エジプト、米「人権重視」に身構え アラブの春10年

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『【カイロ=久門武史】エジプトのムバラク独裁政権を倒したデモの発生から25日で10年になる。軍主導の政治体制の復活で、経済は混乱を脱したが統治は抑圧的になった。批判を封殺するシシ政権に「人権重視」のバイデン米大統領は厳しい目を向ける。

「政権批判はタブーになった」。兄の活動家アラア・アブデルファタハ氏が2019年9月のデモで逮捕されたモナ・セイフさんは語る。「(兄がいる)過密な獄中は新型コロナウイル…

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「(兄がいる)過密な獄中は新型コロナウイルスの感染源で、食べ物も医療も満足にない」という。アラア氏は裁判のないまま収監され続けているという。

イスラム組織「ムスリム同胞団」の中堅団員だったムハンマドさんは「11年から13年までは自由選挙による大統領の下で民主国家になる希望があった」と悔やむ。「隣近所までが子供に『うちの子と遊ぶな』と言って我々を避ける」と治安機関による監視を嘆く。同胞団は13年に軍の事実上のクーデターで追放されたモルシ前大統領の出身母体だ。幹部は次々と死刑判決を受けた。

エジプトは11年の政変で落ち込んだ経済が14年から4%超の成長に持ち直し、対内直接投資はアフリカ最大になった。軍出身で14年に就任したシシ大統領は通貨を対ドルで約半分に切り下げる一方、補助金を削減した。スエズ運河の拡張や新首都建設など大規模開発を進めた。

しわ寄せは庶民に来た。インフレでカイロの地下鉄運賃は5倍になり、補助金で安く買えるパンは2割小さくなった。貧困率が3割に達し庶民の不満が募るなか、政権は活動家やジャーナリストを拘束し批判を封じた。選挙は形骸化し、昨年の下院選の投票率は29%にとどまった。国際人権団体ヒューマン・ライツ・ウオッチは「数万人が政治的な理由で投獄されたままだ」と指摘する。

所得の格差、人口爆発と失業、官業肥大、進まぬ民主化…。エジプトには中東が抱える矛盾が凝縮されているともいえる。人口は国連によると50年に1.5億人に膨らむが、若年失業率は3割に達する。軍の関連企業が膨張し、雇用を生む民間企業も育っていない。

兵器輸出やテロ対策を優先するトランプ前米大統領は、シシ氏を「お気に入りの独裁者」と呼んだとされる。バイデン氏の就任で潮目は変わりつつある。

「トランプの『お気に入りの独裁者』に与える白紙小切手はない」。バイデン氏は就任前の昨夏、エジプト当局による「逮捕、拷問、追放」に警告を発した。シシ政権は今年に入り「国家人権戦略」策定に向けて聞き取り調査した。先月には人権活動家3人が釈放された。米新政権を意識した動きとみられている。

バイデン政権は人権配慮を求めても、親米国を離反させるほどの圧力はかけない、との観測がある。カイロ大のムスタファ・カメル・サイード教授は「エジプトは中東政治に影響力を持ち、イスラエルとパレスチナの和平に重要な役割を果たしている」と指摘する。シシ政権は人権への取り組みを印象づけつつ、米国の出方をうかがうとみられる。