トランプ氏「法と秩序」で反撃 暴動の街ウィスコンシン州

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『米大統領選が1週間後に迫った。世論調査では民主党候補のバイデン前副大統領を共和党候補のトランプ大統領が追いかける展開だ。支持率が拮抗する激戦州の現状を報告する。

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8月下旬に白人警官が黒人男性を背後から7回銃撃する事件が起きた米中西部ウィスコンシン州の小都市ケノーシャ。街の中心部は、10月中旬になっても、暴徒によって放火された100台以上の自動車が占拠したままだ。周辺には炎上したアイスクリーム店や家具店が残っていた。

黒人差別への抗議活動のスローガン「BLM(黒人の命は大切だ)」を訴える人であふれたケノーシャは今は静まりかえっている。

人口10万人のケノーシャに31年間住むエリック・エルテルさん(71)は「暴徒の多くがケノーシャ外から来て、あり得ない破壊活動が起きた」と憤る。IT(情報技術)企業の経営者で白人のエルテルさんは、2016年はトランプ氏の手腕に半信半疑だった。今はトランプ氏を「史上最高の大統領」と絶賛する熱烈な支持者だ。

米大統領選は、ラストベルト(さびた工業地帯)の東部ペンシルベニア州など10州あまりが激戦州と呼ばれる。なかでもウィスコンシン州は、トランプ氏が16年に得票率0.7ポイントの僅差で制し、大統領の座をつかむ一因となった。政治サイト、リアル・クリア・ポリティクスによると、バイデン氏はウィスコンシン州でトランプ氏に4.6ポイントのリードをつける。トランプ氏は治安強化を意味する「法と秩序」のスローガンで巻き返しを図る。

「全ての家族の安全を」。ケノーシャから北へ100キロメートルほどの場所にあるワシントン郡。同郡共和党のボランティア、リンダ・グラースさん(67)はこう記したチラシを持って、1時間にわたって10軒以上の有権者の自宅を戸別訪問して回った。新型コロナウイルスで民主党が戸別訪問に慎重ななか、治安対策を重視するトランプ氏の支持を訴えた。

白人が95%を占めるワシントン郡は、ウィスコンシン州の勝敗を左右する可能性が高い重要な場所だ。16年の大統領選でトランプ氏は同郡で66%の票を得た。民主党候補のヒラリー・クリントン元国務長官を40ポイント上回り、下馬評を覆してウィスコンシン州で勝利する原動力となった。

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同郡共和党のジム・ゲルトライヒ支部長は、「有権者の最大の関心事はコロナではなく治安だ」と断言。前回の得票率(66%)を上回る70%超を目指すと意気込む。民主党支持者が多い都市部は今回投票率が上がる公算が大きい。トランプ氏の再選にはその分票の上積みが不可欠で、ボランティアによる戸別訪問はそのためだ。

一方で「法と秩序」の訴えは反発も生む。16年にトランプ氏を支持した銀行員のケリー・シルさん(56)は「人種間の分断をあおるトランプ氏が治安悪化を招いた」と、今回はバイデン氏への投票に傾いている。マルケット大のウィスコンシン州を対象とした10月の調査では、「トランプ氏の抗議デモへの対応を支持する」との回答は、共和党支持者の77%に対して、無党派層は33%にとどまる。

バイデン氏が率いる民主党が目指すのは、支持基盤である黒人の票固めだ。16年はウィスコンシン州での黒人投票率が19ポイント下がり、トランプ氏勝利につながったからだ。

民主党系の政治団体「投票への魂」のグレッグ・ルイス事務局長は「BLMによって、黒人の考えは変わるはず」と期待する。黒人の投票率を高めるため、車を持たない有権者を無料で自宅から投票所まで送迎する取り組みを始めた。

「もう少し広告を増やせば数千票を得られた」。クリントン氏は回想録でウィスコンシン州での敗北を悔やんだ。同州勝利を過信し、一度も選挙集会を開かなかったからだ。9月にウィスコンシン州を訪れたバイデン氏だが、同州の黒人の約7割が暮らすミルウォーキーは訪れなかった。ルイス氏はバイデン氏に警鐘を鳴らす。「黒人が投票に行くと当然視してはならない」』