「アジアの工場」主役交代? タイよりベトナムは本当か

「アジアの工場」主役交代? タイよりベトナムは本当か
アジア総局長 高橋徹
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 ※ 今日は、こんなところで…。

 ※ 良記事だ…。

 ※ 特に、途上国が中進国へと脱皮し、さらにその上へと「ランクアップ」を目指す場合に、どういうこと、どういう点に着目して考えたらよいのかの「分析の視点・観点」を、提示している…。

『東南アジアで新型コロナウイルスの感染抑制に成功してきたベトナムとタイ。世界保健機関(WHO)から模範と称賛された両国はしかし、2021年の幕開けに合わせたように差が生じ始めた。

ベトナムは市中感染が出るたびに厳格に封じ込め、累計感染者は1500人余りにとどまる。一方、タイは昨年12月19日、バンコク近郊の水産市場で働くミャンマー人の出稼ぎ労働者の間で大規模なクラスターが確認されたのを境に、感染が一…

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・一方、タイは昨年12月19日、バンコク近郊の水産市場で働くミャンマー人の出稼ぎ労働者の間で大規模なクラスターが確認されたのを境に、感染が一気に広がった。わずか半月で感染者数は倍増し、1月9日には1万人を超えた。

・コロナ禍以上に明暗を分けたのは経済状況だろう。20年の国内総生産(GDP)は、ベトナムが前年比2.9%のプラス成長を維持したのに対し、タイはアジア開発銀行(ADB)の直近予測で7.8%の大幅減に陥る見通しだ。

・勃興するベトナム、頭打ち気味のタイ――。そんな構図は、数年前から顕著になっており、コロナ禍が拍車をかけた形だ。両国の勢いの差を象徴するのが、最近のパナソニックの決断である。

タイは輸出や投資誘致でベトナムをライバル視している(19年11月、ASEAN議長国をベトナムのフック首相=右=に引き継ぐタイのプラユット首相)=ロイター

・タイで昨年9月に洗濯機、10月には冷蔵庫の生産を打ち切り、白物家電の生産をベトナムに集約した。タイは1961年に戦後最初の海外生産拠点を開き、63年には来日したプミポン前国王に松下幸之助氏が自らテレビ工場を案内するなど、縁の深い国だ。自動車部品や電池などの工場がなお残るが、外資誘致でライバル視するベトナムが移管先だったこともあり、タイ政府にショックを与えた。

・従来はタイが大容量、ベトナムは中容量の機種ですみ分け、いずれもアジア周辺国や中近東など十数カ国への輸出拠点でもあった。生産移管は昨年初めに決定し、コロナ禍とは関係がないという。

・なぜタイからベトナムか。ひとつは市場の要因だ。英調査会社ユーロモニターインターナショナルによると、19年の冷蔵庫、洗濯機の各市場規模はベトナムが280万台と227万台、タイは192万台と175万台。すでにベトナムの方が上回っているうえ、世帯普及率はタイの92%、70%に対し、ベトナムは74%、40%となお伸びしろが大きい。

・もうひとつは生産要因である。ベトナムは近年、労務費の上昇が著しいが、それでもタイの6割程度の水準にとどまっている。

・「白物家電は各国に特有の売れ筋があったため『地産地消』でやってきたが、アジア全体で都市化が進み、次第に似通ってきた。タイは市場がこれ以上は伸びないのに人件費は高い。生産集約は自然な流れだった」(パナソニックAPベトナムの太田晃雄前社長)

・タイは1980年代から「アジアの工場」として発展した。ベトナムへの製造業集積は2007年の世界貿易機関(WTO)加盟以降と遅いが、対内直接投資額は14年、輸出額も18年にタイを追い抜いた。米中摩擦やコロナ後の「脱中国」の受け皿として注目は高く、「これからはタイよりベトナム」とみる外資は増えている。

・本当にそうか。両国の経済構造を分析すれば、少し違った構図が浮かんでくる。

・第1はモノの輸出だ。ベトナムは4割が米欧向けだが、タイは3割を東南アジア域内が占める。特筆すべきはCLMV(カンボジア、ラオス、ミャンマー、ベトナム)と呼ぶ、メコン川流域の周辺後発国との貿易で19年に139億ドル(約1兆4500億円)の黒字を計上したことだ。貿易黒字全体が90億ドルだったので、CLMVを除けば実は赤字だったことになる。

・なかでも対ベトナムの貿易黒字は67億ドルと、対CLMVのほぼ半分に達した。消費財などで「メード・イン・タイランド」の人気は高く、ベトナムを中心に周辺国の成長力を取り込んでいる。

・同様の図式は第2のサービス輸出にも当てはまる。コロナ禍前の19年のタイの黒字は233億ドル。ベトナム(87億ドル)の3倍近くを確保した。モノと違い、国別の収支は分からないが、ここでも原動力は周辺国だ。

・昨年3~4月のコロナの感染第1波が収束した後、バンコク都心で東南アジア最大級の商業施設「サイアムパラゴン」「アイコンサイアム」などを運営するサイアム・ピワットのマユリー・チャイプロムプラシット上席副社長は「まずCLMVからの観光客の入国解禁を優先すべきだ」と訴えた。

・その時点でCLMVの国内感染が落ち着いていたからだけではない。平常時、来店客の4割は外国人だが、うち3割がCLMVから。しかも1度の来店で平均10万バーツ(約34万円)を使う「上顧客」なのだという。周辺国で増える富裕層・中間層の購買力の高さを示すエピソードである。

・そして第3は投資だ。対内直接投資ではベトナムの後じんを拝するが、いまのタイはむしろ対外投資国としての顔を強める。「対外」は19年まで4年連続で「対内」を上回り、前者は累積投資額でも後者の6割まで積み上がった。対外投資は単年・累積ともマレーシアを上回り、東南アジアではシンガポールに次ぐ存在になった。

タイ企業はベトナムへの投資を加速している(小売り大手セントラル・グループが展開するベトナムの店舗)

・投資が向かう先もやはりベトナムだ。「チャーン(象)ビール」のタイ・ビバレッジや小売り大手のセントラル・グループ、素材のサイアム・セメント・グループ(SCG)など、外資との提携で力を蓄えたタイ企業が次々と大型投資に踏み切る。

・モノとサービスの輸出や投資においてCLMV、とりわけライバル視するベトナムの発展が、タイの成長のカギを握る図式が強まっている。日本経済研究センターの牛山隆一主任研究員は「タイ経済はメコン諸国との関係が緊密化する、いわば『メコン化』と呼べる現象が進展している」とみる。

・その原点は30年前にさかのぼる。「インドシナ半島を戦場から市場へ」。1988年、当時のチャチャイ首相が提唱した構想が、ついに現実となってきた。タイ自身を含むメコン圏の人口2億4千万人は、世界4位のインドネシア(2億6700万人)に匹敵する。陸続きの「域内内需」の取り込みが今後のタイの生きる道であり、アジアの工場の座をベトナムと争う必要は必ずしもない。

・タイに5500社が集積する日本企業は19年、対内投資申請額で初めて中国に追い抜かれた。ただ累積投資の厚みを考えれば、メコン内需へのアクセスで圧倒的な優位にある。タイ経済の「現在地」を冷静に見極め、既存拠点やタイ企業との協力関係をどう生かすか。投資の規模よりも、そうした戦略の巧拙が問われる局面といえる。

=随時掲載

高橋徹(たかはし・とおる) 1992年日本経済新聞社入社。自動車や通信、ゼネコン・不動産、エネルギー、商社、電機などの産業取材を担当した後、2010年から5年間、バンコク支局長を務めた。アジア・エディターを経て、19年4月からアジア総局長として再びバンコクに駐在。論説委員を兼務している。著書「タイ 混迷からの脱出」で16年度の大平正芳記念特別賞受賞。