インド、経済孤立で「貧する大国」の懸念

インド、経済孤立で「貧する大国」の懸念
ニューデリー支局 馬場燃
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGM055VB0V00C21A1000000

 ※ 発展途上国が、人口ボーナスを利用して「中進国」へと脱皮を図ろうとする戦略は、ほぼ同じものだ…。

 ※ 分厚い「労働人口」を利用して、「中間層」へと育成し、「国産品の消費」を促進して、農業国から工業国へと変身を図る…。
 
 ※ しかし、そういうことに「成功した国」は、数えるほどしか存在しない…。

 ※ 抱えている膨大な「農民」を、「商業・工業従事者」へと変身させるのは、至難の作業だ…。

 ※ 初等・中等教育を充実させて、教育環境を整備すれば足りる…、と机上の計画通りに、現実の姿は運ばない…。

『インドは東アジア地域包括的経済連携(RCEP)への参加を見送り、国内に自立した経済圏を創る構想に向け歩み始めている。中国との国境対立も背景に地場産業を底上げする独自の道をめざしているが、インドが世界経済のなかで孤立する懸念がぬぐえない。いずれ中国を抜いて世界最大の人口に膨れあがるインドの課題は地場産業を着実に発展させて雇用の受け皿を増やすことだ。さもないとインドは将来「貧する大国」に陥る恐れが出て…

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・さもないとインドは将来「貧する大国」に陥る恐れが出てくる。

新型コロナウイルスの影響で失職した多数の出稼ぎ労働者は、徒歩での帰郷を強いられた=AP

・「半年以上も仕事に就けない状況が続いている」。インド北東部ビハール州出身のラム・シャルマ氏(31)は厳しい表情を浮かべる。かつては大都市の建設現場で働いていたが、新年を迎えても職が見つからない。

・人口1億人を超える同州はインドのなかでも経済発展が遅れる地域の一つで、首都ニューデリーなどに多数の出稼ぎ労働者を送り込んできた。ただインドは新型コロナウイルスの感染者が米国に次ぐ累計1000万人を突破し、経済活動の正常化が遅れている。インドの経済成長率は2020年4~6月期にマイナス23.9%と世界主要国のなかでも大きな落ち込みとなり、特に貧困層が打撃を受けた。インドの国内市場では輸入した商品や農産物の物流が滞るなどサプライチェーン(供給網)にも支障を来した。こうした事態を踏まえ、インドは産業政策の転換にカジを切った。

地場企業に補助金支給

・「インドで作られた製品をもっと普及させるようにしよう」。インドのモディ首相は20年12月末のラジオ番組で国民にこう呼びかけた。モディ氏は20年5月以降、インドに自立した経済圏を創る構想を打ち出した。貿易赤字の主因になっていた中国製品をインドの国内市場から排除し、なるべく地場製品に切り替えるよう動き始めた。インド政府は通信や自動車などの地場企業が売り上げを増やすと特別な補助金を支給する仕組みも導入した。20年11月に日中韓などの15カ国が署名したRCEPにも加わらず、インドは「鎖国」にも映る政策を取り入れた。

・多国間貿易の枠組みに背を向け、中国にも強硬な姿勢をみせつけるのはなぜか。背景にはインドが有する巨大な国内需要の伸長に期待している一面があるだろう。製造業などの競争力が弱いうちは世界とあえて戦わず、国内市場の開拓に注力するのかもしれない。

・国連の予測によると、インドの人口は30年までに15億人台に増え、その過程で現在は世界最大の中国を追い抜くとされる。人口増加に伴い中間層が台頭すれば、内需がさらに拡大するとの見方がある。まずはインドの市場ニーズにあった製品を地場企業が作りあげ、商品開発や価格競争の力が高まれば海外に輸出する――。こんな戦略が透ける。

インドは2020年11月に日中韓など15カ国が署名したRCEPへの参加を見送った=AP

・この前提に欠かせないのはインドの持続的かつ高い経済成長だ。インドの経済成長率は14~17年度の間に7~8%の高い水準を維持していた。この頃であれば、将来の中間層台頭のシナリオも説得力が十分あった。ただ、その後はノンバンクの経営危機や不良債権問題などが浮上し、成長率は18年度に6.1%、19年度は4.2%に急低下している。インドの中央銀行は20年度の成長率はマイナス7.5%と過去最悪を見込んでおり、インド経済がいつ持ち直すのかも判然としない。

・人口増加は成長が持続できないと、インド経済の足を逆に引っ張りかねない。

・民間調査会社の調べでは、14億人弱の人口を抱えるインドは新型コロナウイルスの影響で20年4月の失業率が25%台と約1億2000万人が失職したとみられる。20年12月の失業率も約9%に高止まりしており、個人消費を停滞させている。

「雇用なき低成長」の恐れ

・世界銀行によると、インドの15歳以上の労働人口は25年までに毎月130万人ほどのペースで増える。働き手が急増するなかで雇用を安定させるには年間800万人規模の新規雇用が必要になるという。この条件が満たされないと「雇用なき低成長」にインドが苦しむ可能性があると警鐘を鳴らす。

・世銀の試算では、インドの19年の1人あたり国内総生産(GDP)は2000ドルほどにすぎず、世界のなかでも後発グループに属する。世界の中間層の平均は約5500ドルにのぼり、現時点でも3倍近くある。インド経済が今後も低成長にとどまり続けると、雇用や賃金が増えずに人口だけが膨らむ「貧する大国」に陥りかねない。この場合は1人あたりGDPも停滞するだろう。

・インドメディアのなかでもRCEPの多国間貿易で競い合わず、どのように地場産業を強化できるのか疑問視する論調がある。ただ国内市場の足場固めをまず選んだインドは、外資企業の技術や資金も生かしながら地場産業の裾野を広げるしかない。インド国内に残る土地や労働法をめぐる複雑な規制の緩和も課題になりそうだ。

グローバルViews https://www.nikkei.com/theme?dw=17110100
いま大きく揺れ動く、世界経済。 自分か。自国か。世界か。このコラムでは、世界各地の記者が現地で起きる出来事を詳しく解説し、世界情勢の動向や見通しを追う。 今後を考えるために、世界の“いま”を読み解くコラム。

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