視点と視野と視座は何が違う? 対義語も思考ツールに 第14回 多面思考

視点と視野と視座は何が違う? 対義語も思考ツールに
第14回 多面思考
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『視点・視野・視座の違いとは?
思考力を鍛える研修で、私がよく尋ねる質問があります。「視点・視野・視座は、それぞれ何を意味していて、どこが違うのでしょうか?」というものです。できれば、読者の皆さんも、少し考えてから先を読んでみてください。

何も思い浮かばない人には、ヒントを差し上げます。「視点が新しい」「視野が広い」「視座が高い」とは言いますが、「視点が広い」「視野が高い」「視座が新しい」といった言い方はあまりしません。そこに3つの違いが現れているはずです。

会社の業績の話を例に解説するとこうなります。視点とは、業績や会社の「どこを見るのか?」です。売り上げ、利益、商品、業務、組織など、経営を見る視点はたくさんあります。

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2つ目の視野は「どんな範囲で見るか?」です。今期だけを見るのか長期的に見るのか、国内だけを見るのかグローバルに考えるのか、販売だけを見るのか経営全体を見るのか……。時間、空間、人間、システムの広がりを指すのが視野です。第6回の分析思考を思い出してください。

そして、「どこから見るのか?」が視座です。同じものを見ても、見る立場やポジションによって見えるものが違ってきます。現場の人間は細部がよく見えるのに対して、経営者は全体を俯瞰(ふかん)的に見ます。年齢、性別、国籍などによっても視座が変わってきます。

視点、視野、視座を変えて、いろんな方向や角度から考えるのが「多面思考」です。そうすることで、深く、柔らかく、緻密に物事を検討することができます。

対義語を活用して多面思考を実践する
日常生活では、3つの違いはそれほど意識する必要はありません。要は、いろんな観点から考えればよいだけです。一番お手軽なのが、相反する2つの観点で見ることです。

アイデアの採否を検討するときに使う「プロコン表」が、まさにこれに当たります。

ホワイトボードや紙の真ん中の線を書き、左のスペースに賛成の理由(Pros:良い点やメリット)を、右に反対する理由(Cons:悪い点やデメリット)を挙げていきます。左右を見比べて、トータルでどちらが優勢かを判断します。

賛成と反対をあわせて賛否といいます。メリットとデメリットは損得です。このように熟語の中には、意味が正反対の言葉をセットにしたものがたくさんあります。対義語と呼びます。

他にも、男女、長短、善悪、新旧、利害、公私、自他、入出、遠近、内外、主従、難易、増減、需給、動静、因果、攻守など、数え上げればキリがありません。

観点を3つにすれば、衣食住、心技体、人物金、知情意、守破離、報連相、正反合、走攻守、大中小などがあります。4つでは、起承転結、老若男女、加減乗除、喜怒哀楽、冠婚葬祭などがあり、時間のある方は調べてみてください。

これらはすべて多面思考の切り口として使えます。新しい事業を立ち上げるなら、人物金の3つの観点で考える、といったように。日本語は多面思考を実践するのに便利な言葉なのです。

ビジネス・フレームワークを活用する
熟語にある切り口はテーマを選ばず、一般的に使えるものばかりです。それに対して、ビジネスに特化した切り口があります。「ビジネス・フレームワーク」と呼ばれているものです。

経営学の理論や経営コンサルタントのノウハウを凝縮したもので、労せずして多面思考ができるのがありがたいです。今やビジネスには欠かせないツールと言っても過言ではありません。

フレームワークに関しては、以前の連載「フレームワークで働き方改革!」で詳しく解説をしました。そのとき取り上げなかったものをひとつだけ、多面思考の例として紹介したいと思います。

多くの企業では、これからどのようにビジネスを継続していくか、根本的な見直しをせまられています。そのためには、企業を取り巻くマクロな環境を分析することが欠かせません。

そのためには、政治、経済、社会、技術の4つの側面から多面的な分析が必要です。英語の頭文字をあわせて「PEST」と呼びます。

まずは政治(Politics)、すなわち政府の方針、政策、法改正、規制強化(緩和)などの変化やその兆しを洗い出します。次に、経済(Economics)で、成長率や失業率などの各種の経済指標が分析の手がかりとなります。

3つ目に社会(Society社会)です。ここには、人口、文化、暮らしなど社会情勢に関わる幅広いものが入ります。そして最後に、新しい技術開発や投資動向を見る技術(Technology)です。

もちろん、これ以外の要因もありますが、この4つを押さえておけば、ほぼ全体がカバーできます。大きく世の中の動きを見誤ることはないでしょう。

選択肢を多面的に考えてベストを選ぶ
ここまで述べた話とは別に、多面思考にはもうひとつ違った使い方があります。

皆さんは物事を決めるときに、どうやって決定をしますか。日々の買い物とパートナーの選択とでは大きく違ってくるとは思いますが、おおむねA・Bどちらのやり方が多いでしょうか。

A あれこれ調べたりせず、自分にピッタリなものを見つけたら、「これだ!」と決め打ちする。
B 候補を複数洗い出して、いろんな観点から比較をして、そのなかで最善のものを選ぶ。
もうお分かりのようにBが多面思考です。別にAがダメなわけではありません。私の知人に数千万円の中古マンションを、情報誌を見るなり実物も見ずに購入したツワモノもいます(しかも家族に一切相談なし!)。今も気に入って住んでいますから、よほどビビッと来たんでしょう。

ところが、ビジネスの場合、Bのほうが意思決定の質が高まることが、海外の研究で明らかになっています。Aだと確証バイアス(自分の意見に都合のよい情報ばかり集めてしまう癖)が働きやすくなり、比較する選択肢がないと検討のヌケモレが発生しやすいからです。

もし、皆さんの部下で、Aの決め方をする人がいたら、柔らかく指導をしてあげてください。

たとえば、「我が社は○○をすべきです」と言ってきたら、「それはいいけど、他にどんな手を考えた?」と尋ねるのです。相手がけげんな顔をしていたら、「それしか考えないで、なぜこれがベストと言えるの?」と二の矢を放ちましょう。しつこく繰り返せば多面思考が身につくはずです。』