SNS騒乱後の起業文化 モラル・ルール・対話が肝心

SNS騒乱後の起業文化 モラル・ルール・対話が肝心
本社コメンテーター 村山恵一
https://www.nikkei.com/article/DGXZQODB14B540U1A110C2000000

※ 抑制の効いた、穏当な論だ…。

※ 一部の「業界」を制覇してしまうと、「神にでもなったかのような、万能感」に見舞われる…、ということがあるんだろう…。

※ しかし、その「神に祭り上げている人々」は、「単なる個々の人間」にすぎない…。

※ いとも簡単に、担いでいる「神輿」を放り投げて、さっさと去って行く…。

※ 後に残るのは、「かつて神だったものの残骸」だ…。

『15年前、米サンフランシスコで一人の起業家を取材した。ブログを書くためのソフト「ブロガー」を開発し、グーグルに売却して有名になったエバン・ウィリアムズ氏。このときは個人が声や音を録音し、インターネットで流すサービスの会社、オデオの最高経営責任者(CEO)だった。

「人々が情報発信の手段をもつことで、多くの知識や芸術、真実、娯楽が世の中に広がる」。ほどなく同氏はこの考え方を発展させ、短文をネットで送…

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・ほどなく同氏はこの考え方を発展させ、短文をネットで送り合うサービスをジャック・ドーシー氏らと世に送り出した。ツイッターだ。

・2000年代半ば、ネット業界は誰でも情報を受発信できる「ウェブ2.0」時代の到来に沸いていた。利用者の自作コンテンツが増殖し始め、ツイッターとフェイスブック、ユーチューブの3社が成長の階段を駆け上がる。

・そのSNS(交流サイト)をめぐって騒乱と呼ぶべき事態が起きた。ネットの理想を語ったウィリアムズ氏が予想もしなかった展開のはずだ。

・暴力扇動の危険があると8日、ツイッターはトランプ米大統領のアカウントを停止した。ほかの2社も対応は似る。大統領の支持者が多く使うSNS「パーラー」は、アマゾン・ドット・コムがクラウド接続を止めるなどテクノロジー各社が利用制限に動いた。

・暴力を避ける緊急措置だったかもしれないが、まるでスイッチを切るように個人や組織をSNSから排除できるテック企業の力が明白になった。表現の自由のあり方を企業が決めていいのかとメルケル独首相がツイッターの対応を問題にするなど批判の声が上がる。

・ツイッターは暴力扇動の危険があるとしてトランプ大統領のアカウントを永久停止にした(写真はトランプ氏支持者らが押し寄せた米議会、6日)=ロイター
言論の場としてインフラ化したSNS。恣意的な運用は許されない。透明で納得のいく基準がいるが、SNSの歩みを振り返ると、問題に出くわすごとに対処するパッチワークの印象をぬぐえない。

・なぜこうなったのだろう。

・ネットが普及したこの20年あまり、社会にテクノロジーを広げたのは米国勢を中心とするスタートアップ企業だ。ネットに魅せられた起業家が次々現れ、「もっと成長を」と投資家が背中を押した。

・猛スピードで規模を追い、既存のしくみをディスラプト(破壊)する。そういう文化が起業の世界で支配的になった。野心的な試みを促し、市場創出や利便性向上の恩恵があったのは間違いないが、問題も潜んでいた。

・まず、モノカルチャー(単一文化)の弊害だ。

・スタートアップでは中核メンバーが高学歴の若い男性ばかりという例がよくある。足並みをそろえ素早く動くのに都合がいい。しかし気づかないうちに思考が偏り、テクノロジーの副作用を見過ごしやすい――。そう分析するテック関係者がいま目立つ。

・現状に反発するカウンターカルチャー(対抗文化)の精神は革新の原動力となってきたが、ここにも落とし穴がある。テクノロジーが社会に与える影響が拡大したにもかかわらず、幅広い利害関係者との対話が後回しになった。

・こうした風土のなかでSNS大手も育った。億人単位の利用者を抱えて自信を深め、テック万能の発想に陥らなかったか。SNSの投稿・共有は人の感情を高ぶらせ、慎重な判断を妨げるとする神経科学の研究がある。人間心理に対する影響の検証、倫理に気を配るサービス開発はできていたか。聞きたいことはいろいろある。

・ここからが肝心だ。

・社会を分断する偽ニュースを放置してきたなどとSNSへの不満・疑念を募らす米国。バイデン政権の発足を機に、運営会社は投稿に責任を負わないとする通信品位法230条の見直しが進む可能性がある。どんなルールがのぞましいのか、SNS各社は当局とオープンに議論し、過去に学んだことを率直に語るときだ。

・ウォルト・ディズニーは16年、コンテンツ配信に役立つとツイッターの買収を検討したが、土壇場で断念したという。ヘイトスピーチや選挙介入の問題を懸念したからだ。確かに表現の自由と、社会の安全の両立はむずかしいテーマだ。それでも最適解を追ってこそ真のSNS起業家といえる。

・同様に今後生み出されるテクノロジーはプラス、マイナス両方の影響を想像できる起業家が担わないといけない。成長一辺倒でなく、社会との調和をめざす「ゼブラ企業」を増やそうという米国発の潮流など変化の芽はある。SNS騒乱を境に、新たな起業文化への移行が加速するのではないか。

・「スタートアップは創業時からのモラル醸成が大事。急成長してからでは追いつかない」。ベンチャーキャピタル(VC)、ANRIの佐俣アンリ代表パートナーは言う。法律や規制があいまいなグレーゾーンだからと、間隙をついて突っ走るような起業家は社会とずれ、行き詰まるとみる。

佐俣氏(右から2人目)が率いるベンチャーキャピタルのANRIはスタートアップのモラル醸成に力を注ぐ

・テクノロジーを有効活用するルールづくりと、そのための行政・政治との対話。これらが重要だと投資する起業家に説いている。女性起業家を増やす目標も立てた。

・共感される事業を手がけ、従業員や顧客に胸を張れる起業家でないと求心力をもてない。VC、インキュベイトファンドの代表パートナー、和田圭祐氏の見方だ。

・「起業は行儀よく、おとなしく」というのではない。斬新なテクノロジーには社会に許容され根づくための条件がある。それを満たす活発な努力もセットで起業だ。そういう時代になっている。

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