さらばプロレス大統領 対立あおり内外に分断

さらばプロレス大統領 対立あおり内外に分断
論説委員長 藤井 彰夫
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『2017年1月の就任以来、世界をざわつかせてきたトランプ米大統領。6日には支持者が暴徒化して米議会に乱入、死者を出す異常事態に発展した。閣僚ら政府高官が相次いで辞意を表明、トランプ劇場の終幕が近づいている。この喧騒(けんそう)の4年間は一体何だったのだろうか。

6日の暴動を受けて米ツイッターと米フェイスブックはトランプ氏のアカウントを凍結した。同氏にとって最大の武器を奪われたようなものだろう。閣僚…

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 ※ 良記事だ…。有料記事なのが、残念だ…。

・閣僚更迭や新政策発表など、執務にSNS(交流サイト)を駆使したトランプ氏。8日現在でツイッターのフォロワー数は8800万人超、バイデン氏(2300万人超)のおよそ4倍だ。

・トランプ大統領の膨大なツイートのなかでも物議をかもしたもののひとつが、17年7月の動画投稿だ。

・動画は大統領就任以前に米プロレスイベントに出演した際のもので、トランプ氏がリング脇でスーツ姿の人物をなぎ倒す。その相手の顔の部分は画像処理で米CNNテレビのロゴが重ねてある。CNNはこのツイートに「米大統領が記者への暴力を奨励した悲しい日だ」と抗議した。

・自身を批判するCNNなどメディアをかたき役に仕立て徹底的にたたく。分断をあおりそれを政治的エネルギーにする典型的なトランプ流だ。

トランプ氏は2017年7月、プロレスのリング脇でスーツ姿の人物をなぎ倒す動画をツイッターに投稿した(本人のツイッターから)

・トランプ氏とプロレスの関係は1980年代に自身が経営するカジノにプロレス興行を誘致したところから始まる。実際のリングにも度々上がり、2013年には米プロレス殿堂入りも果たした。

・昨年9月の大統領候補者のテレビ討論では、トランプ氏は司会者の再三の制止にもかかわらずバイデン候補の発言中に妨害を繰り返した。これも反則が5カウントまで許されるプロレス流。選挙が終わっても負けを認めないトランプ氏の姿は、試合終了のゴングが鳴り響くなかで場外乱闘を続けるレスラーと重なる。

・トランプ氏が去ることで「プロレス政治」は終わり、正常化するとの期待もある。だが忘れてはならないのはトランプ政権で、米政策の歴史的転換点と位置づけられそうな出来事が起きたことだ。

・まずは対中政策。中国たたきを掲げて当選したトランプ氏の個人的関心は対中貿易赤字問題。中国が通商交渉で譲歩すれば習近平(シー・ジンピン)国家主席と握手する可能性もあった。ボルトン前大統領補佐官(国家安全保障担当)が暴露したように、外交でトランプ氏が最優先に考えたのは自身の再選戦略だ。

・ところがトランプ氏の思惑とは別に、中国の軍備拡大やデジタル覇権を目指す動き、香港などへの強権姿勢、コロナへの対応の不備などを受けて米議会でも超党派で対中批判が広がった。その結果、昨年7月にポンペオ米国務長官が、1972年のニクソン大統領訪中以来の対中関与政策の失敗に言及するに至った。

・トランプ氏自身がどこまで政策転換を意識したかはともかく、この4年で米国の対中感情の悪化は決定的になった。バイデン政権でも簡単に後戻りはしないだろう。

・トランプ氏の看板政策のアメリカ・ファースト(米国第一主義)も大きな路線転換だ。この掛け声のもと、米国は環太平洋経済連携協定(TPP)、温暖化対策の国際的枠組みのパリ協定、イラン核合意、世界保健機関(WHO)など多くの多国間協定や国際機関からの脱退を選んだ。

・自由民主主義陣営の盟主を自任する米大統領はこれまでも本音は「国益優先」だったにせよ、言葉のうえでは国際協調や同盟国重視を唱え、自由貿易やグローバル資本主義を擁護してきた。トランプ氏はなりふり構わず「自国優先」、さらには「自分優先」に突き進んだ。

・米国の第2次大戦後の指導的地位は、終戦直前の1944年7月のブレトンウッズ会議で確立した。英ポンドに代わり米ドルが基軸通貨となり、国際通貨基金(IMF)、世界銀行など戦後の国際経済体制は米主導となった。

・米国第一主義は、この秩序への反旗ともいえる。トランプ氏は20カ国・地域(G20)や主要7カ国(G7)首脳会議などでも、米国の意向を反映させて議論をまとめようとするのではなく、途中退席し孤立する道を選んだ。

・バイデン次期大統領はパリ協定やWHOに復帰し国際協調路線をとると訴える。だがお膝元の民主党にも、自由貿易協定や軍事を含む国際的関与拡大に慎重意見は根強い。

・議会内での暴動という異常事態は、米社会の分断の根深さを見せつけた。その米国に国際協調を主導する余裕があるのか。世界はなお疑念の目でみている。

1月6日にはトランプ氏の支持者が暴徒化して米議会に乱入した=AP

・「民主主義と国家主権とグローバル化の3つは並び立たない」。ダニ・ロドリック米ハーバード大教授が唱えたグローバル化のトリレンマ。トランプ氏はグローバル協調に背を向け国家主権を最優先した。英国も国家主権を制限する欧州連合(EU)の束縛を嫌い離脱した。トリレンマは世界に亀裂を生む。

・中国たたきと米国第一主義はトランプ氏にとっては選挙に勝つための方便だったのかもしれない。だが、それは中国台頭と米国の相対的地位低下という21世紀の構造変化のなかで、新たな秩序をどう築くかという本質的問題をあぶりだした。トランプ氏は解決策を示せないままリングを去る。2021年、コロナ禍以外にも世界には難題が残る。

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藤井 彰夫
内外の経済・金融問題を長年取材してきました。ワシントン、ニューヨーク、ロンドンなどに駐在し、ブラックマンデー、日本のバブル崩壊、9・11同時テロ、ユーロ圏債務危機も目撃しました。最近は、ポピュリズムが台頭し、グローバル化が大きな試練を迎えるなかで、日本と世界の行く末を考え、取材を続けています。