率いる与党が圧勝した総選挙結果に不満を募らせ、クーデター直前に中国側と接触した。クーデターは軍政回帰の危機だと国際社会から強い批判を浴びており、バイデン米政権にとって大きな試練となる。

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「国軍は憲法を順守する」。1月末、ミン・アウン・フライン国軍総司令官の…

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1日のミャンマー国軍によるクーデターは、狙い澄ましたかのようなタイミングで起きた。任期切れが迫る国軍総司令官はアウン・サン・スー・チー国家顧問が率いる与党が圧勝した総選挙結果に不満を募らせ、クーデター直前に中国側と接触した。クーデターは軍政回帰の危機だと国際社会から強い批判を浴びており、バイデン米政権にとって大きな試練となる。

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「国軍は憲法を順守する」。1月末、ミン・アウン・フライン国軍総司令官の予想されていなかった発言で、ミャンマー国内の緊張は和らいだ。国軍は昨年11月の総選挙で不正があったとして「行動を起こす」と示唆していたためだ。皮肉なことに総司令官の発言の翌日、国軍は憲法の規定に基づいて全権を掌握した。憲法は417条以降の規定で、非常事態時に全権を国軍総司令官に委ねると定める。

現行憲法は軍事政権が2008年に制定したものだ。議会の議席の25%と主要3閣僚を軍が占有する。外国籍の親族を持つ人物の大統領資格も認めておらず、スー・チー氏は亡夫と息子が英国籍のため該当しない。

スー・チー氏が率いる国民民主連盟(NLD)が15年の総選挙で地滑り的な勝利を果たし、政権を握ってから5年。NLDと国軍の間は常に緊張していた。スー・チー氏側が国軍側に譲歩することはあったが、それは融和でなく、政治的な戦術だとみられていた。

国際社会ではかつてスー・チー氏をノーベル平和賞を受賞した「人権擁護者」とみる向きが多かった。だが国軍が17年、ミャンマー西部ラカイン州からイスラム系少数民族ロヒンギャの75万人を追放すると、スー・チー氏は国軍を擁護した。人権運動家はスー・チー氏が人道に対する罪を犯したと激怒し、同氏を「堕天使」として扱うような論評も近年は目立った。

実際、スー・チー氏は社会正義よりも法と秩序を重視する。独立運動の英雄だった父アウン・サン氏が暗殺されたのは2歳のとき。長い自宅軟禁を経て、父親の後を追い国家のリーダーとなる目標にこだわった。

現実主義の側面を持つスー・チー氏だが、国軍との間の溝は20年11月の総選挙(上下両院選)で決定的となった。NLDが議席を伸ばす一方、国軍系の野党、連邦団結発展党(USDP)は屈辱的な大敗を喫した。国軍総司令官としての任期切れが迫っていたミン・アウン・フライン氏は、スー・チー政権で副大統領として仕えるという選択肢もあったが、明らかに魅力的ではなかった。

政治的緊張を抱えていたミャンマーは地政学上の要衝でもある。中国とインドの間にあり、地域大国がひしめきあうなかで重要な位置を占める。中国にとってミャンマーは東南アジアや南アジアへ抜ける足がかりとなる。西側がかつてミャンマー軍政への制裁を続けていた際にも軍の装備を提供し「親しい友人」であり続けた。

だがミャンマーは次第に中国による支配への不満を募らせた。破綻した経済を立て直すため開放路線へと転換し、スー・チー氏を自宅軟禁から解いた。中国が支援していた北部カチン州のダム建設プロジェクトを突然中止したことは対中関係の悪化を象徴する。

しかしミン・アウン・フライン氏は中国との関係を維持した。頻繁に中国を訪問し、高官との関係を築いてきた。

このためミャンマー国軍が中国に事前通告せず、クーデターを起こしたはずがないと多くの専門家はみる。中国の王毅(ワン・イー)国務委員兼外相はわずか数週間前の1月にミャンマーを訪問し、ミン・アウン・フライン氏、スー・チー氏とそれぞれ会談した。

関係者によると、ミン・アウン・フライン氏は20年の総選挙で不正行為があったと主張し、不満を漏らした。王氏はミャンマー国軍が「正しい」役割を果たし、国に積極的に貢献すべきだと応じた。軍が2国間関係のさらなる改善に貢献することを中国が期待しているとも語ったという。

ミャンマーの政変は米国にも大きな意味を持つ。バイデン米大統領は対ミャンマー制裁について「適切な措置を講じる必要性が生じる」と述べた。米外交問題評議会(CFR)シニアフェローのジョシュア・カーランティック氏は「ミャンマーへの対応はバイデン氏の実力が試される最初の課題になる」と指摘する。

米国が制裁に踏み切れば、逆効果になるとの見方もある。それでも米国はミャンマーへの関与を続けざるを得ない。バイデン氏は米国家安全保障会議(NSC)の新設ポスト、インド太平洋調整官にカート・キャンベル氏を任命した。キャンベル氏はバイデン氏が副大統領を務めたオバマ政権時代に国務次官補(東アジア・太平洋担当)を務め、ミャンマー民主化の立役者として活躍した。

シンガポールのビラハリ・カウシカン元外務次官は「ミャンマーを孤立させることは無益で、その事実や中国との競争を考えると、戦略的に対応することの重要性をキャンベル氏は認識している」と指摘する。

(バンコク=グウェン・ロビンソン、ヤンゴン=新田裕一、トムソン・チャウ)

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青山瑠妙
早稲田大学大学院アジア太平洋研究科 教授
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ひとこと解説 確かに王毅外相はミャンマー訪問の際に国軍総司令官と会ったが、アウン・サン・スー・チー国家顧問とも会談し、一帯一路構想の協力について確認している。現時点の情報で中国がクーデターに関与している確証はないが、中国とミャンマーの関係において、クーデターによる大きなダメージはないと見られている。
今後の争点の一つは国連安保理での中露の対応となる。ミャンマーに対する制裁に両国はどう動くか。
もう一つ注視されているのは日本の役割である。これまでミャンマーと関係の深い日本とインドが、アメリカとミャンマーとのパイプ役をどこまで果たすことができるのか。日本への期待は大きい。
2021年2月4日 8:24 (2021年2月4日 8:25更新)
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滝田洋一
日本経済新聞社 編集委員
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分析・考察 バイデン政権の足元は見透かされていないでしょうか。記事にあるシンガポールのビラハリ・カウシカン元外務次官の指摘は雄弁です。「ミャンマーを孤立させることは無益で、その事実や中国との競争を考えると、戦略的に対応することの重要性をキャンベル氏(インド太平洋調整官)は認識している」と。
もちろん制裁の実効性を高める策はあります。中国がミャンマー国軍の後ろ盾になるようなら、中国に対してセカンダリー・サンクション(二次的制裁。制裁対象の国と結びつきが深い第三国への制裁)を課すことです。
バイデン政権の人権外交が本物ならできないはずはないはず。それともやはり、バイデン氏は「言うだけ番長」なのでしょうか。
2021年2月3日 19:15いいね
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