カインズ、ワークマン…強い専門店束ねるベイシアG

カインズ、ワークマン…強い専門店束ねるベイシアG
SPAに磨き 2020年初の売上高1兆円超え
https://www.nikkei.com/article/DGXZQODZ1130S0R11C20A2000000

『ホームセンターのカインズ、作業着のワークマン、これら成長株の企業を束ねるのが、群馬県地盤のスーパーのベイシアを中核とするベイシアグループだ。強みは創業者の時代から徹底する「安さと商品力」。自主性を重んじることで各社の専門性を磨く経営が奏功し、2020年度は初めて売上高1兆円を達成する。効率性を重視する哲学がデジタル技術の積極的な採用にもつながり、EC(電子商取引)勢にも引けを取らない戦いを繰り広げようとする。

カインズスーパーセンター前橋吉岡店の売り場(右側)と一体化している(群馬県吉岡町のベイシア前橋吉岡店)
カインズとベイシアの「一体型店」
群馬県吉岡町の「カインズスーパーセンター前橋吉岡店」。カインズでトイレットペーパーや食器などの日用品を買ったある家族連れが、会計を済ませることなくそのままベイシアの野菜売り場へ。最後に買い忘れに気付いたのか、再びカインズでラップをカゴに入れてから会計に向かった。

前橋吉岡店は売り場面積2万1447平方メートルの大型店舗。カインズとベイシアが一体になった店舗だ。広域集客型のカインズと来店頻度の高いベイシアのタッグで互いの客数増に貢献、ベイシアでは共同出店の店舗は単独出店に比べて売上高が3割ほど高いという。

カインズの強みは安くておしゃれなプライベートブランド(PB)商品、かたやベイシアの強みは食品や飲料などの安さだ。3月に設けた「クッキングファン」では相互送客以上のシナジー創出にも取り組み始める。今後、軽くてデザイン性の高いカインズのPB調理器具とベイシアの食材で料理教室などを開く。

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創業から約60年、専門店に磨き

ベイシアグループのルーツは1959年創業の服の生地を販売する「いせや」だ。グループを束ねる、創業家2代目の土屋裕雅・カインズ会長はグループの歩みを「スピンアウトの歴史」と振り返る。創業以来、生活用品、食品と事業領域を専門店として切り離して成長させてきた。グループ共通で掲げるスローガンは「より良いものをより安く」だ。

その言葉通り、圧倒的な安さでアパレル業界を席巻しようとしているのがワークマンだ。製造小売り(SPA)による商品作りで、防寒着が2900円という安さと、大雨もはじく機能性の高さが男女問わず人気だ。15年3月期から20年までで売上高は約2倍の1220億円に伸びた。PB比率は18年に32%だったのが、22年には60%に達する見込みだ。

ワークマンのアウトドア衣料はコロナ下でも販売が好調だ

ワークマン、プロ向けをアウトドアに応用

もともとワークマンは建築現場の職人などが中心だが、18年にカジュアル衣料品店風の「ワークマンプラス」の出店を始めると、女性客が急増。ワークマンの小浜英之社長は「職人向けで意識した高品質・低価格は変わっていない。EDLP(毎日安売り)でアウトドアやスポーツにも使えるようにして客層拡大にカジを切った」と話す。

客層を広げながらもワークマンが重視するのはプロ向けだ。店も職人と一般の人が来る時間帯、どちらにも対応できることで効率もアップ。生産面でも10年を超える協力工場との信頼関係で、柔軟に対応できる。

全国的に幅広い知名度のカインズとワークマンに対して、群馬地盤のベイシアの知名度は低い。しかし、圧倒的な安さで進出地域内で消費者の支持は厚い。自社物流の導入でコスト削減が進み、他店よりも価格を下げやすいのが強みだ。

飲料は商品ジャンルごとに並べている(群馬県吉岡町のベイシア前橋吉岡店)

「商業の工業化」に強み

ベイシアグループには創業者による「商業の工業化」という言葉があるという。小売業の生産性の低さを踏まえ、システムの導入や作業の見直しで低価格を実現するという考えだ。ベイシアの橋本浩英社長は「スーパーこそスピード感を持って変わらないと生き残れない」と強調する。

今後はカインズやワークマンとのシナジー創出を模索する。前橋吉岡店はその一つのモデルケースになる。今やスーパーとホームセンターが入る大規模商業施設(SC)は珍しくはない。ただ、橋本社長は「グループでできるから(他の企業と組むのに比べて)はるかにつながってできる。お客さんの信頼感や親近感にも影響する」と自信を見せる。

専門店の力に磨きをかけ、安さと品質を追求してきたベイシアグループ。コロナ禍での高い支持は必然だろう。イオンやセブン&アイ・ホールディングスなどの総合小売業と競いながら一段と存在感を高めそうだ。

グループでノウハウ共有

創業60年を超えたベイシアグループで初めての試みが始まった。ベイシアやカインズ、ワークマンなどの幹部がオンライン会議などで、毎月互いのノウハウを伝え合う。これまで通常の企業グループでは当たり前のようなことをせず、自由に経営を任せてきた。縛りが緩いことが、各社の創造性を促し、イオンなどに対抗するとがった専門店を生み出す原動力となった。だが、今度はその逆をやろうとする。

「いせや」はイトーヨーカ堂の伊藤家やイオンの岡田家と同じく総合スーパー(GMS)を目指したが、74年の大規模小売店舗法(大店法)の影響でやむなく事業を切り出した。中核企業のいせやを錦の御旗に集うのではなく「野放しにしていた」(土屋裕雅会長)ことが奏功してきた。グループとしての成長は次のステージに移る。

グループ売上高1兆円超え

今秋、グループの年間売上高が1兆円を超えたと発表した。地方地盤でかつM&A(合併・買収)に頼らずに達成するのは小売業の歴史でも異例だ。それでも土屋裕雅会長は危機感が強い。「唯一無二の存在になる気概がないと成長は難しい」。消費行動が様変わりするなか、グループ企業には一段と個性的な企業に進化するよう迫る。

グループでノウハウを共有する取り組みも、新たなマーケットを生み出す後押しをするためだ。土屋裕雅会長は「最大公約数を採用するのではなく、あえて非効率も容認する」と強調する。

一方で、ニトリホールディングスが島忠の買収に乗り出すなど、専門店が領域を超えて総合化に動き出している。自社だけでは環境の激変に対応できなくなっているためだ。さらに突き抜けた専門店集団の姿を描けるかが試されてくる。

(栗本優、伊神賢人、淡海美帆、佐伯太朗)

グループが専門店経営を進めた経緯や今後の針路について、土屋裕雅・カインズ会長に聞いた。

――ベイシアグループは現在、ホームセンターと作業服で強い存在感を発揮しています。専門店集団はどのように形成されたのでしょうか。

「祖業は服地の専門店で、服を各家庭で手作りしていたころの材料を売る店だった。そこから洋服を扱うようになり、住関連、食品と商品が増えてきました。今で言う総合スーパー(GMS)を他店舗展開しようとしていたら、大規模小売店舗法(大店法)ができて、大きな店が出せなくなった。それで専門店をスピンアウトして増やしていきました」

カインズの土屋会長

――グループのどの企業を見ても安さが強さの一因になっています。昔から価格には重点を置いてきたのでしょうか。

「より良いものをより安くというのが創業者(ベイシアの土屋嘉雄会長)の1つの方向性としてあって、我々はディスカウントビジネスなんだという言い方をしていました」

「ただ、ディスカウントビジネスという言葉の解釈は時代とともに変わります。よそで100円で売られている同じお茶が50円で売れるのは相対的な安さです。ですが、世の中にない価値あるものを作ってそこそこの値段で売れるならばそれは絶対的な価値になる。『より良いものをより安く』と言っていいと思っています」

ホームセンターにもSPA定着を予見
――製造小売り(SPA)の考え方は土屋会長が指揮を執るカインズでも進んでいます。

「2000年前後に、ユニクロにフリースブームがありました。ああいった衣料品の世界でSPAは定着し始めたと思います。100円均一のような絶対的な価値で勝負する業態もいくつか出始め、ホームセンターもいわゆるメーカー商品の価格一辺倒の戦略がこのまま通用しないだろうという感覚がありました」

「SPA化の成功事例で言えば、欧州の展示会では、よくピクニック商品が展示されていますが、日本では数年前まであまり根付いていなかった。そういったライフスタイルが面白いと感じて、鍋やカップなどのサイズや色を日本に合うようにアレンジして展開したところ、アウトドアブームも重なって市場に定着しました」

――デジタル技術の活用でも業界をリードしています。

「ちょっと遅いぐらいだったと思っています。世の中の流れがどうせデジタルに向かうなら、全体が動いてからよりも早くやった方がいいという感覚です」

デジタル部門を内製化
――18年にIT(情報技術)小売業を宣言してから、19年にはデジタル戦略本部を立ち上げて自社内の開発体制を整えてきました。デジタル部門を内製化する理由は。

「そちらのほうが得だからです。外部とのパートナーシップだけでリーズナブルにできるならそれでもいいですが、現状はコストがかさむとか、ノウハウが自社に残らないといったデメリットがありますから」

――ベイシアグループには家電や自動車用品販売などの業態もあります。今後のグループのあり方をどう考えていますか。

「業態の捉え方だと思っています。自分で自分の枠を定義してしまっているからやれることが限られて成長が止まってしまう。例えば、ベイシア電器は20年後に家電を売っていなくても良いと思います。清閑堂もずっと墓石や仏壇を販売し続ける会社でいる必要はない。例えば、これから増えるシニアを元気づける会社だと再定義すれば、やれることは広がります」

「ベイシアグループは様々な業態を遠心力によって切り出すスピンアウトの歴史でした。ただ過去はスーパー、ホームセンターといった業態の考え方が明確に決まっていて、その業態が好調な時は上位企業も下位企業も好調でした。これからは旧来の業態を超える、業態がなくなるということになると思います。グループ各社が自分たちが唯一無二の存在になるんだという気概が必要です。同時に、今後も新しい専門業態を生み出せるグループでなければならないと思っています」

遠心力からの脱却模索
――最近はグループシナジーも模索しています。

「遠心力で様々な業態を生み出して各社の業態にあった経営に任せていましたが、ある意味で遠心力が強すぎると感じる場面もあります。今年から月に一度、各グループの取り組みの好事例を集める共有会を始めました」

「例えばワークマンでは自社の社員がデータ分析の技術を身につけて店舗経営などに生かしています。それを他企業でそのまま取り入れられる訳ではありませんが、グループ各社の幹部や担当者が学んでいます」

――創業家としての今後のグループへの関わり方は。

「オーナーシップの考え方と実際に事業を運営するのとは違います。株主としてのリードと、事業としてのリードのバランスが重要です。株主としての土屋家はいますが、事業を運営して市場で結果を出す経営陣は色々いていい。カインズの高家正行社長は土屋家ではありませんが、経営のプロとして彼のような人材がいるのはいいバランス感だと思います」

――今後も自力成長を目指すのでしょうか。

「そこにこだわりはありません。たまたま自力で1兆円規模まで成長できたのはいいことですが、客観的に考えて、あらゆる技術を自力で生み出せることの方があり得ない。業態を超えて唯一無二の存在になることが求められる時代になった時、外部と組むということは当然あり得ます」

(聞き手は栗本優、伊神賢人)』