リチウムイオン電池素材競争、中国台頭 瀬戸際の日本

https://www.nikkei.com/article/DGXZQODZ139U50T10C21A1000000

『脱炭素で重要な役割を担い、ノーベル化学賞受賞者も輩出した日本のお家芸のリチウムイオン電池材料。その雲行きが怪しくなっている。電気自動車(EV)など電動化の需要に日本勢がついて行けなくなりつつある。セパレーター(絶縁体)では旭化成が中国メーカーにシェア首位を奪われた。電池メーカーではパナソニックに代わって中国勢が台頭する。日本の素材産業はサプライチェーンの変化の波を乗り越えられるか。

中国のセパレーターの単価、日本の半分程度
「2019年以降のセ…

この記事は会員限定です。登録すると続きをお読みいただけます。

残り2987文字

初割ですべての記事が読み放題
今なら2カ月無料!

有料登録する
https://www.nikkei.com/r123/?ak=https%3A%2F%2Fwww.nikkei.com%2Farticle%2FDGXZQOGN16C7X016122020000000&n_cid=DSPRM1AR08

無料登録する
https://www.nikkei.com/r123/?ak=https%3A%2F%2Fwww.nikkei.com%2Farticle%2FDGXZQOGN16C7X016122020000000&n_cid=DSPRM1AR08#free

ログインする
https://www.nikkei.com/login

「2019年以降のセパレーターの価格下落は想像以上だ」。住友化学の岩田圭一社長は自社想定を上回る市況の下落に危機感を募らせる。セパレーターはリチウムイオン電池の正極と負極を隔てるために使う薄い素材で、電池の中核素材。ノーベル化学賞を受賞した吉野彰氏が所属する旭化成や住化など日本勢が得意としていた。

ノーベル化学賞を受賞した吉野彰氏が所属する旭化成は、セパレーターの首位を中国に明け渡した。

なぜ、19年以降に価格下落のスピードがあがったのか。探っていくと、ある事実が浮かび上がった。中国勢の台頭という電池材料のサプライチェーンの構造変化だ。

旭化成は19年、主力のセパレーターの世界シェア首位の座を明け渡した。トップに立ったのは中国の上海エナジーで、18年比4ポイント増の18%のシェアだった。中国や韓国LG化学などの電池メーカーに納め、米テスラが中国で生産するEVにも搭載されているとみられる。

上海エナジーは現在、中国や東欧で生産増強を相次いで進めている。価格競争力も高く、「上海エナジーのセパレーターの単価は日本勢の半分程度」(業界関係者)という。中国勢がけん引するかたちで、市況の下落が急速に進む構図だ。

電池素材、中国勢が相次ぎ台頭

電池材料では上海エナジーのような中国勢が台頭する。矢野経済研究所によると、19年の世界出荷シェアは14年比で正極材、負極材、セパレーターで15~20ポイント増えた。一方の日本勢は軒並みシェアを落とした。パソコンやスマートフォンなど電子機器から車載向けへの電池市場の転換や、中韓勢の電池メーカーの台頭、そして世界的なEV化推進の潮流が背景にある。

電池素材の車載向けシフトは急速だ。リチウムイオン電池の出荷量の構成比率は電動車向けが19年の57%から23年には全体の71%に急拡大する見込み。自動車向けは電子機器用に比べて電池の容量が大きくなる。コスト要求も厳しくなり、量産勝負になってしまう。

供給先の電池メーカーでも中韓勢の台頭が著しい。19年は車載向けの世界シェアでは中国の寧徳時代新能源科技(CATL)が首位に立った。LG化学も米ゼネラル・モーターズとの合弁で大型投資するなど、急速に出荷量を増やしている。

一方、業績が低迷するパナソニックは、テスラと共同運営する巨大電池工場「ギガファクトリー1」に巨額投資をして以降、大規模な電池投資に踏み切れていない。20年4月にはトヨタ自動車と車載電池事業の共同出資会社を発足したが、パナソニックの出資比率は49%で、経営の主導権をトヨタに渡した。電池事業で機動力を失い、テスラの中国生産分への供給は中国や韓国の電池メーカーが中心になっている。

日本の電池素材メーカーもLG化学など海外電池メーカーに納入実績があるが、主な納入先はパナソニックだ。中韓メーカーが取引する現地素材メーカーとはコスト面などで苦しい戦いになる。

CATLは車載リチウムイオン電池分野で急速にシェアを拡大している(同社の電池工場)
実際、CATLは電池素材を主に中国メーカーから調達しており、「日本に頼る必要性は低い」(CATL幹部)と言う。日本勢が劣勢に回るなか、「パナソニックにはなんとか頑張って欲しい」(日系化学メーカー幹部)との声が漏れる。

車載向け電池は今後、一段と需要が拡大する。欧米や中国メーカーのEVシフトが、世界のガソリン車規制と並行して進むためだ。英国が30年、仏が40年にガソリン車の新車販売を禁止する方針を表明した。中国も35年をメドに新車販売をEVやハイブリッド(HV)車などに限る方針だ。

EV普及の課題である電池コスト削減を目指すテスラは20年9月、電池のセルを自社生産する方針を表明した。電極素材や製造工程を抜本的に見直し、容量当たりの生産コストを現在に比べ56%引き下げる計画だ。米ゴールドマン・サックスは蓄電池のコストは27年に1キロワット時あたりのコストが、19年比で半分の100ドルを切ると予想する。

中国台頭で岐路に立つ日本の電池素材メーカー

ただ、日本の化学メーカーからは「テスラの内製化とは距離を置きたい」との声が相次ぐ。コスト要求が厳しくなり、製造する電池の安全性の担保に不安があるためだという。では、こうした状況下で日本の化学メーカーはどう戦うのか。

生産増強やコスト削減に動くのは三菱ケミカルや住化だ。三菱ケミカルは電解液の生産で数十億円を投じ、23年までに米国と英国、中国の各工場の設備を増強し、生産能力を現在より5割増の年9万トンに増やす。増強は生産プロセスのデジタル化が中心となる予定で、在庫管理システムの導入や原料の投入や計量の自動化を進めて少ない投資で生産能力を高める戦略だ。

住友化学も車載向けに使われるアラミド樹脂を使ったセパレーターの生産改善を進め、製造コストを17年比で4割削減を目指す。

一方、東レは車載向けの量産競争に距離を置く姿勢だ。22年までにハンガリーでセパレーターを生産増強するが、その後の増産計画は白紙だ。日覚昭広社長は「車載向けはもうからない。車載はハイエンドに特化し、強みが生かせる民生向けも強化したい」と語る。

大和証券の梅林秀光シニアアナリストは「車載向けは先行投資が重い。原料調達力より加工技術が求められる領域や放熱材料などニッチな分野から勝負する発想が必要だ」と話す。

中国勢と提携する動き、日本では再編も

環境性や安全性など技術に活路を求める動きもある。三菱ケミカルは負極材で製造時の環境負荷が低い天然黒鉛を使った製品の量産化を計画する。電池容量の低下につながる充放電の許容回数が2倍にする技術を確立しており、自動車向けへの採用を23年にも実現したい考えだ。東レも容量を2~3倍にすることができる金属リチウムを使った電池向けのセパレーターを開発した。3~5年後の製品化を目指す。

中国の電池素材メーカーが台頭するなか、アライアンスで中国勢と強みを持ち寄る動きも出てきた。帝人はリチウムイオン電池のセパレーターにコーティングを施す事業を行う。コーティングで電池容量を大きくしたり、安全性を高めたりできる。この製造に関する技術ライセンス契約を19年に上海エナジーと結び、20年末には対象となる技術と用途を広げた。帝人の鈴木純社長は「車載向けは市場規模が非常に大きい。自社生産は一定規模にとどめ、外部に製造委託する考えだった」と話す。

中国との競争が激しくなり、今後、多数のメーカーが競う日本では事業再編も進みそうだ。電解液では三菱ケミカルと宇部興産が20年に中国に加え、日本でも事業を統合した。三菱ケミカルは電解液で300弱の特許を持つ。宇部興産の泉原雅人社長は「知財も含めて三菱ケミカルと事業を統合し競争力を高めた」と話す。

三菱ケミカルの英国の電解液工場

最終製品を作り上げるメーカーが競争力を失うと、そこに連なる部品・素材メーカーの弱体化につながる。素材は装置産業で、大規模な設備が伴う。投資から回収までビジネスの息が長いが、急速な環境変化に対応する経営の柔軟性の向上が課題となる。

電子部品や半導体製造装置メーカーのように、日本の最終品メーカーが力を失っても、常に先頭集団を走る最終品メーカーの上位企業に食らいつき続け、世界で競争力を高めている部品・素材メーカーは多い。電池素材という日本のお家芸を残すには、サプライチェーンの変化に向き合い、事業構造を転換できるか否かがカギを握る。

(企業報道部 福本裕貴、岩野恵)

日経産業新聞をPC・スマホで!今なら2カ月無料

 スタートアップに関する連載や、業種別の最新動向をまとめ読みできる「日経産業新聞」が、PC・スマホ・タブレット全てのデバイスから閲覧できます。直近30日分の紙面イメージを閲覧でき、横書きのテキストに切り替えて読むこともできます。今なら2カ月無料の初割実施中!

詳細はこちらから https://www.nikkei.com/promotion/service/ss_viewer/?n_cid=DSPRM1AR10

日経産業新聞