課題山積のAIIB

課題山積のAIIB 中国流はうまくいかない
https://wedge.ismedia.jp/articles/-/21188

 ※『しかし、あまり公表されていない別の「ルール」がある。ほとんどの国が「名義」貸しをして、さまざまな比率の株式資本を引き受けているが、実際には、引受価額よりもはるかに低い水準の引受価額で合意している。AIIBが現金を使い果たした場合にのみ、会員は割り当て済みの株式資本を支払う必要がある。たとえば、香港は7651株を引き受ける必要があり、そのうち1530株は資本金で支払われ、残りの12億ドルは5年間で支払われる。』ということは、知らんかった…。

 日本の会社法制だと(どこも、似たようなものと思うが…)、「株式引受をしておきながら、「金銭を、払い込まない」場合」は、「見せ金」と言って、「会社設立の無効原因」になり得る…。

 ※ 当然だ…。「会社を、設立しました。」と言っておきながら、「事業資金は、ありません。」ということだからな…。「事業を開始することは、できません。」ということと一緒だ…。

『中国が主導するアジアインフラ投資銀行(AIIB)は業務開始から間もなく5年を迎えようとしている。7月の理事会では金立群総裁の2期目の続投が決定した。アジアの新興国への融資を目的に発足し、当初は57だった加盟国および地域は、現在102まで倍増。これは日本などが主導するアジア開発銀行(ADB)の68よりも多い。

今年7月に開催されたAIIB年次総会。金立群総裁(右)は2期目の続投へ
(AIIB/ XINHUA NEWS AGENCY/AFLO)

 率直に言って、AIIBは設立当初、中国の地政学的戦略における一つの駒でしかなかった。AIIBの真の目的は3つあると言える。一つ目は、一帯一路と協調するための対外輸出を行う能力を備えた地域性の国際金融機関をつくること。二つ目は、日本が主導するADBとアジアにおける主導権をめぐって争うこと。三つ目は、世界のリーダーの地位をめぐって米国と競争する切り札を増やすことだ。

 近年、米国内では激しい党派対立が生じている。トランプ政権は、米国が責務を負うグローバル化に不満をもっており、「国連離れ」を加速させる戦略を採った。中国は、今こそ自らが、世界におけるリーダーシップを獲得する時期だと考えている。

 AIIBの参加国の数は多いが、ほとんどの場合「自信がなくてもとりあえず試してみる」という状態だ。AIIBに参加しても、必ずしもメリットがあるとは限らない。しかし、参加しなければ、メリットがあるとしてもそれを享受することができない。基本的にAIIBは中国が積極的に主導し、加盟国はなんとか取り繕っているという状況といえる。また、一帯一路には基本的にリスクの高い、信用格付けの低い国や、国際的な信用格付け制度にも加入していないような国が参加している。中国の歴史的経験からして、そうした高リスク国への投資は、お金の無駄になることが多い。

新型コロナで融資拡大も
「焼け石に水」
 AIIBは今年4月、新型コロナウイルスの流行に対処するために、50億ドルの危機復興基金の立ち上げを発表した。将来的には徐々に規模を拡大していくという。AIIBは既に、一部の国の新型コロナ対策費として60億ドルを承認している。

 この資金について、中国政府は世界への多大な貢献となると考えているのに対して、他の国々の評価は高くない。なぜなら、世界中の国々は中国が「武漢肺炎」の発生地であると信じているからだ。中国政府が情報を厳しく管理し、初期段階において流行を隠蔽したため、ウイルスが世界に広がり、世界経済に壊滅的な影響を与えた。中国はウイルスの発生源について、信頼に足る証拠を国際社会に提供することもせず、代わりに、大規模な対外宣伝工作で他国を非難し、深刻な外交問題を引き起こした。

 ADBは今年5月15日、報告書を発表し、新型コロナの流行による世界経済の損失は5兆8000億ドルから8兆8000億ドルに上り、これは全世界のGDPの6.4%~9.7%に相当すると指摘した。世界の新型コロナによる死者数は100万人を超え、欧州連合(EU)は現在、第二の流行の波を迎えている。

 中国は新型コロナに関する援助を自慢げにアピールしているが、世界的な流行で生じた惨劇と世界中の国々が被った損失を考えれば、それは焼け石に水であり、受領国は評価しないかもしれない。

インドはその最たる例だ。インドは新型コロナの流行と闘うために、AIIBから合計12億5000万ドルの2件の借款を得たが、それ以前のインフラプロジェクトへの借款を加えると、41億ドル以上にのぼる。AIIBにおける中国の引受済み資本金額は約298億ドルであり、全体の30%を占める。AIIBにおいて中国は最大の出資国で、インドは最大の借り手だが、両国間では相変わらず国境紛争が続く。巨額の借款は両国の緊張関係を緩和しなかったのである。

(出所)AIIB資料を基にウェッジ作成、青字は域外加盟国 写真を拡大
 AIIBでは人材不足も懸念されており、職員数はADBの1割程度にとどまる。こうした人数で相手国の実情を踏まえた審査ができるのかなどの指摘もある。また中国が議決権の26%を握っている(右図)。重要な議案採択には75%以上の採択が必要だが、中国だけが拒否権を持つ状況だ。

 表面的に見ればこの議決権は、出資配分における中国の絶対的な優位性によるものだが、実際には、資金が主に中国からのものであるという事実による。中国は舞台を設置し、その舞台で歌うように呼びかけている。シェア設定に関しては中国は資本を割り当てなければならず、他の国のシェアは中国よりはるかに小さい。

 しかし、あまり公表されていない別の「ルール」がある。ほとんどの国が「名義」貸しをして、さまざまな比率の株式資本を引き受けているが、実際には、引受価額よりもはるかに低い水準の引受価額で合意している。AIIBが現金を使い果たした場合にのみ、会員は割り当て済みの株式資本を支払う必要がある。たとえば、香港は7651株を引き受ける必要があり、そのうち1530株は資本金で支払われ、残りの12億ドルは5年間で支払われる。

13種の通貨でローン提供
背景にドル不足と人民元国際化
 中国がまとめたレポートによると、AIIBは13種類の通貨でローンを提供する能力を備えているという。AIIBは19年5月、ロンドンで25億ドルの5年物のグローバル債券を発行した。20年6月には初めて、30億元のパンダ債(オフショア人民元建て債券)を発行した。

 このような政策銀行の成否を測る重要な指標は、借款の限度額だ。AIIBは期待していた融資目標を達成できず、債券を発行して資金を調達しなければならなかった。AIIBは25年までの年間融資額を100億ドルと述べているが、開業4年で承認された融資額は計200億ドル。この水準に留まっているということは資金が不足していることを表している。これは、近年の中国国内の経済の衰退、そして、米中関係の悪化と直接関係している。

 米中貿易戦争後、両国の関係は緊迫している。米国による制裁措置は徐々に強化されている。世界の国々は中国の市場と投資に大きく依存しているが、中国の経済的繁栄は米国への三重の依存、つまり技術、金融システム、貿易黒字への依存によるものだ。

18年までの十数年、米国に対する巨額の貿易黒字は中国の巨額の外貨準備金の主な要素となっている。この米国への三重の依存が無効になると、外貨準備金が入らなくなり、他国で大きな買い手や投資家として行動することができなくなる。当然、これらの国に対する政治的支配力を失うことになる。

 AIIBが借款のために13種の通貨を使用するのはなぜか。それは、それほど多くのドルを保有していないからだ。過去数年間、中国人民銀行は世界39カ国・地域の銀行と通貨交換協定を締結した。通貨交換協定の規模は約3兆7000億元に上り、これにより、ドルへの依存度を下げることができる。人民元の発行権は中国政府にあり、必要に応じて大量に印刷される。これが、中国が考える「人民元国際化」の重要な手段の一つだと言える。

 参加国がタダ乗りの姿勢である一方、資金は主に中国が出している(シェアが少なく、賛助の名義しか出さない国もある)。中国は昔から、援助と借款を分けずに政治的借款を発行している。各国の間で、出資者を尊重するという暗黙のルールはあるものの、中国人はそれを真剣には受け止めていない。しかし資金は浪費されているし、なかでも最も苦しんでいるのは中国なのである。

大いなるバラマキの結果
続発する債務免除
 中国モデルは常に政治的目的を優先してきた。援助と融資の区別はなく、受け取り人はこれを曖昧にすることを厭わない。その結果、数年ごとに開発途上国の債務免除を発表しなければならず、中国人からも「大いなるバラ撒き」を大ばか者だとして嘲笑されている(編集注・「大いなるバラ撒き」の中国語は「大撒幣」。「撒」〈撒く〉と大ばか者を示す言葉にある「傻」〈愚か、ばか〉の発音は似ている)。

 今年6月、中国は77カ国の債務返済猶予を発表した。具体的な金額は発表されていないが、アフリカは今年、新型コロナの流行を理由に中国に1000億ドル以上の債務免除を要請しており、今年の総額は200億ドルを下らないと推定されている。AIIBの問題は当初の意図から生じている。AIIBは中国の地政学的戦略における一つの駒でしかなく、政治のため、そして、国内インフラの過剰な拡張によって形成された莫大な余剰生産力を消化するために、運営されている。

 問題は母親の胎内からもたらされる。中国モデルにおいて最も重要であるのは政治的目的であり、このモデルは援助と貸付を区別していない。AIIBに関わるほとんどの国は、評判の悪い政治的リスクの高い国なのだ。

 先進7カ国(G7)のうち、日米だけがAIIBに参加していない。日本は明確な姿勢を示し、自国の利益に基づいて国の政策を策定すればよい。国際社会が盲目的にトレンドを追いかける必要はない。AIIBが奮闘しているのを見てその流れに従おうとしてはいけない。日本と中国では、置かれている国際的な立場も、政治体制も、市民のニーズも大きく異なる。国力の向上と国民の福祉に政策の焦点を当てることが最善の策だ。』