安倍外交、同盟強化が起点 安倍前首相インタビュー

安倍外交、同盟強化が起点 安倍前首相インタビュー
中国台頭で米と危機感共有
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO64254760V20C20A9SHA000/

『安倍晋三前首相は日本経済新聞のインタビューで、7年8カ月の長期政権を振り返った。2016年11月、米大統領選で極東からの米軍撤退を示唆し、同盟見直しを掲げたトランプ大統領が勝利し、日本外交は緊迫した局面にあった。安倍氏は就任前のトランプ氏を訪ねて中国の軍事的な台頭を背景に日米同盟の重要性を訴え、退陣に至るまでの強固な関係の起点とした。

16年11月17日、米ニューヨークのトランプタワーでのトランプ氏との会談は予定の倍の1時間半に及んだ。10日ほど前に大統領選に勝ったばかりのトランプ氏にとって、安倍氏は選挙後初めて会う海外首脳だった。

■東アジア情勢、図表広げ説明
「あなたはエスタブリッシュメント(支配層)に挑戦して勝った。私も野党だったが挑戦して勝った」。安倍氏はこう伝え、トランプ氏から「そこは我々の共通点だ」との言葉を引き出した。

安倍氏には「トランプ氏はこれまでの大統領とは相当、違うタイプだ。就任前の段階で会った方がいい」との思いがあった。同盟と貿易・経済、この2つの重要性で一致しなければ、日本外交が立ちゆかなくなるとの危機感だ。

安倍氏は中国や東アジア情勢をグラフなどを用いて描いた図表を広げ、説いた。

「中国はいつから、どのぐらいのスピードで軍事費が増えているのか」。トランプ氏の質問に安倍氏が「30年近くで約40倍に増えた。こんな速さで増やした国は世界中でない」と答えると、トランプ氏は驚いた表情を見せた。

安倍氏は中国潜水艦の具体的な保有隻数も挙げて「標的は西太平洋などで活動する米海軍第7艦隊だ」との見方も示した。日本だけでなく米国の問題でもあるとして「米国はプレゼンスを維持してほしい」と呼びかけた。

その後、日米で掲げた「自由で開かれたインド太平洋」構想への支持はオーストラリアやインド、英仏などに広がった。

初対面で「ゴルフの約束を取り付けるのも目的の一つだった」とも明かした。トランプ氏との「ゴルフ外交」は計5回、正式な会談は14回を数えた。

安倍氏は「トランプ氏は私によく『短期的には北朝鮮、中長期的には中国が問題だ』と言っていた」と語り、初対面時の説明が奏功したとの認識を示した。

トランプ氏は大統領選中の公約も忘れていなかった。一連の会談で「日米同盟は片務的で不公平ではないか。駐留経費も日本がもっと負担すべきだ」と繰り返し迫った。

その度に、安倍氏は「日米同盟を『助け合う同盟』にするために、憲法解釈を変更し(集団的自衛権の行使を認める)安全保障関連法を整備した。そのために内閣支持率を10%以上落としたんだ」と返した。トランプ氏は「それはすごい勇気だ」とたたえた。

在日米軍の駐留経費についても安倍氏は再三、米軍の給料以外、光熱費や住宅費など7割以上を日本が負担している現状を解説した。「米軍部隊を米本土に置くより日本に駐留している方が安いんだ」と話すと、トランプ氏が「非常に分かりやすい。You are a genius!(あなたは天才だ)」と答えたこともあった。

18年6月の米朝首脳会談の開催地選びでは安倍氏がトランプ氏に助言した。米朝間でソウルやシンガポールなど複数案があった。「朝鮮半島で開くと北朝鮮ペースになりかねない」とシンガポール開催を主張し、トランプ氏も同意した。

■近づいた領土、解決に至らず
強固な日米同盟を築いた一方で、やり残した部分もある。

「戦後外交の総決算」として掲げたロシアとの北方領土の返還交渉は、プーチン大統領との会談で平和条約交渉を巡り「いよいよ締結に向けた中身の交渉に近づいているとの認識があった」と述べた。決着次第では衆院解散・総選挙を実施して「国民に信を問わねばならないと考えていた」とも語った。

16年12月、山口県長門市での会談で「プーチン氏に積極的に解決するつもりがあるのではないか」と感じ、18年11月のシンガポールでの会談にかけて「最も近づいた」と振り返った。

結局、平和条約は締結に至らなかった。ロシアによるクリミア併合などで「米ロの対立が強まったという別の要素があった」と安倍氏は補足した。

北朝鮮問題では金正恩(キム・ジョンウン)委員長との間で「いろいろな兆候はあった。会談に向けた機運が芽生えるかもしれないという雰囲気はあった」と首脳会談を模索したが、実現しなかった。拉致問題は解決できずにいる。「拉致問題はトップの判断なのでなかなか難しかった」と、首脳会談が実現できなかったことを悔やんだ。

韓国とも元徴用工訴訟や貿易管理の厳格化などを巡り戦後最悪の状態に陥った関係を改善することなく終わった。地球儀を俯瞰(ふかん)する外交の完成は、後継の菅義偉首相にゆだねる形となった。

菅首相が第2次安倍政権発足後、一貫して官房長官を務めた経歴に触れ「ずっと政権の中枢にいたというのは相手にとって安心感になる。外交では財産だ」と指摘した。

安倍氏は8月28日に持病の悪化を理由に首相を辞任する意向を表明し、9月16日に辞任した。通算の在任日数は3188日で憲政史上最長となった。インタビューは24日に実施した。

(聞き手は政治部長 吉野直也)

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