米新政権が引き継ぐ分断の試練 ライオネル・バーバー氏

米新政権が引き継ぐ分断の試練 ライオネル・バーバー氏
英フィナンシャル・タイムズ前編集長
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『米国で、バイデン大統領が就任した。トランプ前大統領は就任式に出席しなかった。トランプ氏の慣例破りは、新型コロナウイルスの感染拡大や米史上初となる2度の弾劾訴追と問題まみれだった任期の最後につけ加えられた、陰気なコーダ(楽曲の終結部)だった。

2020年の米大統領選では、7千万人程度がトランプ氏に投票した。(トランプ氏を候補に選んだ)共和党の支持者の過半数が、(バイデン氏の)民主党が選挙を不正に操作…

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(トランプ氏を候補に選んだ)共和党の支持者の過半数が、(バイデン氏の)民主党が選挙を不正に操作したという根拠のない話を信じているとの調査結果もあった。

フィナンシャル・タイムズ前編集長のバーバー氏
上院議員を長年務め、外交経験の豊富な78歳のバイデン氏は、何とか前に進もうとしている。しかし、トランプ氏の4年間に受けた米国の痛手をなかったことにするのは難しいに違いない。

米評論家のマイケル・リンド氏によると、5つの危機が米国を覆っている。まず、ごく一部のエリート層への権力集中による政治的危機と国民が愛国心を広く共有しているという感覚の欠如によるアイデンティティー危機、地域のつながりの衰退によって進行した社会的危機だ。加えて、結婚年齢の上昇と出生率の低下による人口危機、低賃金労働に慢性的な雇用不安といった経済的危機だという。

米国の衰退を予想する声は、50年ほど前にベトナム戦争で敗北したころから出ていた。1980年代後半には、英歴史家のポール・ケネディ氏が帝国主義的な勢力拡大に警鐘を鳴らした。だが89年、西側諸国の平和的な勝利で冷戦が終わった。

2008年の金融危機では、米国の資本主義モデルの重大な欠陥まで浮き彫りになったものの、米国は毎回立ち直ってきた。今回の展開は、違ったものになるだろうか。

トランプ氏と異なり、バイデン氏は欧州やアジアの同盟国と協力する意義を理解している。温暖化対策の国際枠組み「パリ協定」や世界保健機関(WHO)への回帰の動きはもとより、20カ国・地域(G20)や北大西洋条約機構(NATO)といった多国間交渉の場へのより積極的な参加も期待できる。とはいえ米国の外交力は、まず国内をどれだけうまく統治できるかにかかっており、内政の見通しは暗い。

米国の新型コロナによる死者数は、40万人を超えた。連邦政府の対応は極めてずさんで、トランプ氏の振る舞いの影響も大きかった。バイデン氏にとっては「コロナ、コロナ、コロナ」だろう。

バイデン氏は大統領就任前、1.9兆ドル(約200兆円)規模の新たな新型コロナ対策案を発表した。だが民主党内左派からは、(新型コロナ対策以外の)社会保障制度などの歳出拡大も強く求められるだろう。一方、財政赤字が膨らむなか、負債の多い企業の経営を揺るがす金利上昇を懸念する見方がある。

中国の抑圧的な体制下で政情不安が起きる可能性を指摘する人々は、国民が極端に二分化された米国の民主主義体制の方が優れていると言い切れるのか、自らに問う必要がある。かつて中国の最高指導者だった鄧小平氏は、爪を隠して力を蓄える「韜光養晦(とうこうようかい)」と呼ばれる対外政策を唱えた。習近平(シー・ジンピン)国家主席は、鄧小平氏の方針に手を加え、爪を隠すのにはあまり熱心ではない。

バイデン氏にはいくつかの切り札がある。民主党は、上院で事実上の多数派となった。下院でも過半数を握り、法案通過が阻止される恐れは小さくなった。バイデン氏が登用を決めたブリンケン国務長官やイエレン財務長官らは、オバマ政権時代の豊富な経験を持つ人材だ。ケリー元国務長官が気候変動問題の大統領特使として加わる。

バイデン氏が手腕を発揮するにせよ、新政権の業績を左右するのは国家全体の健全性だ。トランプ流ポピュリズム(大衆迎合主義)のウイルスは、共和党内にはびこっている。今後の弾劾裁判は、国民の分断を加速するだろう。

バイデン氏が大統領に選ばれたことは、正常への回帰とたたえられている。しかし最も恐ろしいのは、バイデン氏が例外で、トランプ流がニューノーマル(新常態)であると証明されることだ。

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