今のアメリカは「真ん中」が抜け落ちた社会の行きつく先

https://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2020/12/post-95268.php

 ※ さわりを、紹介する…。

『宗教については、アメリカは1791年の修正憲法第一条で「国教会制度」を放棄した。国家が特定の宗教に国教会としての特別の地位を与えないことを決めたが、実際の暮らしではキリスト教に基づく習慣が大切にされてきた。文化保守は「ユダヤ・キリスト教的な伝統」(Judeo-Christian tradition)が、リベラル勢力によって1960年代以降、公的空間から排除されてきたことへの憤りを語る。厳格な「政教分離」を求める人々が、公立学校でのお祈りや聖書の朗読を問題視し、訴訟に持ち込んだ。最高裁は1962年、1963年の判決で、強制された祈りも聖書の朗読も違憲とした。

今でも公立学校からの「モーゼの十戒」の石碑撤去などが続いている。「メリー・クリスマス」の代わりに、宗教性を排した「ハッピー・ホリデー」が都市部で広まる。白人の高齢者の間には「慣れ親しんだキリスト教を土台とした社会が揺らいでいる」という危機感がある。若者の「モラル低下」も同根と感じている。

この不満を発信したのが、1992年の共和党全国大会で演説した、パット・ブキャナンだ。「この選挙では、私たちが何者であるのか、何を信じているのかが問われている。国内では、アメリカの魂をかけて宗教戦争が起きている。文化戦争です」(中略あり)

この演説には、大きな批判が出たと本人が著書に記しているが、地方を取材すれば、この感覚は特に白人高齢者の間で広く共有されていることが分かる。最近では、文化保守を怒らせた争点が同性婚だ。最高裁は2015年、同性婚を禁じる州法に違憲判決を出した。反対派が優勢だった世論も2011年に初めて逆転し、2019年には賛成派(61%)が反対派(31%)を引き離している。世俗化が進む中、文化保守は焦っているが、価値観を巡る対立は「真ん中」での妥協が困難で、分断の強い要因になっている(図3)。』

『同化に関する不満も根強い。不満を単純化すると「かつての移民は同化したが、最近の移民は同化しない」となる。

「かつての移民」と「最近の移民」という二分法がある。この断層も1960年代に深まった。「かつての移民」とは、アイルランドや東欧南欧からのカトリック教徒やギリシャ正教の移民を指す。彼らも当時は新移民と呼ばれ、差別されたが、彼らは原則西洋からの移民で白人だった。今では、移民一世が貧困層として必死に働き、その子ども世代(二世)が英語を覚えて中流階級に仲間入りし、最終的には同化して「立派なアメリカ人になった」と理解されている。「物語」と呼ぶ方が適切かもしれない。

「かつての移民」は、主流のアメリカ文化に溶け込んだ「メルティング・ポット(人種のるつぼ)」の成功例として語られる。主流とはワスプ(白人White、アングロサクソンAnglo-Saxon、プロテスタントProtestant)文化である。

これに対し、「最近の移民」とは、多くの場合、1965年の移民法改正を機に増えた、ヒスパニックやアジア系を指す。欧州からの移民ではなく、英語を話さない人も少なくない。そのためだろう、「最近の移民」は出身国の生活習慣や言語をアメリカに持ち込み、「堂々と維持している」と批判される。

人口に占める白人(ヒスパニック除く)の割合は、1965年は84%と圧倒的な多数派だったが、2019年に60%まで落ちた。ブルッキングス研究所のウィリアム・フレイは、2045年に白人の割合が5割を切り、ヒスパニックが24.6%、黒人が13.1%、アジア系が7.8%となるとの見通しを示している。大統領ビル・クリントンの1998年の予告は正しかった。「50年もすれば、全米において過半数を占める人種がいなくなる。歴史上これほどの短期間に、これほど巨大な人口動態の変化を経験した国はありません」(1998年6月)

「同化しない最近の移民」に憤りを表明してきたのも、さきほどのブキャナンだ。1992年の党大会では主に宗教の衰退を語ったが、2002年の著作では同化しないメキシコ移民への警戒を強調している。彼の「古い移民」と「今日の移民」の二分法は多くのトランプ支持者に共通する。ブキャナンはこう言う。

 メキシコには、米国に対する歴史的な恨みがあり、国民に深く刻まれている。彼らは、メキシコが若くて弱かったときに、私たちが国土の半分を奪ったと信じている。だからアイルランドやイタリア、東欧からの古い移民と、メキシコからの今日の移民とは米国に対する態度には深刻な違いがあるのだ。(略)私たちは新旧の移民の違い、以前と今日の米国の違いを理解する必要がある。(略)メキシコ人は他の文化から来るだけでなく、多くは人種も異なる。歴史と経験が示す通り、異なる人種の同化ははるかに難しい。アフリカやアジアから来た大勢がいまだにアメリカ社会に完全に参加していない一方で、先祖がドイツから来た600万人のアメリカ人は完全に同化している。(略)乗船した時点で祖国に永遠の別れを告げた古い移民と異なり、メキシコ人の母国はすぐ隣だ。多くは英語を学びたいとも、アメリカ市民になりたいとも願っていない。(略)彼らは国家の中の別の国家になろうとしている。(Patrick J.Buchanan, “The Death of the West: How Dying Populations and Immigrant Invasions Imperil Our Country and Civilization” page 124-126)』