4つの分断、トランプ2.0を生みかねない米国

4つの分断、トランプ2.0を生みかねない米国
Global Economics Trends 編集委員 小竹洋之
米大統領選
2020年11月15日 2:00 [有料会員限定]
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO66118260S0A111C2I00000

『「疲れし者、貧しき者、自由の息吹を切望する者たちを、我に与えよ」。19世紀の米詩人エマ・ラザラスのソネット(14行詩)が刻まれているのは、ニューヨークの名所「自由の女神像」の台座だ。多様な人々を包摂し、ひとつに束ねてきた米国の理念を、見事にうたった一節に思える。

この人の胸にはどう響くのか。「闇」ではなく「光」、「分断」ではなく「結束…

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・「闇」ではなく「光」、「分断」ではなく「結束」の指導者になると宣言した民主党のジョー・バイデン次期大統領――。共和党のドナルド・トランプ現大統領が残した傷を癒やし、古き良き時代に戻りたいところだろうが、いまの米国はあまりにもむごく引き裂かれてしまっている。

ハース氏やアセモグル氏が恐れる火種

・「1つの米国、2つの国家(One America, Two Nations)」。11月3日の大統領選を受けて、米外交問題評議会のリチャード・ハース会長がそんな論考を寄せた。トランプ氏とバイデン氏の激闘で鮮明になったのは、経済や人種などを巡る分断の根深さであり、現代の米国流ポピュリズム(大衆迎合主義)ともいえるトランプ主義の生命力の強さであると説いた。

・米マサチューセッツ工科大学(MIT)のダロン・アセモグル教授も同時期の論考(Trump won’t be the last American populist)で、反格差や反エリートといったポピュリズムの火種がトランプ氏の退場後もくすぶり続けると警告した。次の異端児が台頭する「トランプ2.0」の可能性を誰もが排除できないところに、米国をむしばむ病の深刻さがのぞく。

・それは「トランプ1.0」を呼び込んだ問題の解決が難しいからにほかならない。4つの分断が長きにわたって極まり、現状に対する人々の不満や怒りが臨界点を超えてしまったようにみえる。

上位1%と下位50%の保有資産割合は33%対2%

第1経済の分断である。米連邦準備理事会(FRB)によると、上位1%の高所得層が保有する資産の割合は、1989年の26%から2019年には33%に上昇した。これに対して下位50%の低中所得層は4%から2%に低下している。グローバル化やデジタル化の進展で貧富の格差が広がり、「持つ者」に対する「持たざる者」の反感は強まる一方だ。

・米労働総同盟産別会議(AFL-CIO)によれば、米主要企業500社の最高経営責任者(CEO)が18年に受け取った報酬の平均は、一般的な従業員の287倍にのぼった。にもかかわらず同じ18年の所得にかかる実効税率の平均は、上位400人の高所得層で23%、1.2億人を超える下位50%の低中所得層で24%だったと、米カリフォルニア大学バークレー校のエマニュエル・サエズ教授らが著書(The Triumph of Injustice)に記す。

虹色国家の緊張、2045年に5割を切る白人

白人と非白人とのあつれきは絶えない=ロイター

第2人種の分断だ。「かつての米国は『白』と『黒』の国だった。いまでは『レインボー』の国になりつつある」。米調査機関ピュー・リサーチ・センターのポール・テイラー元副所長が14年のリポート(The Next America)で論じたように、米国が受け入れる移民の増加は人口構成に劇的な変化をもたらしている。人口の約6割を占める白人は45年ごろに5割を切り、まさに「虹色国家」の様相を呈する。

・だが地位の喪失や社会の変容にいら立ち、非白人への寛容さを失う白人は少なくない。こうした白人の差別や偏見をトランプ氏があおり、非白人との緊張を高めてきたのは確かだろう。一方、米コロンビア大学のマーク・リラ教授は自著(The Once and Future Liberal)で、民主党も人種などの違いを際立たせる「アイデンティティー政治」に走りすぎ、ひとつにまとまっていた光線をプリズムで虹のように分けてしまったと批判している。

保守とリベラル、エリートと非エリートの対立

第3政治の分断である。保守とリベラルの対立は、もはや理性で制御できる領域を超えた。共和党と民主党の党員の多くは、互いに嫌悪感や敵がい心さえ抱く。米フロリダ州立大学のダグラス・アーラー助教授らの論文(The Parties in Our Heads)は、両党に対する米国民の印象が想像以上にゆがんでいることも立証している。年収25万ドル以上の共和党員は2%、LGBT(性的少数者)の民主党員は6%にすぎないのに、それぞれ38%、32%にのぼるとみられていた。

・エリートと非エリートの対立も見逃せない。米ハーバード大学のマイケル・サンデル教授は近著(The Tyranny of Merit)で、学歴の高低が米欧の最も深刻な分断軸のひとつだと断じた。英カーディフ大学のアントニー・マンステッド名誉教授らの論文(Educationism and the irony of meritocracy)を引用する形で、低学歴層に対する高学歴層の”罪悪感なき知の差別”を憂えている。こうした学歴の格差は、政治の支配層と被支配層を隔てる要因でもある。

ミレニアルとベビーブーマーの断層

第4世代の分断だ。米ブルッキングス研究所シニア・フェローのウィリアム・フレイ氏のデータ(Now, more than half of Americans are millennials or younger)によると、40歳以上と40歳未満の世代はほぼ半々に分かれる。なかでも全人口の22.0%を占めるミレニアル世代(1981~96年生まれ)と、21.8%を占めるベビーブーマー世代(46~64年生まれ)との価値観の相違は著しい。「オーケー、ブーマー」「オーケー、ミレニアル」――。「もうたくさんだ」という意味の捨てぜりふがお互いに流行するほどである。

・米カリフォルニア大学サンタバーバラ校のジョナサン・スクーラー教授らの論文(Kids these days)によると、33~51歳の米国民が「最近の若者は堕落している」と感じるのは、自分の世代への過信や過去の記憶の美化が影響しているという。私たちが米国の平和と繁栄の土台を築いたのだと説教を垂れるベビーブーマー世代と、経済的な格差や人種間のあつれき、政治の機能不全などを放置してきたのはあなたたちだとなじるミレニアル世代との断層の一因がうかがえる。

バイデン氏の勝利だけでは解けぬ呪縛

トランプ氏の支持基盤は予想以上に固かった=AP

・低中所得層、白人、非エリート、高齢者……。一方の極をなす人々の不満や怒りにつけ込み、「偉大な米国の復活」というスローガンで動員したのが、トランプ氏と共和党による右派のポピュリズムだった。大統領選や連邦議会選の結果をみる限り、その岩盤は予想以上に固かったといわざるを得ない。

・低中所得層や非エリートの鬱屈した感情は、民主党にも共通する。共和党とは様相を異にする非白人や若者のいら立ちもある。中道派のバイデン氏への失望感が募り、バーニー・サンダース上院議員らによる左派のポピュリズムが再燃する懸念は拭えない。

・「バイデン氏の勝利そのものが、米国の民主主義に残る深い傷を癒やすわけではない」。米スタンフォード大学シニア・フェローのラリー・ダイアモンド氏は最近の論考(A new administration won’t heal American democracy)でこう指摘している。トランプ氏が去っても、その呪縛を容易に解けない米国の現実を直視しなければなるまい。

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【記事中の参照URL】

■One America, Two Nations(https://www.project-syndicate.org/commentary/one-america-two-nations-by-richard-haass-2020-11

■Trump won’t be the last American populist(https://www.foreignaffairs.com/articles/united-states/2020-11-06/trump-wont-be-last-american-populist

■The Next America(https://www.pewresearch.org/next-america/#Two-Dramas-in-Slow-Motion

■The Parties in Our Heads(http://www.dougahler.com/uploads/2/4/6/9/24697799/ahlersood_partycomposition.pdf

■Educationism and the irony of meritocracy(http://sro.sussex.ac.uk/id/eprint/71335/1/__smbhome.uscs.susx.ac.uk_ellenaj_Desktop_SRO_after%20august_Kuppens%20Educationism%20and%20the%20irony%20of%20meritocracy.pdf

■Now, more than half of Americans are millennials or younger(https://www.brookings.edu/blog/the-avenue/2020/07/30/now-more-than-half-of-americans-are-millennials-or-younger/

■Kids these days(https://advances.sciencemag.org/content/5/10/eaav5916.full

■A new administration won’t heal American democracy(https://www.foreignaffairs.com/articles/2020-11-05/new-administration-wont-heal-american-democracy