信じるのは成功ではなく自分 ポジティブ思考の神髄

信じるのは成功ではなく自分 ポジティブ思考の神髄
第21回 ポジティブ思考
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『災い転じて福となす
早いもので今年もあと2週間あまりとなりました。皆さんにとって、2020年は一体どんな年だったでしょうか。よかったら少し振り返ってみてください。

私自身で言えば、新型コロナウイルス禍で講演や研修の仕事が軒並みキャンセルとなり、収入が半分以下になってしまいました(涙)。情熱を傾けて必死にやってきた仕事が、「不要不急」のなりわいにすぎないことを痛感させられた1年でした。

といった話をすると、多くの人は気の毒そうな顔をしてくれます。読者の皆さんも、多少はそう思われたと思います。いえいえ、2020年は私にとって素晴らしい年でもあるのです。

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たしかに収入の柱であった研修の仕事は激減しましたが、その分だけ本や原稿の執筆にたっぷりと時間を割くことができました。おかげさまで2冊の新刊を上梓(じょうし)することができ、現在も大作を執筆中です。まさに「災い転じて福となす」です。

加えて、講演や研修をオンライン化せざるをえなくなり、ややマンネリ気味だった中身やスタイルを一新することができました。蓄積された知見は、格好の執筆のネタとなります。

何より、久しぶりに家族とゆっくりと過ごせたのがありがたく、今後の人生についても思いをはせることができました。そうそう、大事なことを忘れていました。家族を含め、新型コロナウイルスに感染せずに、健康で1年を終えられそうなことです。

こんな風に、前向きに考えると、「また来年、頑張ってみよう」「来年も大変だろうが、どうにかなるよ」と気持ちが明るくなります。これこそが「ポジティブ思考」のなせる技です。

肯定的な面を意識的に見る

身の回りで起こる出来事そのものに良いも悪いもありません。それをどうとらえるかで、意味づけがなされます。たとえば、コップに半分入った水を見て、「半分もある」「半分しかない」と考えるのは私たち自身です。

物事の肯定的な側面(メリットや機会など)を見るのがポジティブ思考(プラス思考)であり、否定的な側面(デメリットや脅威など)を見るのがネガティブ思考(マイナス思考)です。どちらか片方が正しいわけではありませんが、現代社会では前者がもてはやされています。

不確実でストレスの多い社会においては、多少「楽観的」に考えないと前に進めなくなってしまうからです。ポジティブ思考を効かせれば、気持ちが明るくなり、物事に「前向き」「積極的」に取り組んでいけるようになります。交友関係も広がり、充実した時間が過ごせるようになります。

ビジネスにおいても同じです。有名な逸話(作者不詳)を紹介しましょう。

ある靴メーカーの担当者2人がアフリカに市場調査に行ったところ、誰も靴を履いていませんでした。それを見た1人は「靴が必要とされておらず、商売にならない」と考え、もう1人は「靴が普及できれば大もうけができる」と考えました。どちらにチャンスがあるかは言うまでもありません。

ポジティブ思考を身につけるのに、手順も方法もありません。無理やりにでも肯定的な面を見る癖をつけるしかありません。ネガティブ思考が働いてD言葉(だって、どうせ、でも……)が頭の中で点灯したら、強制的に前向きに考えみる。そうやって思考の習慣にしていくのです。

ポジティブ思考が失敗する3つの理由

ここまで読んで「よし、あしたからポジティブ思考でいこう!」と考えた人がいたら、もう少し待ってください。ポジティブに考えたために、かえって失敗するということもよく起こるからです。

よくあるのは、「うまくいくだろう」「悪いことにはならない」という信念が、「100%うまくいくに決まっている」「悪いことは絶対に起きない」と確信(思い込み)になってしまうことです。自分に都合のよい話しか頭に入らず、いつか痛い目に遭う羽目になります。

しかも、失敗したとしても、「終わったことは仕方がない」「○○がドジを踏んだから」とまったく反省しないので、始末に負えません。まさにポジティブ思考の暴走列車です。

なかには、ポジティブ風を周囲に吹かせまくり、ネガティブな考えをする人を糾弾したり無視したりする人がいます。やたらハイテンションで、とてもついて行けません。自分はそれで心地よくても、チームの和を乱すことになります。

あるいは、こういう人もいます。ポジティブな未来を描くだけで満足してしまい、行動に移せない夢想家です。成功した自分を想像するだけで、やった気になってしまうのです。ダイエットでよく起こる現象であり、身に覚えのある人もいるのではないでしょうか。

もうお分かりのように、「過ぎたるは及ばざるがごとし」です。ポジティブ思考とネガティブ思考をバランスよく使ってこそ、正しい判断や行動ができます。本当のポジティブ思考とは、単に楽観的に考えることではないのです。

ホンモノのポジティブ思考とは?

頭から「うまくいくに決まっている」と考えるのも、「誰かが何とかしてくれる」と考えるのもポジティブ思考ではありません。それでは、楽観的を通り越して、楽天的になってしまいます。

物事のポジティブな面もネガティブな面も両方見た上で、「自分でどうにかできるだろう」と考えるのが、本来のポジティブ思考です。成功を信じるのではなく、自分を信じる思考法なのです。

ただし、ここで言う自分とは、あくまでも「等身大」の自分です。

無理に大きく見せたり、卑下して小さくなったりしない、「ありのまま」の自分です。それを信じて、物事に積極的に取り組んでいくのが、真のポジティブ思考なのです。

ですから、物事を悲観的に考えることが多いからといって、無理に治す必要はありません。おそらく、無理に治そうとすると、かえって混乱してしまい、余計にうまく考えられなくなります。

まずは、「悲観的に考える自分」を肯定的にとらえてはいかがでしょうか。「自分には悲観的に考える癖があるが、ここまでどうにかやってこられた。きっとこれからも、この癖とつき合いながらやっていけるだろう」といったように。

そうすることで、きっと「悲観的に考える自分」のとらわれからも自由になれるはずです。結果的に、世間がイメージするポジティブ思考に一歩近づくことができます。

堀公俊
日本ファシリテーション協会フェロー。大阪大学大学院工学研究科修了。大手精密機器メーカーで商品開発や経営企画に従事。1995年からファシリテーション活動を展開。2003年に日本ファシリテーション協会を設立、研究会や講演活動を通じて普及・啓発に努める。著書に「ファシリテーション入門第2版」「会議を変えるワンフレーズ」など。』