[FT]北朝鮮、ワクチン受け入れでジレンマ

[FT]北朝鮮、ワクチン受け入れでジレンマ
解くか境界封鎖
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGM250UZ0V20C21A1000000

『自主独立を強調する「チュチェ(主体)思想」は、70年余りにわたり人民を外の世界から隔離して北朝鮮を支配してきた金王朝の指導原理だ。

だが金正恩(キム・ジョンウン)総書記は、新型コロナウイルスという未曽有の公衆衛生上の脅威を克服するために国際援助の申し出を受け入れるかどうか、決断しなければならない。37歳の独裁者の選択は世界的な感染拡大を終息させようとする国際社会の闘いに影響を及ぼすが、金正恩氏の安…

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37歳の独裁者の選択は世界的な感染拡大を終息させようとする国際社会の闘いに影響を及ぼすが、金正恩氏の安全保障上の懸念が北朝鮮に暮らす推定約2500万人にワクチンを提供しようとする努力の妨げとなるのではと危惧されている。

「この数年間の核・ミサイル開発は、体制維持のためにはいとも簡単に人民の幸福と繁栄を犠牲にしようとする姿勢を物語る」。オーストリアのウィーン大学の北朝鮮専門家で韓国のソウルに活動拠点を置くピーター・ウォード氏はこう指摘する。

1年前に境界を封鎖、外国人も出国

この件に詳しい関係者らによると、北朝鮮は新型コロナワクチンを共同購入する国際的な枠組み「COVAX(コバックス)」への参加に関心を示している。

これについて北朝鮮での活動経験を持つ国際医療専門家らは、途上国へのワクチン普及を進める国際組織で、北朝鮮で20年近い活動実績がある「Gavi(ガビ)ワクチンアライアンス」の援助を受け入れようとしているのかもしれないと受け止めている。国連の支援を受けるGaviは世界保健機関(WHO)や、官民連携でワクチン開発を推進する国際組織「感染症流行対策イノベーション連合(CEPI)」とともにCOVAXの取り組みを主導している。

鍵を握るのは、ワクチン接種を推進するのに必要な国際支援のレベルだ。

事前評価を行い、世界で最も貧しい後発開発途上国の一つである北朝鮮の全土にワクチンを配布する輸送上の問題を解決するために、国際援助要員が北朝鮮に入る必要がある。現地の人員を訓練し、Gaviの規定に従って接種プログラムの監視にあたることも求められる。

北朝鮮は2020年1月、境界を封鎖し域内の移動も全面的に禁止した。感染の発生は発表されていないが、この措置を受けて北朝鮮駐在の外国人は外交官や支援関係者も含めてほとんどが出国した。

医療インフラはワクチンの保存と配布が可能

英キングス・カレッジ・ロンドンの北朝鮮専門家ラモン・パチェコ・パルド氏は、北朝鮮はWHOやGaviなどの非政府組織(NGO)と長年、協力関係があるとはいえ、国内にほとんど外国人がいない状況下で「監視が最大の問題となる可能性がある」と話す。

「北朝鮮がWHOあるいはGaviによるワクチン配布の監視を受け入れようとしなければ、世界中の国がワクチンの供給を受けたがっているので、おそらく後回しにされるだろう」

北朝鮮での活動経験がある米ハーバード大学医学大学院のキー・パク講師は、北朝鮮は隔離期間を慎重にとり追加検査もすることで対応できるはずだと考えている。そうすれば、国際援助要員は「住民に重大なリスクをもたらさない形で」北朝鮮に入ることができるという。

「少なくともワクチン接種を進められるように、北朝鮮は部分的な封鎖解除への道筋を見つけ出せると思う」

アナリストらによると、他の多くの分野では予算や設備などが不足しているのに対し、北朝鮮の医療システムはワクチンの保存と配布をしやすい状態にあるという。

これは結核や肝炎などとの闘いや乳幼児予防接種の普及など、これまでの国際的な取り組みによるものだ。

WHOの平壌事務所でマネジャーを務めたナギ・シャフィク氏は、北朝鮮は英オックスフォード大学と英アストラゼネカが共同開発したセ氏2~8度で保管可能なワクチンを扱えるという。

隣接する中国での感染拡大、新たなリスクに

「(北朝鮮の)低温保管システムは長年稼働している。カバー率も高く、維持されていると自信を持って言える」。2019年半ばに平壌で最後の仕事をしたシャフィク氏は語る。Gaviの裏付けデータもあるという。

ただ超低温での保管が必要な米モデルナ製や、米ファイザーと独ビオンテック製のワクチンは北朝鮮には向かないだろう。

ハーバード大のパク氏は、有効率についてさらに精度の高いデータが出てこない限り、リスクを嫌う北朝鮮の保健当局がロシア製や中国製のワクチンを信頼する可能性は低いとみる。

境界封鎖による対中貿易の激減で資金不足の北朝鮮経済はさらに悪化し、医療機器・資材の供給が滞っている。経済危機で金正恩氏には一段とプレッシャーがかかっている。

ところが隣接する中国遼寧省と吉林省で再びコロナ感染が拡大し、北朝鮮が入境制限緩和をするには新たに危険が伴うことになった。中国ではここ数週間で数千万人がロックダウン(都市封鎖)下に置かれ、感染封じ込めのために集団検査が行われている。吉林省当局によると、省外から訪れた1人の営業職の男性から100人以上が感染した。感染拡大のスピードを物語る事例だ。

金正恩氏は苦境に立つが、折しも先進国は途上国のワクチン確保を支援していないと激しい批判を浴びている。

医療専門家らは、核・ミサイル開発などの挑発行為を繰り返す北朝鮮に科された経済制裁の緩和も求めている。制裁措置はワクチン接種の遅れにつながりかねず、金正恩氏に近い軍人やエリート層のために医薬品が退蔵されることへの懸念が膨らんでいるという。

シャフィク氏はこう語った。「政治と科学の問題は切り離さなければならない。科学の知見からは、全員がワクチン接種を受けるまで誰も安全ではないことがわかっている。これは人道的な問題だ。人々を罰することはできない」

By Edward White & Alice Woodhouse

(2021年1月23日付 英フィナンシャル・タイムズ電子版 https://www.ft.com/

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