ロシア悩ます「不安定の弧」 周辺外交の限界あらわに

ロシア悩ます「不安定の弧」 周辺外交の限界あらわに
上級論説委員 坂井 光
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO66330800X11C20A1TCR000/

『ベラルーシでの反大統領デモ、アルメニアとアゼルバイジャンの紛争、キルギスの政変、モルドバの政治対立――。旧ソ連の国々で今夏以降、同時多発的に混乱が起きている。ロシアはこれらを「近い外国」と呼び、影響力を及ぼしてきた。それがいま「不安定の弧」となりプーチン大統領を悩ませている。

11月10日、アゼルバイジャンのアリエフ大統領とアルメニアのパシニャン首相は9月下旬から続いていた戦闘の停止で合意した。アゼル領にもかかわらず、アルメニア系が実効支配するナゴルノカラバフを奪還するためアゼルが軍を投入し、複数の拠点を占領した。合意では、アルメニアは支配地域の多くから撤収を余儀なくされ、事実上アゼルの勝利となった。

仲介役を務めたのはロシアだ。国営テレビは「歴史的な和解」などと成果を強調するが、戦闘開始以降、三たび合意は破られた。今回の合意も同国にとってもろ刃の剣だ。

まず、アルメニア国民の多くは合意に反発しており、パシニャン政権の崩壊は時間の問題だ。同時に軍事同盟を結ぶロシアへの不満がくすぶっている。次期政権が親欧米に傾かないようロシアは神経をとがらせねばならない。

合意によりロシアは2000人近い平和維持部隊を現地に駐留させる。これは停戦が破られれば戦闘に巻き込まれることを意味する。少なからぬ政治的、軍事的リスクを抱えることになる。

この地域の勢力地図にも変化が起きそうだ。アゼルの軍事作戦を支援したのは、アルメニアを挟んで西側に位置するトルコだった。イスラム大国である同国の影響力が相対的に強まるのは確実だ。

トルコは北大西洋条約機構(NATO)加盟国にもかかわらず、ロシアのミサイルシステムを導入した。その一方、両国はシリア内戦を巡って利害が対立するなど微妙な関係にある。そんなトルコにロシアはナゴルノカラバフという新たなカードを与えることになった。

他方、ロシアの兄弟国ベラルーシの情勢は不透明なままだ。「米国などは内政の緊張を故意に高めている」「ロシアとベラルーシの統合を妨害し、関係を分断しようとしている」。ロシアのショイグ国防相は10月下旬、ベラルーシで続く反大統領デモについてこう主張した。

そもそもデモは、8月に実施された大統領選の不正や、26年に及ぶ長期独裁に抗議するもので、親欧米を掲げたものではない。ロシアでも当初はルカシェンコ大統領への冷めた論調があったが、西側を攻撃する内容一色に転じた。

ロシアは西側をけん制することでベラルーシでの民主化の動きをはばむ戦略だろう。だが、頼ってきたルカシェンコ大統領の処遇をどうするかは読みとることができない。

両国は1999年、統合を目指す条約に署名した。だがエリツィン氏からプーチン氏に大統領が代わり、ロシアから事実上吸収されることを警戒したルカシェンコ氏はその後、曖昧な態度に終始してきた。これをプーチン氏が苦々しく思っているのは確かで、信頼もしていないはずだ。

立場が弱まったルカシェンコ氏を利用し、統合に向けたプロセスを前進させる選択肢はある。しかし、それが表面化すれば、ベラルーシのさらなる不安定化をもたらす可能性がある。プーチン氏は難しいかじ取りを迫られている。

それは、11月15日に大統領選があったモルドバでも似ている。親ロシア派で現職のドドン氏と親欧米派で前首相のサンドゥ氏という国を二分する対決は後者に軍配が上がった。ロシア離れが進みそうだが、ウクライナやジョージアなどのようになるのをロシアは食い止めたいところだ。

ロシアは、相次ぎ表面化する不都合な状況をうまくコントロールできなくなっている。旧ソ連の盟主でなければならないという周辺外交の限界があらわになりつつあるといえそうだ。

プーチン政権がいまだに抱く大国への郷愁と旧ソ連諸国への優越感――。それらと現実とのギャップは広がる一方だ。ソ連崩壊から来年末で30年である。』