「警戒的な楽観主義」のとき バイデン政権迎える世界

「警戒的な楽観主義」のとき バイデン政権迎える世界
本社コメンテーター 菅野幹雄
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『複合危機の年から視界不良の年へ。バイデン次期米大統領という新リーダーを迎える世界は新型コロナウイルスが経済と社会に刻んだ傷の修復に苦しむ。「どうせ困難だろう」という悲観論が根強いが、見方を変えればいまは変革の好機そのものだ。2021年は「警戒的な楽観主義(cautious optimism)」が問われる。

20年は散々な一年だった。約100年ぶりのパンデミック(世界的大流行)は170万人の命を奪い…

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・約100年ぶりのパンデミック(世界的大流行)は170万人の命を奪い、大恐慌以来の経済危機をもたらした。感染や失業は弱者を狙い撃ちし、人種的な分断も進んだ。経済封鎖やマスク着用の賛否を巡って各国の世論は大きく割れ、社会も荒れた。

・英国は欧州連合(EU)から離脱し、統合の歴史が後退した。トランプ米大統領は中国に従順だとして世界保健機関(WHO)からの脱退を宣言。トランプ氏が議長だった主要国首脳会議(サミット)は1975年の開始以来、首脳会合が初めて流れた。中国は香港の自治を維持する約束を破り、強権に走った。

・新年も苦難は続く。米大統領選を制した民主党のバイデン氏は「国の分断を癒やす」と就任式で改めて誓うだろう。だがトランプ氏はなお敗北を認めず、選挙不正を訴えて支持者を扇動している。78歳の新大統領と選挙の正統性に疑問符が付き、バイデン体制は「トランプ主義」の妨害に苦しむ可能性が高い。

・世界は変わらない。分断は一段と深まり、国際社会は無力のまま。そんな冷めた結論を決め込むのは簡単だが、違った発想ができないか。

・「前任者を追いだして新リーダーが登場した直後こそ、柔軟に新たな政策を進める最善のタイミングだ」。長年にわたり政策のサイクルを研究してきた米ライシャワー東アジア研究センターのケント・カルダー所長はそう語る。文字通りどん底だった20年から多くの点で外部環境は好転する。バイデン氏への交代は局面を変える契機になる。

・まず新型コロナとの闘いだ。未知のウイルスが拡散した昨年春、年末にワクチン接種が始まるとの予想は少数だった。足元で感染者や死者の増加は続くが、ワクチンが医療の現場に浸透し、検査や治療も進歩の余地がある。バイデン氏は米国をWHOに直ちに復帰させ、世界的な協力体制ははるかに向上する。

・世界経済にも効果が及ぶ。英オックスフォード・エコノミクスはワクチン供給の進展を追い風に、21年の世界経済の年間成長率が1978年以来約40年ぶりの高さになると予測する。「ウイルスでなくワクチン、封鎖でなく経済再開、収縮でなく回復の年になる」とバンク・オブ・アメリカは21年の世界を見通す。

・トランプ政権下で凍り付いた国際協調は雪解けする。バイデン氏は多国間協力と米欧の同盟関係の立て直しを明言しており、米国を温暖化防止の国際的枠組み「パリ協定」に戻す。米国が協調の壊し屋からまとめ役に転じる効果は大きい。

・気候変動への対応を雇用や投資を創出する機会と位置づけるバイデン政権の姿勢は、温暖化を否定したトランプ政権の正反対をゆく。50年の温暖化ガス排出の実質ゼロを表明した日本を含め、世界で脱炭素を競い合う流れが一気に勢いを増している。

・日米、米欧の同盟関係が強固になれば、人権侵害などの批判から国際社会で孤立感を深める中国に対するけん制の効果を強める。日本の重要度は一段と増すはずだ。

・農産物の輸出などディール(取引)の成果に重きを置くトランプ氏の我流に比べ、民主主義体制の国々から戦略的に中国の知的財産権保護や国有企業、補助金の改革を求める包囲網を敷かれる方が中国には手ごわいだろう。

・「米国の大統領になる」と党派を超えた国民の結束を訴えるバイデン氏の言葉が浮ついて響くのは無理もない。4年間にわたり分断を加速した「トランプ支配」に慣れ切っていたのだ。

・トランプ支持者も分断自体を求めるのではなく、苦境を理解し、手を差し伸べてくれるリーダーを望んでいる。トランプ氏が退任すれば、バイデン氏がその隙間を埋める行動や政策を講じる余地ができる。米民主主義の再興にも活路を見いだせる。

・むろん失速のリスクは至る所にある。いまを逃すと国際協調や分断修復の機会は巡ってこないかもしれない。「どうなるか」ではなく「何をするか」が問われている。

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