FRB議長「元の経済には戻らない」の意味(NY特急便)

FRB議長「元の経済には戻らない」の意味(NY特急便)
米州総局 大島有美子
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO66172600T11C20A1000000/

『12日の米株式市場でダウ工業株30種平均は続落した。米国で新型コロナウイルスの新規感染者数が過去最多ペースで続き、経済活動を停滞させるとの不安が広がった。コロナ動向が市場を揺らすなか、同日講演した米連邦準備理事会(FRB)のパウエル議長の発言は慎重さが目立った。ワクチン開発に沸いた市場をけん制しつつ、コロナ後の経済のあり方を模索する中期的な視点もみられた。

ダウ平均が1%下げるなか、マイクロソフト(0.5%安)やアップル(0.2%安)などIT(情報技術)関連は健闘した。在宅勤務の広がりで需要の高まるIT株への期待は続いており、同株の多いナスダック総合指数は年初来と比べ29%上昇した。ダウ平均(1%上昇)やS&P500種株価指数(8%上昇)と比べ上げ幅が際立つ。

「今後数カ月が試練のときとなるだろう」。欧州中央銀行(ECB)のパネル討論に出席したパウエル氏は12日、コロナについてこう述べた。民主党のバイデン前副大統領が次期大統領への当選を確実としてから初の公の場だった。

バイデン氏のコロナ対策チームは11日夕、全米での4~6週間の都市封鎖(ロックダウン)によって感染を抑えられるとの見方を示した。ミネソタ大感染症研究政策センター所長でチームに加わったマイケル・オスターホルム氏は「政府がその間失われる所得を補填できる」と話す。

市場参加者は「感染拡大によって少しの間でも企業と消費者の活動が鈍ること」(米プルデンシャル・ファイナンシャルのクインシー・クロスビー氏)を懸念する。コロナの封じ込めを最優先で取り組み、経済活動が損なわれる分は国の財政出動で補う――。バイデン氏のチームの考え方の大枠は、パウエル氏のこれまでの発言と一致する。

興味深いのは、パウエル氏がコロナ後の米経済について言及した点だ。「経済はこれまでとは異なる形に回復し、より技術に依存したものになる」と述べた。

経済学者のタイラー・コーエン氏はコロナ下において、ワクチン開発やテレビ会議システムの普及など「目を見張る技術の進展があった」と評価する。政府主導ではなく、消費者の需要の変化から生じた「ボトムアップの進展」と話す。その一部は不可逆で、消費者の仕事や生活に定着するとみられる。

一方でパウエル氏はこうした技術進展の結果として「より職に就くのが難しくなる労働者がいる」との認識を示した。FRBは雇用の最大化を使命とする。技術革新による恩恵を多くの人が受けられるような政策を講じなければ、雇用の最大化の障壁にもなりうるとの見方だ。

ダラス連銀が10日に公表した分析によると、25~54歳の10月の労働参加率が男性は87.9%と1月より1.4ポイント下回る水準まで回復したのに対し、女性は74.6%と1月より2.4ポイント低いままだ。特に子どもを持ち、大卒未満の女性の労働参加率が低迷している。コロナで子どもを預けられず、在宅勤務もできない職種の人が多いとみられる。

同連銀のタイラー・アトキンソン氏は「最も脆弱な労働層の雇用回復には何年も必要で、経済成長全体を押し下げる」と指摘する。パウエル氏の発言は、所得格差の是正を掲げるバイデン次期政権に対し、腰を据えた政策立案の重要性を問いかけている。

(ニューヨーク=大島有美子)』