〈回顧2020〉米中衝突、増幅した不信感

〈回顧2020〉米中衝突、増幅した不信感
非難の応酬 東アジア緊張
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『トランプ米大統領が再選を目指した2020年は、米中対立の戦線が貿易だけにとどまらず、安全保障の分野にまで際限なく広がった1年となった。中国発とされる新型コロナウイルスの世界的な感染拡大が米国側の不信感を増幅し、香港や台湾を巡って激しく衝突する事態になった。21年1月に就任するバイデン次期米大統領は、トランプ政権から大きな難題を引き継ぐことになる。

「中国は数十年にわたって米国につけ込んできたが、状…』

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・米中関係はかつてないほど改善した」。トランプ氏は2月4日の一般教書演説でこう高らかに宣言した。後から振り返れば想像しにくい場面だが、年明けはつかの間の雪解けムードが漂っていた。

・「休戦」を主導したのは米国側だ。トランプ氏は1月に署名した「第1段階の貿易合意」を支持基盤の農家にアピールし、11月の選挙に臨む青写真を描いていた。中国国内でコロナの影響が広がった2月時点では、トランプ氏は習近平(シー・ジンピン)国家主席に電話で「中国を援助したい」と伝え、習氏の対応を手放しで持ち上げていた。

・しかし米国にコロナが飛び火するとトランプ氏の感情は一変する。感染の拡大が止まらず、3月中旬には国家非常事態を宣言する事態に発展した。米経済の悪化が自らの再選に逆風になるとの見方が急速に広がった。

・最初はウイルスの発生源を巡って非難の応酬を繰り広げた。中国外務省の副報道局長がツイッターで根拠を示さずに「米軍が感染症を湖北省武漢市に持ち込んだのかもしれない」と主張した。対抗してトランプ氏は「中国ウイルス」と呼び始める。米国の感染症専門家が中国への視察になかなか入れず、「情報を隠しているのではないか」と疑いを深めていった。

・米国でコロナの感染が急拡大するのと軌を一にして米中関係は悪循環の一途をたどった。追い打ちをかけたのが香港問題だ。中国が高度な自治を認めた「一国二制度」の形骸化につながる香港国家安全維持法の導入に動いた。米国の反発に対し、中国は「内政干渉」と一歩も譲らなかった。

・トランプ政権は5月以降、中国への対抗措置を矢継ぎ早に打ち出した。安全保障上のリスクとみなした中国人の入国を停止したり、香港に認めてきた貿易や犯罪人引き渡しなどの特例措置を撤廃したりした。

・米国の批判の矛先は国際機関にも向いた。トランプ氏は中国の初期対応を評価したり二転三転した発言で世界に混乱を引き起こしたりした世界保健機関(WHO)のテドロス事務局長を酷評した。WHOが「中国寄り」だとみなして、7月には正式に脱退を通告した。

・世界の二大超大国による衝突の根底にはイデオロギーの違いがある。民主主義を掲げる米国は「中国共産党こそが問題である」との主張を前面に押し出し、全体主義や権威主義をやり玉に挙げた。ポンペオ国務長官は7月、1972年に中国を電撃訪問して関与政策に道を開いたニクソン元大統領ゆかりの博物館で「自由主義国が行動するときだ」と世界各国に対中包囲網の結束を呼びかけた。

・香港の次は台湾か――。衝突の舞台は海を渡って広がった。

・トランプ政権は中国をけん制するため台湾に急接近する。アザー米厚生長官は8月、台湾を訪れて蔡英文(ツァイ・インウェン)総統と会談した。1979年の断交以来、米国の高官訪問としては最高位だ。台湾への武器輸出を加速し、11月には経済対話も開いた。台湾も米国の後ろ盾を得ようと、米国産牛肉の輸入規制緩和などに動いた。

・当然、台湾統一をにらんで「一つの中国」を掲げる中国は米台の動きに猛反発した。中国の戦闘機が台湾海峡の中間線を越えて台湾側に入るなど軍事圧力を強めた。南シナ海でも中距離弾道ミサイルを撃ち込むなど軍事的な緊張が一時高まった。

・21年も米中の衝突は続くのか。バイデン次期大統領は新疆ウイグル自治区の少数民族への対応など、人権問題ではトランプ政権より厳しく臨む構えだ。一方で、気候変動問題やコロナ対策といった国際社会が直面する課題では双方が協力して解決を進めようとする選択肢も排除していない。中国はバイデン氏に両国の関係改善への期待を寄せるが、両国に募った不信感は簡単に消えそうにない。(ワシントン=鳳山太成)

・摩擦、貿易からハイテク分野へ拡大

・中国、対立長期化にらみ独自経済圏づくり急ぐ

・米中貿易摩擦は2018年から関税引き上げ合戦に突入していたが、両国は20年1月、貿易協議の「第1段階」合意にこぎつけた。中国が米国からのモノやサービスの輸入を20~21年に2000億ドル(約21兆円)増やすのが柱だ。貿易戦争前の17年を基準に定めた。

・米中両政府は1月に「第1段階の合意」に署名した(ホワイトハウス)=AP

・摩擦は雪解けに向かう兆しも見せたが、新型コロナウイルスの感染拡大で中国経済が混乱したうえ、香港問題などを巡り両国が対立し、輸入拡大は遅々として進まなかった。

・ピーターソン国際経済研究所の試算によると、1~11月の累計輸入額は820億ドル。目標達成に必要な額の6割弱にとどまる。象徴的なのが農家の支持を取り付けたいトランプ大統領が強い関心を見せていた大豆の取引だ。

・中国税関総署によると、米国産大豆の輸入は4月以降、前年同月比で2桁の減少が続いた。プラスに転じたのは11月25日公表の10月分からだ。11月3日の米大統領選前は、トランプ氏への肩入れと受け止められないよう構えていたとみられる。

・中国の合意履行が進まないなか、米国の対中圧力の矛先はハイテク分野にも広がった。

・米商務省は9月15日、事実上の禁輸リストである「エンティティー・リスト」に記載済みの華為技術(ファーウェイ)に対する禁輸強化措置を発動。中国外務省関係者は「最先端の半導体は全く輸入できなくなった」と明かす。半導体の調達難に直面するファーウェイは、21年のスマホ出荷台数が前年比7割減少するとの予測もあり、打撃は深刻だ。

・米政府の調達を巡る規制も厳格化された。ファーウェイなど中国企業5社の調達市場への参入禁止だけでなく、20年8月には5社の製品を使う企業が米政府と取引することも禁じた。

・中国企業による自国への投資規制も強めた。やり玉に挙がったのが動画共有アプリ「TikTok(ティックトック)」だ。個人情報流出を懸念するトランプ氏は、8月に署名した大統領令でティックトックの米国事業を切り離すよう命じた。

・中国の親会社、北京字節跳動科技(バイトダンス)は、米IT(情報技術)大手のオラクルなどが出資する新会社に米国事業を移すことで大筋合意した。ただ出資比率などで調整は難航している。

・先端技術分野での中国締め出しを狙った米国に、中国は輸出規制の制度を整えて対抗する姿勢だ。12月1日に中国輸出管理法が施行し、特定企業への戦略物資や技術の輸出を禁止できるようにした。

・中国は同法を、米国を念頭に海外の輸出規制への対抗措置と位置づける。バイデン次期米政権でもハイテク分野での対中強硬姿勢は変わらないとの見方も多い。

・輸出規制を巡るにらみ合いは、第三国にも影響を及ぼしかねない。日本の半導体関連企業は米国のファーウェイ制裁に歩調を合わせ、9月に出荷を止めた。中国がこうした動きを「国家安全と利益に危害を及ぼす」とみなせば、同法に基づいて日本企業も制裁対象に含む可能性がある。米中の対立は決して対岸の火事ではない。(北京=川手伊織)

・▼制裁関税

・知的財産権侵害や不公正競争などを理由に、海外から輸入する製品に対して関税を引き上げる措置。輸入品の価格上昇で自国の消費者にとって購入品の価格高騰などの不利益を生じる恐れがある。関税引き上げを受けた国は報復措置として同様に関税引き上げで対抗することが多い。
保護主義を強めるトランプ米政権が関税率引き上げを交渉カードにするケースが相次ぎ、各国は警戒を強めている。米国は2018年、安全保障を理由に制裁を可能とする通商拡大法232条に基づき、輸入する鉄鋼とアルミニウムにそれぞれ25%、10%の追加関税を課した。カナダや欧州連合(EU)など7カ国・地域が関税引き上げの対抗策を表明した。

・国同士の貿易紛争の解決などで重要な役割を担ってきた世界貿易機関(WTO)の処理能力が機能不全に陥っているとの批判の高まりも世界経済の先行きに影を落としている。米中が通商分野で対立するなか、米国がWTOの最高裁に相当する上級委員会のメンバー補充を拒否したためだ。そのため足元では重要な柱である紛争処理機能が停止する混乱が続いている。