世界が注視する「バイデン・ドクトリン」とは何か

世界が注視する「バイデン・ドクトリン」とは何か
斎藤 彰 (ジャーナリスト、元読売新聞アメリカ総局長)
https://wedge.ismedia.jp/articles/-/21952

 ※ バイデン新大統領(及び、彼のグループ)の考えているであろうこと(頭の中)を、解説してみせている…。

 ※ ざっと見た中では、最も「説得力がある」記事だと思う…。

 ※ 全文を、引用させて頂きます…。

『バイデン米新政権がスタートした。わが国はじめ世界各国で早くも「バイデン・ドクトリン」なる外交安全保障政策の理念、具体策についての関心が高まっている。

ホワイトハウス入りしたバイデン大統領(AP/AFLO)

 第46代バイデン米大統領のいわゆる「バイデン・ドクトリン」にいち早く着目したのは、有力誌「The Atlantic」デジタル版編集長を務めたスティーブ・クレモンズ氏だ。彼は、オバマ政権下で副大統領だったバイデン氏と2016年8月当時、ホワイトハウスで行ったインタビューを踏まえ同誌論文の中で初めて「Biden Doctrine」を取り上げ、以下のように論じている。

 「バイデン氏は会見の中で、アメリカの圧倒的軍事力を世界のどこに投入するかを判断する際の尺度として、まず第一に『戦略的利益に合致するかどうか』であり、そのあとに『第二、第三、第四のとるべきステップは何か』を検討することになる、と強調した。

 言い換えると、戦力投入は持続的であり、結果をもたらす場合を想定している。彼はさらに『世界は変動してきたがゆえに、アメリカが関与する必要がある』と述べると同時に、わが国のみの行動ではなく、同盟諸国との責任、情報共有と、戦力の選択的配置が重要になってくるという」

 「そこで具体的に、『バイデン・ドクトリンとは何か』を本人にスバリ尋ねた。彼はかつて父親が口癖にように語っていた『君にとってすべてが等しく大切だというなら、どれも大切ではないのと同じだ』という言葉を持ち出した上で、『自分の過去40年の外交経験で実感したことは、極めて困難なことだが、アメリカにとって何が存亡にかかわる脅威existential threatであるかを見極め、脅威に応じた資源配分を行う必要があるということだ。われわれはこれまで、戸口の狼wolf at the doorだけに過剰反応する傾向があったが、野外にはほかの狼がいることを忘れるべきではない』と説明した」

 「では『野外の狼』とは何をさすかを聞いたところ、『それは必ずしも、イスラム過激派組織ISISなどのテロリズムではない。むしろ、世界への核拡散、ロシア、中国などとの意図せざる核紛争、安定性を欠く金正恩のような人物を擁する北朝鮮の核問題だ。北朝鮮は世界で最も危険な国家だ』と言い切った」

 「バイデン氏は、各国首脳との個人的関係の重要性にも言及した。その中で、険悪な関係にあったイスラエルのネタニヤフ、トルコのエルドアン両首脳とそれぞれと直接会談し、折り合いをつけさせたことを例に挙げた。さらに、日韓関係に触れ、『2013年のAPEC首脳会議で安倍首相と朴槿恵大統領は壇上で30秒だけ言葉をかわしただけの冷え切った関係だったが、自分が二人に関係改善を説得した。それ以来、両首脳は相互訪問を実現させ、数回にわたる首脳会談にこぎつけることになった」

 クレモンズ氏は、上記のようなバイデン発言内容を踏まえ、「バイデン・ドクトリン」を構成する「基本理念」として①軍事力は説明のつくものであり、持続性をともなうものでないかぎり投入しない②同盟関係を強化させるとともに、同盟諸国にグローバル・ステークホルダーとしての貢献を期待する③長期的展望の下に、世界の脅威に対しては内容を見極め相応に対応④同盟諸国首脳との個人的関係重視―の4点を挙げた。

 その後バイデン氏は昨年、こうした基本姿勢をさらに肉付けし、自分が実際に大統領になった場合の包括的外交・安全保障政策について、外交専門誌「Foreign Affairs」(3-4月号)で詳細にわたり説明した。そのハイライトは以下のようなものだ:

 「オバマ大統領と私がホワイトハウスを去った2017年1月20日以来、世界におけるアメリカの信頼と影響力はあらゆる側面で減退した。北朝鮮からイラン、シリアからアフガニスタン、ベネズエラにいたるまで、トランプ政権は無策を極めた。彼はわが同盟諸国、敵対諸国の見極めもなしに貿易戦争を仕掛け、わが国を疲弊させたのみならず、世界の脅威に挑戦する集団的行動を起こすためのアメリカのリーダーシップを放棄した。私は大統領として、アメリカデモクラシーと同盟関係再建、米国経済の未来防衛のために直ちに行動を起こす。そして今一度、世界のリーダーとなる」

 「(トランプ政権とは対照的に)ホワイトハウスが民主主義の守護神となり、その価値を世界に示す。そのために、大統領就任1年以内に、世界の民主主義国家指導者を招き、『民主主義のためのグローバル・サミット』を招集、自由主義世界の共通価値と目的を新たに確認する。同サミットには、民主主義の最前線に立つ世界の社会組織、民間団体も参加が認められる。この中には、中国などにおける人権抑圧、デマ情報拡散の抑制が求められるSNS企業なども含まれる」

 「第二に、アメリカがグルーバル経済に勝利するため、とくに中国その他の国との競争に打ち勝つために、民主主義諸国が持つ革新的優位性を最大限活用、その経済力を結集させる。そして(中国などによる)目に余る経済行為や不公平慣習の減少をめざす。経済安全保障は国家安全保障であり、国民の安寧維持のために公平公正な貿易が不可欠である。中国はアメリカにとっての挑戦者だが、貿易ルールを作るのは中国ではない。わが国がリードしていかなければならない。この点でわが国は中国に対しタフになる必要がある。中国の挑戦を受けて立つのに最も効果的方法は、わが同盟諸国、パートナーによる共同戦線を構築し、中国の常道を逸脱する様々な行動や人権違反に直接向き合うことである。わが国は世界全体のGDPの4分の1を占めており、これに民主主義諸国を加えればパワーは倍以上になる。中国は世界経済の半分以上の存在を無視するわけにはいかなくなる」

 「外交面においてトランプ政権は、NATOはじめ同盟諸国との関係を打ち壊し、信頼を失墜させてしまった。わが同盟諸国は防衛面で応分の負担をする必要があり、オバマ政権下でもNATO諸国に対し、防衛費の増額を働きかけてきた。しかし、同盟関係は金銭の問題ではない。アメリカのコミットメントは神聖なものであって、金銭的取引の対象であってはならない。我々はわが国のパワーを強化し、プレゼンスを世界に拡大し、同盟諸国とのグローバルな責任を共有するとともに、アメリカのインパクトを増幅させることになる。それは、北アメリカ、欧州にとどまらず、オーストラリア、日本、韓国3国との同盟関係強化、そしてインド、インドネシアに至る広範囲な地域における民主主義ネットワークづくりを意味する」

 「北朝鮮について、私はわが同盟諸国、および中国を含めた他国とともに、北朝鮮非核化という共通の目的めざし、継続的かつ協調した政策運営を交渉実務者に早期にスタートさせる用意がある。(2021年2月期限切れとなる米露間の)新START(戦略兵器削減条約)についても、両国間の戦略的安定性を維持するための錨であり、延長の道を追求する。さらに、核兵器の果たす役割縮小に向けてのアメリカのコミットメントを具体的に示していくことになろう。すでに述べてきたとおり、アメリカの核兵器保有の唯一の目的は、核攻撃に対する報復能力維持にある。この考えを徹底させるために米軍および同盟諸国と緊密に協議を重ねていく」

具体的な外交・安全保障政策

 上記のようなバイデン氏の発言および見解を咀嚼すると、第46代米国大統領が推進するより具体的な外交・安全保障政策には、以下の要素が含まれると想定される:

 1. トランプ政権が大きなダメージを与えた同盟諸国との関係修復・強化にただちに着手する。できるだけ早期に日欧主要国首脳との会談を行う

 2.NATOおよびアジア太平洋における日本、韓国、オーストラリア同盟諸国については、引き続き防衛分担の増強を求めるが、これらの諸国に対するアメリカのコミットメントを(前政権のような)金銭的取引の対象としない

 3.中国の存在を最重要視し、中国の世界経済に対する挑戦に対処していくため、価値観を共有する「世界の民主主義国間の連帯coalition of world democracies」構築に早急に着手する

 4.世界各国との通商においては、アメリカ国民の利益を守るため、相手国に対し「公平・公正なルール」の順守を求めていく

 5.米軍事力の投入は目先の短期的目的のためではなく、長期的で戦略目的に合致したものでなければならない。「世界の警察官」となるのではなく、資源配分を厳格化する

 6.北朝鮮核問題については、切迫した脅威であり、中国含め近隣関係諸国と緊密な連携の下に「非核化」実現に向けて協議していく。トランプ前大統領の時のような米朝首脳会談に安易に応じるつもりはなく、経済制裁強化を含め北朝鮮に対し厳しい姿勢で臨む

 7. 世界における核拡散に歯止めをかけるため、ロシアとの核軍縮交渉を再開させるほか、イラン、サウジアラビなど中東地域の核開発問題をこれまで以上に重視していく。トランプ政権が破棄した「イラン核合意」については、英仏独中露の5か国との再協議の上、イランに対し、核開発の凍結と条約破棄以前への原状復帰を求めていく

 一方、過去4年間のトランプ政権を振り返ると、包括的かつ多岐にわたる要素を盛り込んだ「ドクトリン」と呼ぶにふさわしい理念、基本方針は皆無だった。あったのは「アメリカ・ファースト」のスローガンと行き当たりばったりのトランピズムだけだった。そして外交面の“負の実績”として

①パリ協定離脱
②TTP脱退
③イラン核合意破棄
④WHO脱退
⑤同盟関係の弱体化―などが挙げられるが、これらはすべて前任者のオバマ政権の成果抹消を意味した。

 4年後の今、今度はバイデン新大統領が、トランプ政権の残した“負の実績”の清算を迫られることになる。民主、共和2大政党間政争にひきずりまわされる米国政党政治の弱点を露呈させる結果となった。』