[FT]悪化するイランの貧困 不満は爆発寸前

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『モハンマドさん(47)は2020年の今ごろ、失業中であっても3人の子どものために果物や鶏肉を買うお金を何とか工面できていた。

だが、米国による制裁と新型コロナウイルスの感染拡大がイラン経済を痛めつけ、インフレの加速も招いた。果物の値段は以前の3倍近い。モハンマドさんは政府から給付金を受け取るだけでなく、自宅の家具をいくつか売り、貯蓄まで切り崩さなければ、一家全員が最低限食いつなぐだけのパン、ジャガ…

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モハンマドさんは政府から給付金を受け取るだけでなく、自宅の家具をいくつか売り、貯蓄まで切り崩さなければ、一家全員が最低限食いつなぐだけのパン、ジャガイモ、卵を確保できない。

「政府の給付金は毎月約900万リアル(約3900円)で、さらに自力でほぼ同額を捻出しているのに、戦争難民のような生活だ」。モハンマドさんは、ポリオの後遺症が原因で、3年前にたばこ売りの仕事を辞めた。

1年で数百万人が「極度の貧困」に

イランではこの1年間で、何百万人もが極度の貧困に陥った。こうした事態は、21年中に大統領選挙を控え、米国のバイデン新大統領とあらためて核合意に向けた協議に臨もうとするイラン政府の境遇をいっそう難しくしている。

イラン政府は、米国に科された制裁と新型コロナのパンデミック(世界的大流行)の経済的影響を乗り越えられたと自信を見せる。石油化学製品や鉄鋼といった原油以外の輸出に加え、物々交換による通商、中国への若干の原油輸出を支えにしてきた。しかし、国民の多くは、イランが欧米など6カ国と結んだ核合意からの離脱をトランプ前米大統領が決めた時点に比べてはるかに貧しくなっている。

イスラム労働協議会の賃金委員会を率いるファラマルズ・トフィギ氏は「労働者の賃金では生活費の3分の1程度しか賄えないため、イラン社会の60%以上が相対的貧困の状態にある」と説明する。「貧困ライン以下で暮らす人々の半分が極度の貧困に苦しんでいる」

改革派の経済学者であるサイード・レイラズ氏は、トフィギ氏の挙げた数字に同意した上で、米国の核合意離脱と制裁再開以降の3年間に極度の貧困層の人口が5倍に増えたと付け加えた。貧困に関してイランの公式統計は存在せず、専門家らは購買力データを基に推計を出している。

レイラズ氏によると、貧困層の拡大は、米国と協議に臨まなければならないイラン政府にのしかかる重圧をいっそう強めている。「パンデミック後に貧困層を減らすことができなければ、政治と社会の不安定化に直面しかねない。ここ3年間に国民が背負った多大な苦難を、政府が埋め合わせる必要がある」

50%に迫るインフレ率

公式統計に基づく年間インフレ率は現在46.2%。米国が核合意から離脱した18年5月には10%未満だった。食品と飲料の価格が再び上昇し、鶏肉や米、卵が1年前に比べて約2倍、豆類や植物油が約3倍に値上がりしたことに、国民から不満の声が上がっている。若者の失業率は16.5%に達し、直近の1年間はコロナ禍で多くの人が職を失った。

政府は、燃料補助金の削減分の補塡を目的とした給付のほか、コロナ禍の影響を緩和するための給付を行っている。アナリストらは、毎月の公的支援がなければ、多数の国民が食料を十分に買えなかったはずだとみる。

イランのスマート決済システムは、8300万人余りの全人口の約半分をカバーし、特定の収入源のない世帯を対象としている。平均的な構成人数である4人の最貧困世帯の場合、1カ月に最低570万リアルを受け取ることができ、パンとジャガイモの購入には困らない。レイラズ氏は、給付金によって「多くの家庭が(パンを)買うことはでき、飢えに苦しまなくて済んでいる」と指摘した。

富裕層の多く住むテヘラン北部の集合住宅で管理人として働くゴドラットさんは、1850万リアルだった月給が20年3月から2400万リアルに上がったものの、依然として暮らしは厳しいという。別の町でぎりぎりの生活をする妻と2人の子どもへの仕送りに、給料のほぼ全額を充てている。「私の人生でこれほど金銭的な困難を感じたことはなかった。最近は食事の量をかなり減らし、食べ物を分けてくれる隣人に頼っている」とゴドラットさんは語る。「それでも空腹のまま就寝したり、水かお茶だけで朝食を済ませたりすることもある」

援助関係者らによると、低所得層の多いイラン南東部ザヘダンは一段と深刻な状況にある。慈善団体アビッド・バファマネシュが支援するのは370世帯と、1年前の4倍に上る。規模が大きく、生活費の高い都市から移り住んできた家族も多い。ある関係者は「子どもが2人いる家族が12平方メートルの救護施設で暮らしており、朝食を取ることなど考えられもしない」と話した。

政治的なリスクも

イラン政府にとっては、貧困が政治的な作用をもたらすリスクもある。同国では19年11月、生活苦にあえぐ人々による抗議デモが容赦なく制圧され、百人単位の死者が出た。トフィギ氏は「拡大しつつある貧富の差を埋められなければ、社会にため込まれた怒りやもやもやが爆発する」との見方を示した。

モハンマドさんは、米国との協議と制裁解除に大きな期待を抱く半面、国内にはびこる汚職や政治的な失態も大きな問題だと考えている。領土問題やイスラム教の戒律に沿った女性の服装の強制といった「作られたニーズ」に取り組む代わりに、個人の尊厳や根本的な経済問題への対処など人々が求める「本当のニーズ」を国の指導者たちが優先すべきだと述べた。

「父親がきょう亡くなったとしても、葬式に駆けつける金もない。国民がこんな扱いを受けて良いわけがない」とモハンマドさんは嘆く。「指導者層にとっても得になるやり方ではない。今は抑圧され、命まで奪われそうな人々が、あすには尊厳ある暮らしを守るために銃を手に取るにちがいない」

By Najmeh Bozorgmehr

(2021年1月25日付 英フィナンシャル・タイムズ電子版 https://www.ft.com/)

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