「戦前」に向かわぬために きな臭さ増す米中対立

「戦前」に向かわぬために きな臭さ増す米中対立 
本社コメンテーター 秋田浩之
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGH158PS0V11C20A2000000

『人類はこれまで何度も戦争を繰り返してきた。多くの命を失っても十分に教訓を生かせなかったからだ。どうすれば大戦の危険を封じ込めていけるのか。いま、改めて熟考すべき局面にきている。

米国では1月20日の大統領就任式を経てバイデン政権が生まれる。側近らの言動からみて、レトリックは柔らかくなっても対中政策の強硬さは変わらないだろう。

一方の中国は7月、共産党創設100年を大々的に祝う。いや応なく大国の高…

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・一方の中国は7月、共産党創設100年を大々的に祝う。いや応なく大国の高揚心が強まり、米中の確執はさらに深まりそうな雲行きだ。アジアの海洋などで、両国軍による意図せぬ衝突が大きな紛争につながらないか心配だ。

・第2次世界大戦で敗戦国となった日本は1951年、サンフランシスコ講和条約を交わし、独立につなげた。今年でちょうど70年になる。世界では、この間も紛争は続いたが、大国どうしがぶつかる大戦争は起きていない。これは当たり前ではなく、近現代史上は例外といってもいい。

・こうした歴史に向き合えば、70年の「戦間期」から再び「戦前」に近づく危険も無視できないだろう。

・しばしば聞かれるのが、第1次世界大戦の前夜に現状が似てきたという警告だ。歴史は単純に繰り返さないにしても、米中対立は確かにきな臭さを増している。特に気がかりなのは通商やハイテクだけでなく、軍事面の緊張も高まっていることだ。中国海軍は総艦船数ですでに米軍を追い抜き、インド太平洋で米国に挑む姿勢を強めている。

・米軍はここ数年、東・南シナ海での活動を大きく広げている。北朝鮮の動向を監視するとともに、中国軍をけん制するためだ。かつては慎重だった尖閣諸島付近や台湾海峡での監視や訓練なども、ひそかに増やしているという。

・深まる経済の相互依存が紛争を防ぐという見方もあるが、第1次大戦前にはドイツと英国、フランス、ロシアの貿易量は膨らんでいた。第1次世界大戦の英独のように、米中が戦争に向かうかどうかは、経済よりも重要な要素がある。当時と現代では、安全保障面で極めて大きな違いがあることだ。

・そのひとつが核兵器の出現だ。良い悪いは別にして、「核の恐怖」が大国間の戦争を防ぐ一因になってきたことは否定できない。

・防衛研究所の石津朋之・戦史研究センター長は語る。「1945年以降、大国がぶつかる大戦は起きていない。人々の英知が進化し、国連が生まれたことも一因だが、最大の理由は核兵器が生まれたことだ。広島、長崎の惨劇を目の当たりにし、核戦争になったら大変だという危機感が歯止めになっている」

・米中も例外ではない。何らかの軍事衝突が起きても、第3次世界大戦になることは考えづらい。そうした前提に立てば、論理的に想定されるのは大戦でも平和でもない次のようなシナリオである。

(1)バイデン次期政権の米国は同盟関係を立て直し、リベラル秩序を再建していく。

(2)米中の覇権争いがさらに過熱する。外交、通商、デジタルでそれぞれが主導するブロックに二分されていく。

(3)新型コロナウイルスの感染を封じ込めた中国が優位に立ち、米国主導のリベラル秩序がさらに後退していく。

(4)台湾海峡などで米中が軍事衝突する。世界大戦にはならないものの、緊張が一気に高まり、世界は予測がつかない展開になる。

・バイデン次期政権は(1)を目指すに違いないが、実現できるどうかは別の話だ。バイデン氏の側近からも「当面、コロナ危機と国内の格差是正などに力を割かざるを得ない。米国の指導力を性急に求めるより、米国再生に協力してほしい」との声が聞かれる。

・中国が秩序を主導する(3)も考えづらい。同国が感染を世界に広げてしまった事実は消えない。だとすれば、考えられるのは米中覇権争いが強まり、世界の分断が深まっていく(2)のシナリオだろう。

・民主主義の空間が縮まないよう、日欧、韓国、オーストラリアといった米国の同盟国は、バイデン次期政権と深く連携する必要がある。最も危険なのが(4)であることは言をまたない。台湾をめぐって米中が戦争になれば、日本も対岸の火事ではすまない。

・中国が台湾への軍事挑発を強めないよう、米軍が抑止力を効かせる。そのうえで互いの意図の読み違いを防ぐため、米中の軍事対話も増やす。この両方が紛争を防ぐ最低条件になる。