RCEPの圧倒的勝者は中国 ウィリアム・ブラットン氏

RCEPの圧倒的勝者は中国 ウィリアム・ブラットン氏
元HSBCアジア太平洋株式調査責任者
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGH188RA0Y1A110C2000000

『東アジア地域包括的経済連携(RCEP)の調印は、貿易の拡大と地域の経済成長の促進につながるとして熱烈に歓迎された。だが、こうした反応は、長期的な自由貿易が勝者と敗者を生み出すという現実を見逃している。

RCEPの場合、他の参加国を犠牲にして主に利益を享受するのは中国だ。アジア経済の中核としての地位が確立され、それが中国にあらゆる長期的な利益をもたらす。他のアジア諸国は自らの未来を食べ尽くすドラゴン…

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他のアジア諸国は自らの未来を食べ尽くすドラゴンと食事をするようなものだ。地域の政策立案者は、この問題への対策を早急に検討する必要がある。

William Bratton 英ケンブリッジ大学博士。経済地理学者。ドイツ銀行を経て英大手銀行のHSBCへ。企業や株式などの調査部門を中心に活動。中国やアジア経済に関する著書もある。 

貿易の拡大と所得増加の約束が自由貿易協定(FTA)の主な魅力だろう。アジアのいくつかの国が輸出主導型成長モデルの成功を実証したことから、地域の多くの政策立案者が、貿易の拡大に目を向けるのは当然のことだ。

アジアなどでのFTAの先例は、ある程度RCEPを巡る楽観論を正当化するだろう。中国と東南アジア諸国連合(ASEAN)の間では、2005年に物品貿易協定が発効し、10年初めにはASEAN先行6カ国との間で関税が撤廃された。同様に、08年には中国とニュージーランドのFTAが発効している。中国とASEAN、ニュージーランドの間の商品貿易は大きく拡大し、世界貿易全体の伸び率を大幅に上回っている。

ただ、FTAによる貿易額の伸びだけに注目すると、長期的な地理的影響を見落としてしまう。自由貿易によってもたらされる利益は、最も競争力のある場所に生産を集中し、規模を拡大する効率化に主に由来する。これは消費者にとっては製品の革新と価格の低下、生産者にとっては資本利益率の向上につながる。

しかし、自由貿易によって経済システムの中核にある国(アジアでは中国)と周辺国の階層的な関係は固定化されかねない。周辺国がバリューチェーンの上流に移行することも難しくなるだろう。

参加者の規模が同程度で、経済発展の段階が似ており、相互補完的な産業の強みがあれば、自由貿易の利益はより均等に分配される公算が大きい。対照的に、国際的に競争力のある産業がない国や、規模の面で著しく不利な国は、実質的な長期的利益を確保するのは困難かもしれない。こうした弱い立場の国々は、規模の小さい製造業が低コストの輸入品に圧倒され、経済成長に必要となる国内産業を育成できない、といったリスクを抱えることになる。

これらの要因により、アジアの産業活動は中国にさらに集中する。地域の経済・産業階層は一段と固定化され、小さな発展途上国は恒久的に下層に追いやられる恐れが強まる。中国の経済規模は近隣諸国と比較すると不釣り合いなほど大きい。中国の賃金コスト上昇で、製造業が低コストの近隣諸国に移転すると考える向きもあるが、ASEANの商品貿易の実情を見ると、対中赤字額はこの10年で何倍にも膨らんでいる。

こうした点を考えると、インドがRCEP不参加に動いたのは理解しやすい。経済発展のため、自国の製造業と産業基盤を成長させるという野心があるからだ。

一方、RCEP参加国には、永久に中国の周辺国という立場に甘んじ、それに関連した経済や政治の問題に悩まされるリスクが生じる。これらの国は、一緒に食事をとることにしたドラゴンの脅威に、いずれ気づくかもしれない。

関連英文はNikkei Asiaサイト(https://s.nikkei.com/3ifgrpP)に

有利なルールづくり主導

中国経済のレベルは先進国と発展途上国の間に位置する。関税撤廃で輸出が伸びる産業も多いが、改革が遅れる国有企業や育成中の先端産業もある。中国にすれば競争力の劣るアジア途上国に輸出を伸ばしつつ、要所で先進国の介入を阻止し、自国産業を保護できる国際貿易・投資のルールが望ましい。中国は途上国に厳しい条項を懸念するASEANを取り込み、RCEP交渉の主導権を握った。

結果、RCEPでは自由化や公平性の原則が緩められた。投資先の政策変更で損害を受ける企業に補償する制度(ISDS条項)を日本は求めたが、実現できなかった。自由貿易で利益を得る日本は離脱より妥協を選んだ。中国は途上国に寄り添う姿を装いながら、今後も自国に有利なルールづくりを主導し続けるのかもしれない。(編集委員 村山宏)