仏極右の勢い強めるか ルペン氏のめい、好機狙う

仏極右の勢い強めるか ルペン氏のめい、好機狙う
パリ支局 白石透冴
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGR16CKN0W0A211C2000000

『フランス極右の次世代を率いる政治家として、国民連合マリーヌ・ルペン党首のめい、マリオン・マレシャル氏が注目を集めている。2017年に政界を退くと表明したが、じっと復帰の好機を待っているとの見方が強い。31歳と若く、広く保守層を取り込もうとしている。中長期的に仏極右の勢いを一歩進める可能性を持つ人物だ。

マリオン・マレシャル氏は「引退」表明後も活発に活動する(2018年)=ロイター
「いつか政界に戻るかもしれない」。マレシャル氏は15日、仏ラジオの取材に答えた。メディアの取材に積極的に応じ、復帰の可能性をにおわせ続けている。22年次期大統領選挙について自身の出馬は否定したものの、「驚くようなことが起きるかもしれない。既存政党以外から候補者が出るかもしれない」などと持論を語った。

フランスにある極右政党のうち、最大勢力が国民連合だ。1972年に国民戦線として結党され、ジャンマリ・ルペン前党首が国民の治安への不安感などを追い風に、勢力を伸ばしてきた。

さらに存在感を高めたのが現在の党首で娘のマリーヌ・ルペン氏。反移民を主な主張として、17年の前回大統領選挙では伝統二大政党の候補を押さえてマクロン候補(当時)との決選投票まで進んだ。一方で国民連合の国民議会(下院)での議席数は全577議席中6席にとどまる。

最年少で下院当選も27歳で引退表明
マレシャル氏はルペン党首のめい、ジャンマリ氏の孫にあたる。1989年、パリ郊外のサンジェルマンアンレーで生まれ、2008年には早くも国民連合の党員となった。12年にフランス史上最年少の22歳で下院議員として当選して関心を集めたが、17年に27歳で「政界引退」を発表した。18年、右派のエリート層を養成するとの触れ込みで私立校ISSEPを設立し自身が代表を務めている。

引退を主張するマレシャル氏だが、専門家や仏メディアの関心は高い。大きな理由は、極右勢力をさらに強固にする可能性がある政治家とみられているからだ。

ルペン党首(左)とマレシャル氏はライバル関係になる可能性もある(2016年)=ロイター
依然一定の支持を誇るルペン党首だが、限界も見え始めている。ルペン党首は22年大統領選挙もマクロン大統領との一騎打ちになるとの世論調査になっているが、勝って大統領になると予測する人は少ない。

フランスの大統領選は1回目投票で、最も得票数の多い2人が2回目投票に進む仕組みだ。1回目で勝っても、2回目で反ルペン票が一気にマクロン氏に流れて敗北するというのが大方の予想だ。

ルペン党首を見限る動きも出始めた。仏紙パリジャンは7月、一部の極右政治家がルペン党首が大統領になる見通しはないとみて、新たなリーダーを探し始めたと報じた。マレシャル氏自身はまだ機が熟していないとみているもようだが、次のリーダーとして担ぎ出される環境はじわじわと整いつつある。

「ルペン」を名乗らない理由は
「ルペン色」をうまく消してきているとの評価もある。同氏はかつて「マレシャルルペン」を名乗っていた。だが17年からはルペンを除いて名乗るようになった。

祖父のジャンマリ氏は第2次世界大戦のユダヤ人虐殺に使われたガス室を「歴史の細部」と語るなどした人物で、フランスではルペンという名前にアレルギー反応を示す人が少なからずいる。

マレシャル氏はルペン姓を名乗らないことで、右派に広くアピールできると考えている可能性がある。仏紙リベラシオンによると、本人の身分証明書の表記は元のまま変わっていない。

肝心の政策はどうか。ルペン党首が票を集めるために柔軟に政策を変える大衆迎合主義(ポピュリズム)政治家と評されるのに対し、マレシャル氏は「伝統的な」極右政治家とみられている。

「白人によるキリスト教国家」を志向し、同性愛への嫌悪、イスラム教の敵視などを訴える。欧州連合(EU)懐疑派だが、ビジネスについては比較的自由主義だとみられている。対照的に、ルペン党首は例えば批判を恐れて同性愛への言及を控えめにしている。

「陰謀論」に基づいた主張も
「我々はまず『大いなる交代』に立ち向かわなければいけない」。マレシャル氏の主張はしばしばルペン氏より極端だ。19年9月、右派層向けスピーチでこのように語った。

大いなる交代とはフランスなどの極右勢力が唱える陰謀論だ。イスラム教徒がいつの間にか欧州で増え、キリスト教社会が乗っ取られるとの考えで、19年にニュージーランド(NZ)のモスクで銃を乱射した男も同じ陰謀論を信じていたとみられる。

マレシャル氏(左)はジャンマリ・ルペン氏(右)の孫にあたる=ロイター

マレシャル氏は陰謀論を使って反移民を強調し、子供を産みやすくする政策が必要だと訴えた。イスラム教徒に乗っ取られないためには、白人のキリスト教徒が子供を産まなければいけないと受け取れる発言だ。大いなる交代はルペン党首も公には認めていない考えだ。

世論調査をみる限り、政界復帰のタイミングは来ていない。仏ラジオ、フランスアンフォが3月に報じた調査によると、国民連合で重要な役割を果たす人物として、マレシャル氏がふさわしいと考える人は16%だった。ルペン党首と考える人は20%だった。今復帰すれば、ルペン党首とライバル関係が生まれて潰し合う可能性も出てくる。

ただ今後数年でどうなるか。例えば22年大統領選でルペン党首が敗れるとすると、支持層から世代交代を求める声が出る可能性がある。そのタイミングでマレシャル氏が出てくれば、若さと新しさを売りに、徐々に保守層を取りまとめる存在になるシナリオはありうる。その時に仏極右の脅威がもう一段高まる恐れがある。』