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『【台北=中村裕】台湾の蔡英文(ツァイ・インウェン)総統の支持率が今年最低の50%前後にまで低下したことが、各種民間の世論調査で明らかになった。1月の総統選で圧勝し、新型コロナウイルスの感染拡大も抑えて評価を上げ、支持率は一時、70%を超えた。ただ最近は食の輸入問題で猛反発に遭い、急落に歯止めがかからない。
民間シンクタンクの台湾民意基金会が29日に公表した最新の世論調査(21~22日実施)によると…
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・蔡総統の支持率は52.8%と今年最低に落ち込んだ。2期目をスタートした5月の支持率は71.2%で、短期間で20ポイント近くも支持を落とした。
・世論調査を中心に手掛ける大手の美麗島電子報が28日に公表した世論調査もほぼ同様で、蔡総統の支持率は今年最低の53.6%となった。民放TVBSの直近の世論調査でも支持率は今年最低の43%で、不支持率は41%と、支持と不支持がほぼ拮抗する形となった。
・支持率急低下の最大の要因は、蔡総統が8月に決定した米国産豚肉・牛肉の大幅な輸入解禁にある。米国産の豚肉などには成長促進剤となるラクトパミンが少量残留する。
・食品の国際基準を策定する食品規格(コーデックス)委員会が示す基準値は超えないが、台湾では豚が「国民食」であるため敏感な問題となり、輸入には抵抗感が強い。10年以上にわたって、その是非を巡り論争が続いてきた。
・蔡総統は今回それを押し切る形で長年の論争に終止符を打ち、来年1月1日付で米国産の豚肉・牛肉の大幅輸入解禁を24日、正式決定した。
・支持率の急低下も覚悟した上での大きな決断だったが、背景には米国との連携強化を急ぐ狙いがある。敵対する中国が現在、台湾に統一圧力を強めている。それを避ける意味でも、台湾は従来以上に米国との連携を急ぎ、経済成長を目指す必要があると判断した。
・米台にはもともと経済連携強化を狙うベースとして、投資や貿易などの幅広い経済問題を協議する枠組み「貿易投資枠組み協定(TIFA)」がある。だが、台湾が米国産豚肉の輸入をほぼ認めないなどの理由から、交渉は現在まで4年間も中止されていた。
・蔡総統は豚肉問題を解決したことでまず、TIFAの交渉再開を今後、米側に求めるものとみられる。さらにTIFAの先には、米国との自由貿易協定(FTA)の締結も見据えており、脱中国を急ぎたい考えだ。
・だが、今後のかじ取りは厳しいものとなりそうだ。蔡総統は2期目をスタートした5月以降、中国に圧力を強めるトランプ米政権と歩調を合わせる形で協力関係を深めてきた。だがバイデン新政権移行後は、従来のような対中強硬路線ではなく、米国にとっての台湾問題も優先事項から大きく後退する可能性も高い。
・台湾政治に詳しい左宜恩・東呉大学准教授も「米国の政権交代で、すぐには米国産豚肉の開放の成果は得られない。米台FTAや環太平洋経済連携協定(TPP)への参加の見通しもたたないなか、さらに今後、蔡総統の支持率は下がるのは必至だ」と指摘する。