トランプに劣らぬバイデンの「不都合な真実」

トランプに劣らぬバイデンの「不都合な真実」
【緊急現地ルポ!】
山田敏弘 (国際ジャーナリスト)
https://wedge.ismedia.jp/articles/-/21369

『米大統領選が11月3日に行われてから、事前の予想通り、ドナルド・トランプ大統領が不正選挙だとゴネ続けている。結局のところ、一部の人たちの主張とは裏腹に、選挙結果に影響を及ぼすような不正は見つかっておらず、選挙結果が覆ることはなさそうだ。

 1月20日に第46代米国大統領として就任するのはジョー・バイデンということになる。バイデンはトランプのように強烈なキャラクターではないために、米国が少し落ち着いた雰囲気になったと感じるのは間違いないだろう。逆に言えば、バイデンはちょっと凡庸なリーダーのように見えるかもしれない。もっともそれが今、混乱極まるアメリカで今、国民がリーダーに求めていることだということである。

 筆者は今回の大統領選ではワシントンに入って取材を行なっていた。ある知人の元連邦職員は選挙後に「トランプでなければ誰でもいいから民主党のバイデンに入れた。バイデンも過去を振り返るとまあいろいろあるけど、しょうがない」と語っていた。

 実はトランプと比較されることで折り目正しいリーダーに見えるバイデンはその政治家人生を振り返るとクリーンなイメージとは異なる側面もある。そう、「いろいろ」あったのである。

 そこで、バイデンのこれまでのキャリアに見る「不都合な真実」にスポットライトを当て、その人物像に迫ってみたい。

ホワイトハウス近くのマクファーソン公園で選挙時翌日にバイデンの講演をパブリックビューイング(筆者撮影、以下同)

いつの間にか忘れられたウクライナ疑惑

 まず初めに、いつのまにか忘れられつつある、今回の選挙戦でバイデンに浮上した「疑惑」について言及しておきたい。息子ハンターによる、ウクライナと中国にまつわる話である。

 簡単に説明すると、バイデンが副大統領だった知名度などを利用し、アルコール依存症などの問題を抱えてきた息子ハンターが、ウクライナと中国の企業からお金を受け取っていたとされる。ウクライナのケースでは、ハンターが、ウクライナで汚職事件の捜査対象になったガス企業の取締役を務めていたことで、バイデンが検察に働きかけをしたとの疑惑があり、それに絡んでバイデンが同企業幹部と会談したというスキャンダルが大統領選直前に取り沙汰された。

 バイデン側は当時のスケジュールにないとして完全否定。ハンターのプライベートな電子メールのやりとりがあやしい出元から出てくるなど、話の信憑性にも疑問符がつけられたこともあって、この話はあっけなく収束したのである。

 中国のケースでは、中国国有企業の支援を受けた企業の取締役を務めていて、そこからのカネがバイデンにも流れたと指摘された。証拠は出てなかったため、結局大した話にはならなかったが、ハンターは大統領選前にその企業の取締役を辞めている。

 息子のハンターは、個人的にもアルコールや薬物依存の問題を抱えており、足元をすくわれかねない動きも少なくなかったために、バイデンを貶めるための格好の標的とされてきた。「バイデンとハンターがビジネスがらみの話をお互いにしない」というのはこれまでもあちこちで報じられてきた事実であったからか。今回の疑惑もバイデンとのつながりは薄く、選挙戦を崩壊させることはなかった。

バイデンは「失言マシーン」!?

 今回の選挙では、こうした疑惑以外にも、トランプがバイデンについて「攻撃」を繰り返したことがある。バイデンの失言である。終盤の遊説では、トランプは必ずバイデン叩きのビデオを会場のビッグスクリーンで流していた。

 例えば、バイデンは、大統領選を「上院議員選」と言い間違えたり、トランプの名前を「ジョージ」と間違えたり、州の名前を間違っていたり、コロナで20万人死亡と言うところを2億人と言い間違えたりしている。そうした姿を切り取り、集めた動画をトランプは得意げに披露した。

 もっとも、バイデンの過去を振り返っても、実はバイデンの失言癖は有名だった。バイデン自身も2017年の自叙伝で自分は「失言マシーン」であると自虐的に書いている。有名な話では、2008年には「オバマは、言葉が明瞭で輝いていて、クリーンで、見た目もいい初めての黒人だ」と失言。2020年3月には、「バイデンに入れないなんて黒人じゃない」とも語って謝罪している。

 また2008年に、聴衆にいる車椅子の州議会議員に対して、「顔が見えないから立ってくれ」と話して失笑を買っている。2006年には、自分の地元デラウェア州ではファストフード店やコンビニは「インドなまりの英語ばっかりだ」と述べている。こうした発言は枚挙にいとまがない。

 バイデンがこうした発言をしていることを、意外に感じる人もいるかもしれない。だがバイデンの政治家としてのキャリアを振り返っても、お世辞にもバイデンは「心清らか」な政治家ではなかった。何も失言が多いのはトランプばかりではない。

ワシントンの至る所に設置されたバイデンとハリス支持のポスター

経歴の嘘も連発

 バイデンの政治家としてのキャリアは47年になる。1942年にペンシルベニア州の中流層の家庭に生まれたバイデンは、デラウェア大学からシラキュース大学の法科大学院を卒業。「私は(東海岸の伝統的私立エリート校グループである)アイビーリーグの出身ではない」と庶民派であることをアピールしている。

 成績はいまいちだったが、卒業後は弁護士として働く。その後、郡議会議員になってから連邦上院議員に初当選。72年の当選から就任までの期間に、事故で妻と娘を失い、以降は生き残った2人の息子を育てた。77年には現在の妻であるジルと再婚し、娘をもうけている。

 上院議員として、これまで3度、大統領選に挑戦してきた。今回は3度目の正直で当選したことになる。2度目は予備選で飛ぶ鳥を落とす勢いだったバラク・オバマ前大統領に敗れ、代わりに副大統領候補となり、オバマ政権に入った。

 実は87年に初めて大統領選に出馬した際のバイデンは、惨憺たるものだった。当時から失言は変わらず、遊説中に質問した有権者に「私は君よりもIQはかなり高い」とキレた姿も残っている。また、法科大学院時代は成績優秀だったと話していたが、それが嘘だったことがばらされた。さらに公民権運動で活動家たちと一緒に数多くの行進に参加したと主張していたが、それも嘘で参加したことはなかった。極めつきは、スピーチを行った際の内容が、国外の政治家などから完全に盗用したものだったことが指摘され、「過ちだった」と詫び、選挙から撤退した。

 その後は2008年の2度目の大統領選挑戦まで、上院議員として、上院司法委員会や外交委員会で活躍した。

「嘘ばっか言ってんじゃない!」「だまれ!」

 バイデンの人柄については、トランプと比べて大人な政治家のイメージがある。実はキレやすい側面もある。2019年12月、アイオワ州の遊説先で聴衆からバイデンの息子がウクライナで汚職をしたという疑惑について質問され、感情的に「あなたはひどい嘘つきだ」と声を荒げ、さらに「あんたには投票しない」と言われたことで「あんたは私に投票するには年寄りすぎるよ」と語った。2020年3月にデトロイトの自動車工場を訪問したバイデンは、従業員から「憲法修正第2条(銃器を保有や所持する権利の根拠とされる憲法)の権利を積極的に阻止しようとしているではないか」と非難され、「嘘ばっか言ってんじゃない!」「だまれ!」とキレた。

 もう一つ、バイデンの過去で特筆すべきは、セクハラ疑惑だ。2019年4月には、「MeToo運動」が話題になっていたこともあり、元スタッフから、27年前にセクハラされたと告発された。それ以外にも何人か、不快な感じでハグやキスをされたなどと名乗り出たが、大ごとににはならなかった。

 バイデンは、他人との距離感が近いことがあったことを認め、「常によい人間関係を築こうとしていたからだ」と潔く認めている。その上でこう述べた。「私は、個人のスペースの境界線はリセットする。わかった。わかった。みんなが指摘していることはよくわかった。さらに心に留めて、私の責任として距離感は守る」

ワシントン大統領選当日の午後_奥に見えるのがホワイトハウス

対中関係よりも懸念の外交実績

 バイデンは中国とも積極的に交流を行なっていたことから、トランプは遊説でも、バイデンが中国に近すぎると批判した。バイデンが、胡錦濤国家主席の隣で「中国の台頭はいいことだ」と話したり、「中国が繁栄するのは米国の国益にもかなう」と語っているビデオを紹介した。事実、その点を突かれたバイデンは、中国は「敵ではなく競争相手である」と語っている。これまでも、バイデンは中国には融和的だったのは確かである。

 だがそれはアメリカ自体が中国を今のように敵視していなかったことが背景にある。バイデンが上院議員としてのキャリアをスタートさせたのは、1972年にリチャード・ニクソン大統領が中国を電撃訪問して国交を正常化した翌年の73年のこと。それから米国は中国を経済的に解放させながら、常に上から目線で、中国は自分たちでコントロールすることができるという認識で付き合ってきた。

 それが間違いだと気が付いたのは、2015年のこと。習近平政権が、「中国製造2025」をぶち上げて、世界の工場から世界を率いるようなイノベーションを起こせる国になると主張したときだった。5GやAIの分野などで2025年には世界を率いる存在になるべく国家を挙げて動き、中国共産党革命100周年になる2049年の世界制覇に向けて大きく踏み出すとの姿勢を明らかにした。当時、オバマ政権で副大統領だったバイデンもその流れは明確に把握しているはずだ。だからこそ、バイデン政権になっても中国に対してソフトになることはないと関係者らは強く語っているし、中国側もバイデンを与し易いとは見ていない。

 要するに、バイデンがそれまで中国とお気楽に付き合っていたとしても罪はないと言える。今回の選挙戦線では、ロシアは脅威だが中国は競争相手と言ってみたり、「習近平の辞書に民主主義という言葉はまったくない。悪党だ」と語っている。中国にソフトに行くことはないだろう。

 それよりも気になるのは、ジョージ・W・ブッシュ時代からバラク・オバマ時代にも国防長官を務めたロバート・ゲーツは、「過去40年の間にバイデンが行った外交的な決定はすべて間違っていた」と述べていることだ。

 例えば、米国的には成功とされる1991年のイラク戦争に反対。米同時多発テロ後の2002年のイラク戦争への武力行使に賛成し(今は反対したと主張している)、泥沼化したイラクで2007年の「サージ(戦闘部隊の増派)」にも反対したが、その作戦がイラクの泥沼を終わらせたと言われている。2011年には国際テロ組織アルカイダのウサマ・ビンラディンの殺害作戦に反対したという。

 こうした懸念があるものの、外交については側近などの影響もあるし、時代も変わっていくことから、これからの決断に注目したい。

 1月20日に大統領に就任してから、おそらくバイデンの過去に見られる、失言や短気な「特徴」はちょこちょこ表面化する可能性はある。今回、バイデンに投票したというワシントン近郊メリーランド州で選挙ボランティアをしていたアルバ・キャストロは筆者にこんなことを言っていた。「失言などがバイデン大統領の足を引っ張らないといいのだけど」

(文中一部敬称略)』