反転攻勢に出るパレスチナ自治政府

反転攻勢に出るパレスチナ自治政府
国際部 横田勇人
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『イスラエル寄りの姿勢を隠さなかったトランプ米大統領の下で孤立していたパレスチナ自治政府が外交攻勢に出ている。国家樹立への道筋が見えない中でアラブ首長国連邦(UAE)などがイスラエルとの国交正常化に踏み切ったことは、「パレスチナの大義」が風化し、自治政府の存在感が低下していたことを浮き彫りにした。自治政府は20日のバイデン米大統領就任をテコに巻き返しを図る構えだが、道のりは険しい。

バイデン氏の勝利…

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・バイデン氏の勝利がまだ確定していなかった2020年11月末、パレスチナ自治政府のアッバス議長はエジプト・カイロを訪れて同国のシシ大統領と会談し、「パレスチナの大義はエジプトが優先する主要な政治課題であり続けている」との言葉を引き出した。その前にはヨルダンを訪問してアブドラ国王とも会い、パレスチナへの支持を求めた。

和平交渉に戻る意向伝達

・アッバス議長はアラブ連盟のアブルゲイト事務局長とも会談し、パレスチナの大義への支持を確認した。さらに21年の早い段階で中東和平に関する国際会議を開くとの自身の提案を歓迎するとの言質も取った。

・一方、自治政府は当選が確定しない段階でバイデン氏側にイスラエルとの和平交渉に戻る意向を伝えた。アッバス議長はイスラエルとの交渉再開を訴えることで国際社会での存在感を高め、長く続いた政治的劣勢から脱却したい考えとみられる。イスラエルに対しては昨年11月中旬、中断していた治安対策での協力を復活させると自治政府が発表するなど秋波を送っている。

・イスラエルが第三次中東戦争で占領した土地から撤退することと引き換えにアラブ各国がイスラエルと外交関係を結ぶとした02年のサウジアラビアによる提案は、今もアラブ連盟が公式に支持する。それにもかかわらずUAEがイスラエルとの国交正常化に踏み切ったのは、自治政府にすれば寝耳に水の裏切り行為だった。しかし、長期政権を維持するイスラエルのネタニヤフ首相が和平に消極的で膠着状態が長引く一方、アラブ世界でパレスチナ問題への関心が薄れ、「パレスチナの大義」が色あせていたことがその背景にある。

・サウジは今のところイスラエルとの関係正常化に動いていないが、実権を握るムハンマド皇太子はパレスチナ自治政府に同情的でないようだ。皇太子は以前、非公式な場で「パレスチナ人は和平を受け入れるか、さもなければ文句を言うのをやめて口を閉ざすべきだ」と語ったと伝えられている。

・占領下に置かれたパレスチナ民衆の苦境はアラブ諸国や国際社会の同情を買い、それが自治政府にとって外交上のテコとなってきた。しかし過激派組織「イスラム国」(IS)台頭による混乱やパレスチナよりさらに深刻なシリア内戦の悲劇で、パレスチナ問題への関心は相対的に低下した。

イスラエルを訪れたUAEの代表団らを空港で出迎えたネタニヤフ・イスラエル首相(中央)=ロイター

・その一方、3年半にわたって関係が断絶していたサウジアラビアとカタールが今年1月に和解に向けて動き出したことは、パレスチナ自治政府にとっては追い風となる。イスラエルに土地を返還してもらう立場のパレスチナにとって、一致団結してイスラエルに圧力を掛けることを期待するアラブ諸国が分裂していては話にならない。サウジとカタールの両国から援助を受けてきた自治政府は対立する双方から支持を求められ、アッバス議長は苦悩した。

バイデン政権発足で風向きは変わるか

・自治政府はバイデン民主党政権誕生で米国のイスラエル寄りの姿勢が修正されると期待するが、米国がパレスチナに「優しい」姿勢に転じると思うのは早計だろう。

・民主党のオバマ政権でブリンケン次期国務長官が副長官として仕えた当時のケリー国務長官は、任期中にイスラエルとパレスチナの和平合意を達成しようと仲介に全力を挙げたが難航した。イスラエルのネタニヤフ首相は同国がユダヤ人国家であることをパレスチナ側が認めるように強く求めた。結果を急ぐケリー氏は当初こそ難色を示したものの、ネタニヤフ首相の強硬姿勢を前にパレスチナ側にそれを受け入れさせようとする姿勢に転じ、アッバス議長は強く反発した。

・交渉難航を受け、ケリー氏は詳細を先送りして大筋での一致点を見いだす「枠組み合意」を目指す。しかしケリー氏の案にはイスラエルをユダヤ人国家と認めることに加え、パレスチナ国家の首都をイスラム聖地がある東エルサレムではなくエルサレム北部とすることが含まれていたため、アッバス氏は「気が触れている」と激怒したとされる。

バイデン政権で国務長官に就任するアントニー・ブリンケン氏(右)はオバマ政権で国務副長官を務めた=ロイター

・国務長官に就任するブリンケン氏は、ナチスドイツのユダヤ人強制収容所に入れられながら生き延びた義父を持つことで知られる。大統領選でバイデン氏の外交顧問を務めていた同氏は昨年10月末、イスラエルのメディアに「(バイデン氏は)ユダヤ人が滅亡の危機に再びさらされないためにはイスラエルにユダヤ人の祖国があることを保証するのが唯一で最良の方法だと強く信じている」と語った。バイデン政権はユダヤ人入植問題でイスラエルを厳しく批判したオバマ政権より同国に融和的な姿勢を取るとの見方もある。

・イスラエルでは3月の総選挙実施が決まったが、ネタニヤフ首相の右派リクードを2国家共存を否定するサール元内相率いる党が追う展開で、選挙結果が和平協議進展につながる展望は見通せない。長年にわたりパレスチナ側で和平交渉の先頭に立ってきたサエブ・アリカット氏が昨年11月に新型コロナウイルス感染で死去したことも和平の行方に影を落とす。バイデン大統領の誕生で急に視界が開けるほどパレスチナが置かれた状況は甘くはない。