「日本の守り」少子化の影 自衛隊、担い手不足深刻

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『少子化が日本の守りに影を落としつつある。陸海空の自衛隊で任期制自衛官の採用は2019年度まで6年連続で計画を下回り、担い手不足が深刻だ。ミサイル防衛の要となるイージス艦を増備しにくくなるなど部隊の整備や運用にも影響が出てきた。

10月30日、衛藤征士郎元防衛庁長官ら自民党の国防議員連盟が国会内で岸信夫防衛相に新型イージス艦を2隻増備するよう求めた。中国や北朝鮮の軍事的脅威に備えるため「要員と予算が必要だ。大臣のリーダーシップでお願いしたい」と訴えた。

イージス艦は弾道ミサイルを打ち落とす能力を備える防御力の高い護衛艦である。計画を断念した地上配備型迎撃ミサイルシステム「イージス・アショア」の代替策として浮上するものの、運用には1隻300人が必要となる。

海自は人員不足を理由に増備に後ろ向きで、見かねた議連が予算と合わせて増員も要請した。自民党内には「人手不足のせいで抑止力を強化できなくなりつつある」との危機感がある。

自衛隊の採用は幹部を養成する「幹部候補生」、部隊の中核となる「一般曹候補生」、任期制の「自衛官候補生」などに分かれる。このうち採用時の人数が最も多いのは高卒者が中心で任期2~3年の「自衛官候補生」だ。

自衛官候補生の採用者数は14年度以降、6年連続で計画を達成していない。19年度の採用数は海自と空自が計画を1割ほど下回った。18年度には陸海空全体の採用達成率が7割にとどまった。

50歳代の定年まで働く「一般曹候補生」と異なり、任期満了後に勤務継続か民間などへの就職を選べる自衛官候補生は民間企業とも競合する。「アベノミクス」による景気拡大が続き、雇用を増やした民間に人材が流れた面があるものの、採用難の根源的な問題は少子化にある。

自衛官の採用対象年齢は18年まで18~26歳だった。この人口は1994年の1743万人をピークに減少に転じ、2019年は1133万人と3割以上減った。自衛隊の応募者数は8万人程度で90年代のピーク時から半減した。

18年から採用対象年齢の上限を32歳に引き上げても、少子化はさらに加速する。18年に1903万人いる18~32歳は国立社会保障・人口問題研究所の予測では28年に1750万人、38年に1563万人に減る。10年ごとに200万人少なくなる。

人口が減っても守るべき国土は狭くならない。むしろ自衛隊の仕事は増え続けている。沖縄県尖閣諸島で領海侵入を繰り返す中国公船の背後には軍艦が控えていることが多い。中国の海洋進出が活発になるにつれて、万が一に備えて周辺海域に張り付かせる自衛艦も増やさざるを得ない。

北朝鮮を巡ってはミサイル発射への警戒や、国連決議で輸入を制限する原油や石炭の洋上取引「瀬取り」の監視にあたる。20年からは中東海域での民間船舶の安全確保のために護衛艦を派遣した。

新たな任務の多くが関係する海自の人手不足は特に深刻だ。18年度の採用達成率は6割に満たず、陸自や空自と比べて最も低かった。背景には海の上での生活が続く職場環境の厳しさがある。

10月に中東派遣から帰港した護衛艦の乗員は新型コロナウイルスの影響で一時上陸ができず乗員は5カ月も艦内での生活を続けた。海自はメールなどを使えるよう護衛艦内の通信環境の改善を進めており「海の仕事の魅力を伝えて人材を集めたい」と語る。

領空侵犯を監視する空自も似た悩みがある。日本列島の外側を囲むように置くレーダーサイトは都市部から遠いため若年層が嫌がる。

阪大准教授を経て15年まで在日米海兵隊の政務外交部次長を務めたロバート・エルドリッヂ氏は「グローバル化で若い優秀な人材は国内企業だけでなく海外企業にも引っ張られるようになった。自衛隊は以前にも増して人が集まりにくくなる」と話す。

「インターンシップ(就業体験)などで若者に自衛隊への関心を持ってもらう施策が必要だ」と指摘する。

海上自衛隊に初の女性潜水艦乗組員が誕生した(10月、広島県呉市)=海上自衛隊呉地方総監部提供・共同

■進む女性登用、潜水艦にも 米軍の取り組み参考に

自衛隊は少子化対策の一つとして女性登用を進める。岸信夫防衛相は自衛隊の人的基盤の強化策に「女性自衛官の活躍の推進」を挙げた。

これまで自衛隊に関心を持つ学生の多くは男子だった。応募者は多くの職種で8割超が男性だ。女子学生が関心を持てば裾野は一気に広がる。

自衛隊では女性の活躍の幅が広がっている。陸上自衛隊では今年3月、有事の際にパラシュートで最前線に投入される空挺(くうてい)部隊で女性初の隊員が誕生した。海上自衛隊でも初めて女性が潜水艦の乗組員になった。

防衛省は21年度予算の概算要求で女性自衛官の勤務環境を整えるために50億円を計上した。女性用のトイレや浴場を整備したり、艦艇のなかに専用の区画をつくったりするのに費用をかける。

2019年3月末時点で全自衛官に占める女性の比率は6.9%だった。10年間で2ポイント程度上昇したものの、民間企業などと比べると大きく下回る水準だ。逆に言えば増やす余地がまだある。

米軍は過去半世紀で女性比率を2%から16%に引き上げた。出世しやすい戦闘職を含め全ての職種で15年から女性にも門戸を開いた。防衛省内では米軍の取り組みを参考にする動きがある。

■〈記者の目〉不祥事防止、改革の前提に

戦後の日本は安全保障の議論をタブー視する風潮があった。自衛隊は「目立ってはいけない組織」とされ、転居してきた隊員の住民登録を市長が拒否する事件が起きたこともある。国際協力や災害対応を積み重ね、社会の認識を少しずつ変えてきた。

日本経済新聞社の2019年郵送世論調査で自衛隊の「信頼度」は60%だった。裁判所や警察、検察など8項目のなかでトップである。一定の信頼をすでに得ているにもかかわらず人手は集まらない。

一つの原因は度重なる不祥事だろう。イラク派遣部隊などで日報隠しが起き、パワハラや傷害暴行の懲戒処分件数が増加傾向にある。実力組織であるからこそ内部の不祥事防止策はより重要になる。それは無人機の導入や女性の登用といった改革を進めるための前提でもある。(甲原潤之介)』