焦点:トランプ氏敗北、それでも消えない「トランプ主義」

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『7日 ロイター] –

トランプ米大統領は10月31日、大統領選の投票を前に激戦の東部ペンシルベニア州で開いた集会で「再び赤い大波が来る」とぶち上げ、今回も専門家の予想が外れて自分が勝つと予想した。
 トランプ氏が米大統領選で地滑り的敗北を喫するとの世論調査の予想を覆す善戦ぶりを示したのは明らかで、トランプ氏支持層は多くの観測筋の見立てよりも規模が大きく、忠誠心が強かったことが浮き彫りになった。写真は9月、ノースカロライナ州ファイエットビルで開かれたトランプ氏の選挙集会で撮影(2020年 ロイター/Tom Brenner)
メディアの報道によると、トランプ氏は接戦の末、民主党候補のバイデン前副大統領に負けた。しかし、地滑り的敗北を喫するとの世論調査の予想を覆す善戦ぶりを示したのは明らかで、トランプ氏支持層は多くの観測筋の見立てよりも規模が大きく、忠誠心が強かったことが浮き彫りになった。

<潰えた民主党の期待>

民主党は、トランプ氏の1期目に混乱が続き、国民を分断するような選挙戦が行われたことに対して、有権者がきっぱりと「否」を突きつけると期待していた。しかし、実際にはトランプ氏は暫定集計で2016年の前回選挙を約730万票上回る票を獲得した。

トランプ氏は昨年「ウクライナ疑惑」で弾劾裁判を受け、今年に入ると新型コロナウイルス感染へのずさんな対応や警官による黒人暴行死事件を巡る抗議行動の拡大に見舞われたが、それでも共和党は上院で僅差ながら過半数の議席を確保する可能性がある。共和党は、民主党が制する下院でも議席数を増やした。

集計はまだ終わっていないが、「トランプ主義」の終焉という民主党の期待は潰えた。バイデン氏の勝利が確定しても、共和党が上院で過半数を維持すれば、次期大統領は法案の成立や、判事および政権幹部の指名承認獲得を進める上で手足を縛られるだろう。トランプ氏自身が今後どうなろうとも、大衆迎合的な政治というトランプ氏の手法の吸引力は残り続け、無視するわけにはいかないと、民主党と共和党の関係者は口をそろえる。

フロリダ州共和党のジョー・グルーターズ委員長は、新型コロナの大流行時でも自由な経済活動を求めるトランプ氏のメッセージが、多くの有権者を獲得したと述べた。「未来に対するトランプ氏の前向きなメッセージと米国第一を進める努力ゆえに、人々は同氏に票を入れた」とグルーターズは言う。

「人々は税を望んでいない、ロックダウン(都市封鎖)も欲していない。自由と解放を望んでいる。自分たちのコミュニティーが焼け野原になるのも見たくないんだ」と話した。焼け野原になるとは、警官による殺害への抗議行動の中で発生した略奪や放火のことを指す。

政治アナリストのストゥ・ローセンバーグ氏は、今回の選挙でトランプ氏のしぶとさが目立ったと指摘。トランプ氏は、労働者階級中心の白人層という自身の基盤から多くの支持者を掘り起こしただけでなく、民主党の結束に不可欠なヒスパニック系有権者にも食い込んだと話す。

選挙は民主党員や反トランプの共和党員が望んだような「トランプ氏の完敗」にほど遠く、「トランプ氏が新型コロナや経済への対応に失敗したにもかかわらず、いくつかの面で結果は4年前の選挙とさほど変わらなかった」と述べた。

民主党ストラテジストのカレン・フィンネー氏は、選挙が接戦となったという現実を前に、民主党員はトランプ氏がなぜ消え去らないのか、自問自答することになるだろうと述べた。トランプ氏は特定の層だけに響く暗号のようなメッセージを発する「犬笛」政治を駆使し、人種的、文化的な緊張をあおることに成功し続けたと説明。選挙が接戦となったことで、「われわれがなおも非常に分断されている」ことが明らかになったという。

<白人以外からの支持率も上昇>

トランプ氏は1期目の4年間に気候変動問題、外交政策から新型コロナ流行までさまざまな問題で専門家の意見に耳を貸さず、選挙戦でもより中道的な路線に軌道修正すべきだとの進言を無視。分断をあおり、自分の支持基盤受けする戦略を貫いた。

選挙戦の暫定集計から米国の党派による分断の深さが浮き彫りになった。新型コロナの大流行、経済の急激な悪化、黒人死事件を巡る社会不安の拡大にもかかわらず、出口調査では支持政党の垣根を超える投票がほとんどなかったことが分かった。

エジソン・リサーチの出口調査によると、トランプ氏は白人有権者の支持率が約55%で、前回選挙からはやや低下したものの過半数を維持した。トランプ氏支持層の中核を成す白人・非大卒有権者の支持率についてはトランプ氏がバイデン氏に20%ポイント以上の差をつけた。ただ、支持率自体は前回から4%ポイント程度下がった。

バイデン氏支持の活動を展開しているリンカーン・プロジェクトの創設者、マイク・マドリッド氏は、トランプ主義が共和党の中心部に居座り続けると考えている。「トランプ主義、大衆迎合的ナショナリズム、白人の不満を代表するような政治が続くだろう」と述べ、当選した共和党議員の大半は、他のいかなるものにも意欲を持っていないとした。

それでも調査によると、トランプ氏はアフリカ系、ヒスパニック系、アジア系の米国人の支持率も前回から4%ポイント程度上昇した。ヒスパニック系の高齢者は約39%がトランプ氏に投票し、前回から14%ポイント上昇。黒人有権者も30歳から44歳の年齢層は19%がトランプ氏を支持し、前回から支持率が12%ポイント上がった。一方、白人の高齢な有権者ではトランプ氏の支持率が2%ポイント程度下がった。

フロリダ州では中南米系の有権者でトランプ氏の支持率が前回から12%ポイント上昇し、トランプ氏が激戦の同州を制する上で重要な役割を果たした。

こうした支持率上昇は、トランプ氏に対して人種差別的な物言いや厳しい移民政策を行っているという批判を続けてきた政敵を困惑させた。トランプ氏はテキサス州の中南米系市民が多い地域で支持を伸ばし、そうした市民が9割余りを占めるメキシコ国境沿いのヒダルゴ郡で得票数が前回より4万票増えた。

テキサス大リンドン・B・ジョンソン公共政策大学院のビクトリア・デ・フランセスコ・ソト氏は「テキサス州のメキシコ国境沿いの地域は、フロリダなど中南米系の市民が非常に多い他の地域と同じように保守的で庶民的な雰囲気が非常に濃厚だ。政治にも人間的なふれ合いが欠かせない」と指摘。大いに盛り上がったトランプ氏の集会に対し、バイデン氏がそうした集会を避けて地味な選挙戦を繰り広げたことが、中南米系の有権者を獲得する上でトランプ氏に有利に働いたのは間違いないとの見方を示した。

メキシコ国境沿いに暮らす中南米市民は移民問題でかなり保守的な考えをもっており、トランプ氏の移民問題へのスタンスが有権者の間で問題にならなかったのは当然だという。

この地域は新型コロナによる死者が特に多かった。それでも民主党員でヒダルゴ郡裁判官のリチャード・コルテス氏は、有権者は新型コロナよりも失業を恐れており、経済再開を訴えるトランプ氏の主張が受け入れられたと述べた。

メキシコ国境沿いの地域はカトリック教徒が多く、トランプ氏の中絶反対の姿勢や、連邦最高裁で保守派の判事3人を指名したことも支持を集めた。

さらにコルテス氏は、「タフさ」を好む中南米系の間でトランプ氏の「強がり」な姿勢が支持を高めたとの見方を示した。「単純に、トランプ氏の方がタフだと思った有権者もいた」

<岩盤支持層、隠れトランプともに健在>

世論調査によると、トランプ氏は今年、郊外に住む女性と高齢の有権者層では支持率が一貫して低下傾向にあった。しかし、キリスト教福音派や、トランプ氏の減税や支持する根っからの共和党員、かつては民主党支持だった白人・非大卒の有権者など、忠実な信奉者からの支持はまったく失っていない。こうした支持層は依然として経済についてトランプ氏を信頼し、バイデン氏は極左に利用されている老いぼれだというトランプ氏の主張に喝采を浴びせている。

ただ、共和党陣営の幹部によると、同党はトランプ氏の集会で熱狂をあおっているだけではなく、もっと大規模な取り組みを行い、新たなトランプ支持者の獲得を図っている。対象の多くはあまり選挙に行かず、共和党員ではない可能性もある有権者だ。

トランプ氏の集会への参加者はオンラインで登録し、携帯電話の番号を書き込まなければならない。共和党の選対チームはこうした情報を使い、前回の大統領選で投票しなかった有権者や、これまで投票したことがない有権者を特定している。つまりトランプ氏の集会は「大規模なデータ収集イベントだ」(選対チームの広報担当者)という。

集会とデータ分析の組み合わせは選挙戦で有力な武器となり、共和党がトランプ後になっても築き続けることができるデータベースを作り上げた。

トランプ陣営と共和党はトランプ氏の支持基盤の拡大に多額の資金をつぎ込んだ。共和党の幹部によると、今年の選挙戦開始以降、共和党は250万人のボランティアを動員、2940万世帯を戸別訪問し、激戦州での電話での支持訴えは1億2890万回に達した。

世論調査担当者の多くが、共和、民主両党の支持率が拮抗する主要な「スイングステート」の一部でトランプ氏支持を実際よりも低く見積もってしまったのは、トランプ陣営がこうして新たな支持者を掘り起こしたのが原因かもしれない。もう1つの可能性は「隠れトランプ支持者」の存在だ。

ペンシルベニア州バックス郡のトランプ氏の集会に来ていたライアン・ランダースさん(46歳)によると、トランプ氏支持の友人の中には世論調査の電話でうそをついた人もいるという。

ビル・クラッチャーさん(48歳)も「トランプ氏支持なら意見は言えない。トランプ氏のサインを持っていたら、ひどい目にあわされる」と話し、左派の人々をはばかって支持を隠している人々がいることを明かした。クラッチャ-さんは過去にオバマ氏とヒラリー・クリントン氏に投票したが、今年はトランプ氏を支持した。』