ジョブ型を甘くみるな 人事・組織、根本から見直しを

ジョブ型を甘くみるな 人事・組織、根本から見直しを
編集委員 水野裕司
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『経団連は19日に公表した春季労使交渉の企業向け指針で、「ジョブ型」雇用制度の積極的な導入を呼びかけた。職務ごとに最適な人材を充てるこの制度は企業の競争力強化策として関心が高まってきたが、従来の人事や組織を根本から見直す必要があり、安易な導入は禁物だ。どうすればジョブ型雇用をうまく実践できるのだろうか。

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ジョブ型制度は社内各ポストの職務内…

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ジョブ型制度は社内各ポストの職務内容を明確にし、その能力を持った人材を起用する。入社年次にとらわれず、有能な社員ほど難易度が高く待遇も良いポストに就くことができる。年功賃金や順送り人事を否定する人事処遇制度だ。

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肝は、社員間の競争を活発にする点にある。専門的な知識や技能が必要で報酬も高い職務に就くには、自らの能力を向上させなければならない。ポスト獲得競争を通じて個々人のレベルを引き上げ、企業の成長力を高めることがジョブ型制度の眼目だ。

高い賃金に見合った成果が出せていない中高年社員の人件費抑制策――ジョブ型雇用をそうとらえるだけでは、本質を見誤る。組織・人事コンサルティング大手マーサージャパンの白井正人取締役は、企業に求められるのは「社員個人の自律的なキャリア形成を促すこと」だと話す。

社員が就きたいポストに立候補できる仕組みがなければ、自らの能力を伸ばそうという意欲も高まりにくい。自分のキャリアを自分で切り開けるようにする手立てのひとつは、ポストの公募制だ。

2020年10月、全管理職約5千人にジョブ型の人事制度を導入した三菱ケミカルは、まず約200のポストの人事を社内公募で決めることにした。今後、公募対象のポストを広げる。3カ月ごとに公募を実施するという。

デジタル化とグローバル化が進み、経営環境の変化は激しさを増している。コロナ禍の収束が見通せず、世界経済の先行きは混沌としてきた。企業は環境変化に合わせて経営戦略や事業モデルを柔軟に変えていく必要がある。管理職も専門性やマネジメント能力を高め続けなければならず、公募制はそれを後押しする。

公募制は会社主導の人事異動の軌道修正を迫る。社員が雇用保障と引き換えに異動や転勤の命令に従ってきた日本型雇用の転機ともいえる。会社と社員の関係にもジョブ型雇用は変化をもたらしそうだ。

他部署の仕事を経験できる「社内副業」も、社員のキャリア形成を支援する仕掛けになる。

ジョブ型人事制度を21年から本格導入するKDDIは、社内公募制に加え就業時間の約2割を目安に所属部署以外の業務ができる社内副業制度を設けた。持ち場以外の仕事を実際に経験することは、キャリア形成上、いい刺激になる。

経団連は新卒入社者もジョブ型制度の対象とするよう求めている。KDDIはまだ少ない例のひとつだ。21年4月に入社する新卒者約270人の約4割は「ジョブ型採用」1期生。データサイエンス、法務、会計など、配属する業務を約束して採用した。

「若い社員ほど新たな挑戦がしやすく、異なる分野へ仕事の幅を広げやすい。ジョブ型は若手を対象にしてこそ意味がある」(白井氏)。日本企業のジョブ型導入は現在、管理職が中心。幅広い年齢層への展開が課題だ。

権限移譲もジョブ型雇用では求められる。ジョブ型が定着した欧米企業では、各部署のリーダーの重要な役割は組織の力を最大化できる「ベストチーム」をつくることだ。トップの方針に沿って組織の目標を立て、その達成に貢献できる人材を集める。人材の採用権限は各組織にある。

ジョブ型制度を管理職から拡大する計画の富士通は、採用権限を順次、各事業部門に移していく考えだ。事業戦略をもとに、新卒・中途とも通年で各部門が採用する。人事部が一括して調達し、社内に割り振ってきた日本企業の採用は、ジョブ型の浸透とともに変わらざるを得ない。

ジョブ型雇用は本来、社外からも多様な経験を持った人材を集め、環境変化への対応力を高めるための制度だ。日立製作所が全社的なジョブ型制度の導入を急ぐのも、デジタル化が急速ななかで企業が成長するには人材の流動性の向上が不可欠と判断したからだ。技術革新やグローバル競争の最前線にいる企業ほど、ジョブ型雇用は適している。

改革が社内で実力主義を徹底するといった狙いからなら、あえて労力のかかるジョブ型を導入しなくても道はある。「目標管理制度をしっかり機能させ、仕事内容と賃金をきっちり連動させれば、課題を解決できる企業が多いのではないか」とリクルートワークス研究所の中村天江主任研究員は指摘する。どんな雇用制度を採るべきかは目的によって異なってくる。何のための雇用制度改革か、明確にすることが先決だ。

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野崎浩成のアバター
野崎浩成
東洋大学 国際学部教授
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別の視点 現在多くの日本企業が抱える問題の本質は、雇用形態の問題ではなく、人事制度の根幹の問題ではないでしょうか。

昇格はさておき、昇進と人事評価を結びつけることが年次管理であったり、マネジメント能力の欠如する上席者を作ってしまいます。

管理能力と仕事の評価を分けて、前者とポスト、後者と報酬を結び付ければ、よりシンプルにインセンティブ設計ができると思います。
2021年1月20日 14:01いいね
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鈴木一人のアバター
鈴木一人
東京大学 公共政策大学院 教授
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別の視点 ジョブ型の雇用が定着することになれば、大学などのキャリア前の教育の在り方も変わっていく。学生はより即戦力としての能力をつけられるような学部や大学院に集中し、教養的な学問は敬遠される可能性はある。若手のうちにジョブ型のキャリアを積んでいくとなると、将来管理職の地位に上がっていくにつれ、そうした教養や視野の広さが必要になった時に、そうしたバックグラウンドがないまま狭隘な実学的世界でしかものを見られない人材になってしまう。その意味でも大学教育では視野を広げるような学問をしっかりと教え、新卒学生だけでなく、管理職になっていく人たちのための学問も考えていかなければならないかもしれない。
2021年1月20日 13:54いいね
12

石塚由紀夫のアバター
石塚由紀夫
日本経済新聞社 編集委員
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ひとこと解説 ジョブ型雇用は企業の競争力を削ぐ――本場欧米では、こんな見方も広がっています。
生産性向上には新技術導入や業務プロセス合理化などが必須です。ただジョブ型雇用だと、こうした生産性向上策は自分の仕事の削減・消滅につながるため、当事者は技術革新に消極的な行動を取りがちだという指摘です。
日本型のメンバーシップ型雇用であれば、目先の仕事がなくなっても社内でジョブチェンジできます。そのため雇用者も経営効率化を最優先し、最善の生産性向上策を導入できました。
いずれにせよジョブ型雇用の課題は出口戦略。辞めてもらうか、ほかのジョブに就け替えるか。今、安易にジョブ型雇用を導入しても将来に禍根を残します。
2021年1月20日 12:39いいね
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山本康正のアバター
山本康正
DNX Ventures インダストリーパートナー
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別の視点 サッカーなどのスポーツの強豪で、年次でチームメンバーを決めることはあるでしょうか。まずないと思います。攻めのプロは攻めのプロ、守りは守りのプロがいると思います。これまでの考え方はゴールキーパーをさせて、フォワードをさせてと主要なポジションを経験させてから社長というキャリアパスだったと思いますが、今の時代は違うと思います。更に言うと、データの活用によってビジネスモデル自体が変動しているため、サッカーから突然ラグビーにスポーツのルールが突然変わっている様な状態です。チームメンバーを社内補充だけではまず負ける可能性が高いです。同窓会組織の活用など、あの手この手で外の知見も取り込まなければなりません。
2021年1月20日 11:38 (2021年1月20日 11:40更新)
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