自動車、今後はソフトで稼ぐ VWが投資倍増の3.3兆円

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『世界最大手の自動車メーカー独フォルクスワーゲン(VW)が車のソフトウエアの分野に5年で270億ユーロ(約3兆3千億円)を投資する。デジタル化で先行する米電気自動車(EV)大手テスラへの対抗で、従来計画の2倍にする。背景には自動車業界が売り切りのビジネスから、ソフトで自動運転機能などを追加して収入を得る稼ぎ方に移る構造変化がある。

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「テスラを倒す」ための投資

「この計画はテスラを倒すためのものだ」。VWのヘルベルト・ディース社長は16日、2021~25年の投資計画説明会で強調した。約2時間の説明会でディース氏ら幹部は、テスラという言葉を20回以上も発した。ライバルの名指しを控える企業も多い中、異例だ。

VWはEVに年平均60億ユーロを超える巨額投資を実施。EV専用車台を使う「ID」シリーズの出足は良く、コスト面でテスラに対抗できるとの自信をのぞかせる。一方で車のデジタル化についてディース氏は「テスラは2週間ごとにクルマをアップデートするなど顧客に新しい体験を提供している。VWはそれができていない」と認める。

テスラは19年春以降に出荷した全ての新車に完全自動運転に対応可能なコンピューター「FSD」を搭載しているとしている。現在は運転手の監視のもとで高速道路を自動走行する機能などに限るが、ソフトの更新により市街地での自動運転にも対応できるという。

従来、車は販売店や整備工場で部品の交換や追加をしてきた。テスラなどは「オーバー・ジ・エア(OTA)」と呼ぶネット経由で車のソフトを更新する技術を使う。19年9月には「モデル3」などの発売済みの自社車両に無人運転で車を呼び寄せる機能を追加した。

テスラは米国で販売する全車種で「オートパイロット」と呼ぶ運転支援機能のオプション料金を従来の8千ドルから1万ドルに引き上げた。テスラはこの機能による収益の内訳を明らかにしていないが、米国では27%の購入者がオプションを選択しているとの推計もある。仮に購入者の4人に1人が選択していた場合、20年7~9月期の自動車部門の売上高の4%をソフトで稼いだ計算になる。

機能拡充に伴い今後もオプション料金を引き上げる方針。いずれはサブスクリプション(継続課金)型のサービスとして提供する考えを示している。米モルガン・スタンレーはテスラの完全自動運転機能の月額料金は100ドルを超すケースもあると予想し、10年後に同機能が生み出す粗利益は全体の30.4%を占めると予測する。

■「アルテミス」プロジェクトでEVに独自OS

こうした変化の波がVWをデジタル化への投資に走らせるが、その先陣となるのが、傘下の高級車ブランド独アウディで進めるプロジェクト「アルテミス」だ。

ギリシャ神話の「狩猟の女神」の名前の通り、目的は「テスラ・ハンター」となる旗艦EVの開発。関係者によると、このEVは独自開発の基本ソフト(OS)を搭載し、常にネットにつながって顧客との接点や自動運転機能を最新に保つという。24年に最上級車として発売し、グループの独ポルシェや英ベントレーでも展開する。

グループ横断のソフト開発組織をVW乗用車ブランドからアウディに移管した。現在10%のソフト内製率を60%に引き上げる狙いだ。これまではエンジンなどの走行性能や内外装の高級感で争ってきたが「ソフトが最大の差別化要因になる」(VW幹部)とみている。

ただ、ディース氏はハードからソフトの会社への転換について「スムーズな移行ができるか。ノーだ」とも認める。最近でも全面改良した「ゴルフ」の新型車の量産がソフトの不具合で遅れたほか、EV「ID.3」では当初予定していたネット経由での機能更新を見送らざるを得なかった。

■人材確保が課題に

人材確保も課題だ。ソフト会社の買収などで人材をかき集めるほか、本拠地のウォルフスブルクにフランスのプログラミング学校「エコール42」を誘致するという奇手も繰り出す。VWは資金提供し、優先的に卒業生を採用する考えだ。

「ソフトウエアで収益を上げるなど学べる点が多々ある」とトヨタ自動車の豊田章男社長もテスラを認める。一方で「リアルな世界では電動化フルラインアップをそろえる我々の方が選ばれるのではないか」と語り、ソフト最重視へとカジを切っているとも言えない。

テスラが自動車業界に投じたEV化とデジタル化という2つの大波。その流れを認めつつどこまで本気で追いつこうとするのか。トヨタ以上の覚悟を見せるVWだが、従業員60万人を超える巨艦だけにそのスピード感が重要となりそうだ。

■S&P500採用時で最大の時価総額
 テスラは株価が年初来で5倍近くに伸び、勢いが続いている。16日には米国の代表銘柄で構成されるS&P500種株価指数に新規採用すると、米S&Pダウ・ジョーンズ・インディシーズが発表した。16日終値ベースの時価総額は3868億ドル(約40兆4千億円)に上り、米メディアによるとS&P500に追加される銘柄としては過去最大規模となる。
 採用が決まったことから、上場投資信託(ETF)など株価指数に連動するパッシブ運用の資金が流れ込むとの期待が一段と高まった。16日の米国市場の時間外取引でテスラ株は急騰した。
 テスラが時価総額でトヨタ自動車を上回り、業界最大となったのが7月。販売台数ではトヨタとVWはそれぞれテスラの20倍ほどだが、時価総額は2社合計でもかなわない。トヨタ自動車の豊田章男社長も「株式市場での評価は完全に負けている」としている。
(フランクフルト=深尾幸生、シリコンバレー=白石武志)』