耳打ちできない、誤解される ささいで大きなリモートストレス

耳打ちできない、誤解される ささいで大きなリモートストレス
高市 清治 日経クロステック/日経ものづくり
2020.11.18
https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/column/18/00001/04835/

『「小声で耳打ちできない」「正確に聞き取ってもらえず、肯定したのに否定と受け取られた」「パソコンの操作ミスで会議が阻害された」——

 日経ものづくりが2020年10月初旬に実施した「製造業におけるリモートワーク/在宅勤務」に関するアンケート調査の結果では、Web会議に対するこんな不満の声が目立った。リモートワークが常態化する中、ささいだが積み重なると大きくなる「リモートストレス」に頭を悩ます人が増えているようだ。

あなたが所属する部署が実施しているWeb会議システムなどによるリモートワーク(社内)は次のうちどれですか
回答者数:250(出所:日経ものづくり)
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 所属部署で実施しているWeb会議の用途を尋ねた設問には、「事務的な打ち合わせ」との回答が最も多かった。「社内」相手では全体の8割、「取引先など社外」相手のWeb会議でも7割弱を占めた。この回答からWeb会議の大多数が大人数の会議や重要な意思決定ではなく、日常的な打ち合わせに利用されている実態が見えてくる。新型コロナ前なら相手の席に行ったり、立ち話や部署内のテーブルでサッと集まったりして実施できていた類いの打ち合わせも多いはずだ。

あなたが所属する部署が実施しているWeb会議システムなどによるリモートワーク(取引先など社外が対象)は次のうちどれですか
回答者数:250(出所:日経ものづくり)
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 「リモートワーク/在宅勤務について感じていること」に関する自由回答を見ると、対面のリアルな打ち合わせではあまりない、低品質な音声に起因するささいなトラブルや、ITスキルが低い参加者のパソコンの操作ミスによる会議の中断などに対する不満が散見された。これらの不満に対してほとんどの回答者が、「1つひとつはたいしたことではない」と口をそろえるのも特徴的だ。逆にささいだからこそリモートワークの問題として強く指摘せざるを得ない状況なのは間違いなさそうだ。

「一声かけられない」という問題
 Web会議は参加者間の「距離」が均等になる。カメラで撮影された映像は参加者全員に見える。マイクを通した発言は参加者全員に聞こえる。だから、「小声で耳打ちできない」という問題を挙げるのは、自動車等輸送機器メーカーの生産技術・生産管理に関わる回答者だ。

 回答者が以前の会議で報告済みだった内容を上司が失念して再度の報告を促したという。リアルの会議であれば、それは報告済みだと上司に小声で耳打ちすれば流せる。だがWeb会議ではそれを言うと参加者全員に聞こえてしまう。上司の立場に配慮して、回答者は特に断らずに以前と全く同じ内容の報告をしたという(回答1)。

 「一声かけられない」不満を抱えているとの回答もあった(回答2)。出社していれば、オフィス内で一声かけてすぐにセッティングできる会議も、リモートワークではグループウエアで参加予定者のスケジュールを確認し、その上で電子メールやチャットでの調整が必要になる。会議資料の翻訳の表現について相談する程度のことでも、こうしたやり取りが必要になるケースもあるようだ。「ちょっとした相談ができない」と、回答者は Web会議のストレスを指摘する。

 Web会議では、参加者の発言は全てマイクを通し、通信ネットワークを介して、スピーカーから聞こえる。どうしてもリアルな会議での発言に比べて聞き取りづらくなる。発言を正確に聞き取ってもらえず、相手の発言を肯定したのに、「否定した」と誤解され、「事前の打ち合わせと話が違う」などと言われてしまうケースもあったようだ(回答3)。

 この他、Web会議の音声の質が低くて聞き取れなくても、発言者が上司だったりすると、発言内容を何度も聞き返すのをちゅうちょしてしまい、それにストレスを感じているという回答もあった(回答1)。

 目立ったのが「ITスキルが低い参加者が会議の流れを乱す」という指摘だ(回答4)。Web会議中に突然、誤操作でもしたのか「退出」してしまったり、「画面共有」にまごついたりする参加者がいると、最悪の場合は時間切れで中途半端のまま会議が終了してしまう。この回答者は、最低限のスキルを身に付けるのはもちろんだが、近隣にいる人に操作方法などを確認できる環境が整う「サテライトオフィス」の有効性を指摘する。

 リモートワーク/在宅勤務の常態化が確実視される中、こうしたささいに見える「リモートストレス」が増大しているのは間違いない。リモートワーク従事者が慣れれば解決できる問題もあるだろうが、通信環境の整備や質の高いマイクやカメラの支給などのハードウエアの充実も、ささいだが大きな「リモートストレス」問題の解決には必要だろう。

回答者プロフィル
調査方法:ニュース配信サービス「日経ものづくりNEWS」の読者を対象に、アンケート用URLを送付して回答を依頼。2020年10月1日~10月5日に実施し、250の回答を得た。
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回答1:「小声」を使えない、聞き返せない
 Web会議では、小声で伝えたい内容をどう伝えるべきか悩む。社内の打ち合わせで、私が以前報告したという事実を上司が失念。同じ内容の報告を求められた。対面なら「それは以前お話ししました」と耳打ちできる。しかし Web会議では全員に聞こえてしまうので耳打ちできない。そのため、以前既に報告していると断りを入れずに再度、同じ報告をする羽目に遭った。

 発言の音声がブツブツと途切れた、会議の流れを乱したくないので、もう1回同じ発言を繰り返してもらいたくてもお願いできないケースがある。会議がそのまま進行し、相手に発言を確認できないまま終わってしまった。対面の会議なら、会議の後にでも気軽に聞き損じた発言の内容を質問できたかもしれない。仮に重要でない内容だったとしても、聞き逃すと微妙にストレスに感じてしまう。

 同じ発言をしてもらったのだが、音声の質が低くて聞き取れずに2度、3度と聞き返して気まずくなったこともある。特に、上司に対しては再度の発言をお願いしにくい。場の雰囲気で発言内容を想像して、理解したふりをすることさえある。

(自動車等輸送機器メーカー、生産技術・生産管理)

回答2:リアルなら一声かければ済むことに手間がかかる
 リモートワークは、資料作成などは集中して実施できるのでうまく活用すれば効率を上げられる利点はあると感じている。

 ただし、Web会議システムやグループウエアのチャットなどでは、ちょっとした相談ができないのが難点だ。出社時は上司や同僚が近隣にいるので、オフィス内で一声かければ確認できる内容でも、リモートワークになると電話や電子メール、チャットなどのツールを使って確認する必要が生じる。その分、やり取りに時間がかかったり、会話のニュアンスが伝わらなかったりするケースがある。

 例えば、会議の開催可否の判断にも時間がかかる。業務スケジュールを検討する際、リアルに出社しているときなら会議に出席予定のメンバーにオフィス内で声をかければそれぞれのスケジュールを簡単に確認できる。当社だけの特殊事情かもしれないが、上位者の一部についてはグループウエアのスケジュール表を一般社員が閲覧できない設定になっており、そういった人についてはいちいち電子メールなどでスケジュール確認と出席依頼する必要が生じている。

 スケジュール表で予定を確認できるメンバーについても、既に入っている予定は調整可能か否か、直前の会議が内容や出席者によっては延長される可能性があるのか、といった細かい確認のために電子メールのやり取りが必要になる。

 ちょっとした資料の英訳で表現に迷った際も、リアルに出社していればオフィス内で翻訳スタッフをつかまえて聞けば済んだ。資料を見せて全体の流れと内容のニュアンスを伝えれば適切な英語表現を確認できた。しかし、リモートワークではグループウエア上などで資料を共有する作業が必要になるので、面倒で時間がかかる上に細かいニュアンスを伝えにくい。

 従来、日常会話の一端で聞けた内容でも、リモートワークではいちいちソフトウエアを起動させ、パスワードを入力したり、電子メールやチャットを使ったりするための操作をしなければならないというハードルがある。

 1つひとつのハードルは低い。大きな問題ではないのだが、ささいな手間やその手間や面倒臭さによって時間が発生するなど効率が悪くなると感じている。

(その他、生産企画)

回答3:劣悪な音声で誤解が生じる
 Web会議での発言の音声が聞き取れないことが原因で誤解を生んだり、会議が長引いたりすることが度々ある。

 新型コロナの拡大後は、重要な会議も対面ではなくWeb会議になった。通信環境や使用しているマイクやスピーカーの質にもよるのだろうが、Web会議の発言はリアルの会議よりもかなり聞き取りづらい。音質が悪いので、リアルの会議にはないトラブルが起こり得る。

 例えば、議論が白熱して複数の発言が重なったときだ。会話の前後がつながらなければ、発言が重なったことで発言の一部が聞こえなかったことに気付く。しかし、発言の一部が欠落しても意味が通じてしまうと、一部を聞き取れなかったのに気付かれず、誤解が生じるケースも出てくる。肯定したのに、発言の一部が聞き取られなかったために否定と受け取られ、「事前の打ち合わせと異なる」「説明が不親切で相手をばかにしている」などと言われたことがある。

(情報処理/ソフトウエア/SI/VR、設計)

回答4:パソコンの操作ミスが会議を阻害
 パソコンの操作などに不慣れな、いわゆる「ITスキル」が欠けている人の対応に不便を感じている。

 リモートワークでの会議は、パソコンの操作が全てと言っていい。操作にもたついて参加していたWeb会議中に急に「退出」になってしまったり、共有すべき画面の共有操作にまごついたり、比較的簡単な操作ですらおぼつかない人がいる。時間をかけられない急を要する会議で周囲の足を引っ張るレベルの操作ミスをされ、時間切れになるケースもあった。

 時間切れにならなくても、会議の最中にパソコンの操作を説明しなければならなくなると、時間がかかるだけでなく会議の流れも乱れ、集中力がそがれる。ネットワークの設定までできるようになれとは言わないが、リモートワークが常態化するなら、役員クラスであれ一般の社員であれ、パソコンやソフトウエアの操作などのスキルアップは必要だと強く感じる。

 サテライトオフィスがあれば、近隣にいるパソコン操作に慣れている人が対応できるだろう。リモートワークを実施する上で、サテライトオフィスを設けるのは、ITスキルが不足している人に対応する上でも有効ではないか。

(総合電機・家電メーカー、研究・開発)』