社会変革、王室まで標的 タイ反体制デモ終息みえず

社会変革、王室まで標的 タイ反体制デモ終息みえず
2020年 衝突の残像②
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGS158970V11C20A2000000

『「不敬罪廃止は王室改革の第一歩だ」。タイの憲法記念日と世界人権デーが重なった10日、バンコクで反体制デモに参加した若者らは国連ビル前で訴えた。タイでは王室や王族を侮辱すると不敬罪で摘発され、量刑は最長で禁錮15年だ。

警察は11月下旬以降、デモの指導者ら30人以上に不敬罪で出頭を命じた。同罪は2016年に即位したワチラロンコン国王の意向で2年以上、適用が控えられてきたとされる。

バンコクでは10月…』

・バンコクでは10月以降ほぼ毎週、軍政の流れをくむプラユット政権の退陣や王室改革を求める1万人規模のデモが開かれてきた。同様なデモは地方都市にも広がる。警察が放水車や催涙ガスで解散させようとして、かえって反発を招いた。

・反体制デモのきっかけは2月、憲法裁判所が民主派野党「新未来党」に解散を命じたことだ。新未来党は民政移管に向けた19年3月の総選挙で躍進したが、同党に対する党首の融資が選挙法に違反すると判断された。憲法裁はプラユット政権の影響下にあるとされ、解散命令は政権による民主派の弾圧だと受け止められた。

・デモの主な要求は当初、プラユット首相の辞任だったが、9月ごろには軍の政治関与を弱める憲法改正と、王族を政治から遠ざける王室改革が加わった。ワチラロンコン国王がもっぱらドイツに滞在し、ぜいたくに暮らしているとの情報も新型コロナウイルスに苦しむ一部の市民を刺激した面もあった。

・若者らはデモだけでなくSNS(交流サイト)でも王室を批判するようになった。一方、中高年を軸とする王室支持のグループも独自の集会を開き、若者らを批判。王室のあり方を巡るせめぎ合いは世代間対立の様相を呈した。

・若者らの不満の背景には、国王を頂点に国軍や財閥など既得権益層が政治経済を支配するタイ独特の立憲君主制を巡る閉塞感がある。近年のタイは、賃金上昇で労働集約型の産業が競争力を失う「中所得国のわな」にはまり、先行きが不透明だ。だが、このシステムのもとで高い成長を経験した中高年の多くは王室を尊重する気持ちが強い。象徴は16年に死去するまで70年間にわたって在位したプミポン前国王だ。

・王室改革はタイ社会の仕組みを根底から覆しかねず、軍や財閥が支える政権は譲歩する姿勢をみせない。11月には「アメ」として、改憲手続きに前向きな構えを示すが、王室改革に道を開く提案は国会で否決された。「ムチ」は不敬罪による取り締まりの強化だ。

・ドイツ滞在を問題視されるワチラロンコン国王は10月以降、タイにとどまっている(5日、バンコク)=ロイター
反体制デモは、一部で先鋭化する。集会では「共和国」と書いたプラカードが掲げられ、王制廃止を暗に求める。有力指導者のアノン弁護士は14日「今年は序曲にすぎず、来年はもっと激しくなる」と述べ、年をまたいで抗議を続けると言明した。

・これに対し、プラユット氏は同日「新型コロナの感染が再拡大したら、もう一度ロックダウン(都市封鎖)が必要だ」と指摘した。現在は「ガス抜き」として認めている大人数での集会を、再び禁止するかもしれないと警告した。

・実際に足元では感染の第2波が起こりつつある。政権が新型コロナ対策で延長を繰り返している非常事態宣言を厳格に適用すればデモを取り締まれるが、若者らが反発するのは確実だ。対立が終息する兆しはみえず、大規模な衝突につながる気配さえ漂う。

(バンコク=村松洋兵)