経済成長が招く軍事緊張 世界の武器貿易、冷戦以来の増勢 チャートは語る

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『世界の武器輸出が再び増えてきた。中東や東南アジアなどの新興国が経済成長を背景に購買力を高めて軍備の増強に動く。米国と旧ソ連が東西両陣営を支援した冷戦期と異なり、輸出側も経済的側面から市場開拓に力を注ぐ。冷戦期以来の武器貿易の増勢は近隣国同士の軍事的緊張を高め、地域情勢を不安定にするリスクもはらんでいる。

米国の戦闘機「F35」の調達構想がアラブ首長国連邦(UAE)やカタールで浮上した。日本など米国の友好国が導入してきた最新鋭機だ。レーダーが探知しにくい「ステルス性能」を強みとする。

トランプ米大統領は中東に関し「大多数が裕福な国で、戦闘機を買いたいと思っている」と話す。ストックホルム国際平和研究所のデータによると、カタールは2010年代の武器輸入が00年代と比べて15.6倍、サウジアラビアは6.6倍に増えた。

南シナ海情勢が緊迫する東南アジアも顕著だ。ベトナムが6.7倍、インドネシアが2.5倍と伸びた。

インド太平洋周辺の経済成長を遂げた新興国がその果実を軍備に向ける構図が鮮明になった。18年の軍事費が10億ドル以上の68カ国について09年と比べると名目国内総生産(GDP)が増えた国ほど軍事費を増やす傾向がある。

インドネシアはGDP81%増に対し軍事費が2.3倍に膨らみ、経済の伸び以上に国防に費やす。兵器のハイテク化が進む状況で、購買力がある近隣国同士が高度な装備の導入を競い合えば軍事的な緊張は高まる。

経済成長した国が増えると同時にその市場を攻略する輸出国の動きが強まった。10年代後半の世界の輸出は90年代以降で最も多く、冷戦終結前の水準に匹敵する。

中身は冷戦期とは大きく異なる。米ソの50~80年代の輸出先上位は東西ドイツなど北大西洋条約機構(NATO)やワルシャワ条約機構の国が入っていた。90年代以降はインド太平洋地域が中心だ。

米国はサウジアラビアが90年代以降で最大の輸出先になるなど中東に力が入る。従来はイスラエルの優位を保つためアラブ諸国への最新兵器の輸出は抑えていた。

同盟国のオーストラリアや韓国、日本も上位だ。拓殖大の佐藤丙午教授は「直接関与して負担を背負うより、武器を輸出し同盟国の能力を高めようと考えた」と分析する。

ロシアもアジアや北アフリカの新興国に食い込む。90年代後半には旧ソ連のピーク時の2割まで輸出を落としたが、プーチン政権が窓口を一元化して攻勢をかけた。ロシアの軍事政策に詳しい東大の小泉悠特任助教は「天然ガスやインフラとパッケージで売り込んだ。実戦の使用例が豊富なのも強みだ」と指摘する。

二強の米ロ以外で輸出国に育った新興勢力も目立つ。世界の輸出に占める米ソ、米ロの割合が70年代の7割超から10年代後半は57%に下がった。韓国はインドネシアの潜水艦受注など東南アジアに注力する。先端技術に強いイスラエルも力をつけている。

中国は自国の軍近代化を優先しているもようだ。自動運転や通信などの技術を高め、ミサイル開発も進む。笹川平和財団の小原凡司上席研究員は「近い将来、低価格で1世代前の兵器の大量輸出を図る」と予測する。

日本も輸出拡大を探る。防衛産業の維持に必要な面もある。14年に武器輸出禁止の原則を見直し、平和への貢献など制約をつけて道を開いた。

潜水艦技術などに強みがあるものの価格は高くなりがちだ。成果は8月に契約したフィリピンの警戒管制レーダーに限られる。主要国の輸出競争が激しくなる中で、存在感を出せないでいる。

(宮坂正太郎、甲原潤之介)』