青天井の献金、最終盤を左右 バイデン氏広告費2倍 分断のアメリカ マネーの奔流

『米大統領選まで2週間を切り、両陣営の広告合戦が激化している。民主党のバイデン前副大統領は16日までの1週間で、トランプ大統領の約2倍のテレビ広告費を投じた。選挙戦を支えるのは上限が撤廃され青天井となった政治献金だ。大口献金者ほど強い影響力を持つ構図で、民主主義の理念が揺らいでいる。

映画「スター・ウォーズ」シリーズに出演した俳優サミュエル・L・ジャクソン、人気ラッパーのリュダクリス――。南部の激戦州フロリダでは10月から、黒人の著名人がテレビやラジオの広告で投票を連日呼びかける。仕掛けたのはバイデン陣営だ。

米広告調査会社アドバタイジング・アナリティクスによると、バイデン陣営が16日までの1週間で使ったテレビ広告費は3970万ドル(約42億円)で、トランプ陣営の約2倍。2カ月前と比べバイデン陣営の広告費は約2400万ドル増えた。

敵対候補の中傷合戦が当たり前の米選挙。どれだけ政治広告を流せるかが当落のカギを握る。両候補はネット広告でも競い合い、選挙活動費は膨らむ一方だ。

強まる富豪の政治力
これほどまで前例のない金権選挙になったのは、献金の上限額が撤廃されたためだ。これまでの献金先は政党か候補者、候補者を支援するPAC(政治活動委員会)だったが、10年に連邦最高裁が「政治広告費の制限は言論の自由に反する」との判断を下し、企業や個人からの献金に上限がない「スーパーPAC」が誕生した。複数の候補者や団体に資金を提供する場合は総額に上限が残っていたが、別の最高裁判決で14年に撤廃された。

上限撤廃で富裕層や企業の資金が際限なく選挙に流れ込むようになった。連邦選挙委によると、議会選向けを含めた全米の献金額は右肩上がりで増え続け、9月末時点で計150億ドルを超えた。08年選挙時の2.5倍で、過去最高だった16年選挙時も6割上回り、膨張が止まらない。

特に多額の資金が流入するのはバイデン陣営だ。ウォール街の金融・投資関係者が豊富な資金力で他業種を圧倒する。トランプ政権の規制緩和や減税で恩恵を受けていたが、次期政権への影響力を狙って「勝ち馬に乗ろうとする動きが加速した」と米投資銀行シグナム・グローバル・アドバイザーズのチャールズ・マイヤーズ会長は明かす。

連邦選挙委員会(FEC)の大口献金者(2000ドル以上)のデータによると、8月にバイデン陣営には3920万ドルが集まった。7月に比べ約3倍増だ。トランプ陣営の8月の大口献金額も前月から4割増えたが1260万ドルと見劣りする。支持率で優位が続くバイデン氏に、日和見の富裕層マネーが流れ込んだ。

献金額、上位7人で6割
トランプ氏を支援するのも富豪たちだ。東部ペンシルベニア州などでバイデン氏の増税政策を批判する広告を流すのは「アメリカ・ファースト・アクション・スーパーPAC」。運営するのは米プロレス団体元トップのリンダ・マクマホン氏。大口献金者として16年のトランプ氏勝利に貢献し、中小企業局長として政権入りした。

同PACの出資者には米投資会社ブラックストーン創業者のスティーブン・シュワルツマン氏らトランプ支持の富豪が並ぶ。献金者は1700人を超えるが、金額上位7人で総額の6割を占める。富豪の意向が反映されやすい構造だ。

「次期政権が企業経営者やロビイストを閣僚に指名するのを阻止すべきだ」。民主党の左派系議員らは16日、共和・民主両党の上院トップに書簡を送った。トランプ氏だけでなく、金融業界に資金を依存するバイデン氏にも癒着の懸念が強まる。金権選挙に拍車がかかり、「1人1票」の民主主義の理念が損なわれつつある。

(ニューヨーク=宮本岳則)』