威嚇に懸ける、中国爆撃機の性能と限界

威嚇に懸ける、中国爆撃機の性能と限界
太平洋に進出すればただの「標的」を必要以上に恐れるな
https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/62209

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『爆撃機は、大型の機体であり、大量の爆弾を搭載して飛来し、その爆弾を落とす恐ろしい兵器だというイメージが強い。

 米空軍爆撃機が第2次世界大戦で、日本やドイツを爆撃した時やベトナム戦争で北ベトナムを爆撃した時の映像が頭に残っているからだろう。

 そのため、中国の爆撃機が西沙諸島に配備されたり、南西諸島の宮古海峡を越えて西太平洋に進出したり、台湾の防空識別圏に侵入したりしたことを写真つきでメディアに取り上げられると、国民は大きな衝撃を受ける。

 戦時であれば、中露の爆撃機は、相手国に接近するだけで撃墜されるだろう。

 しかし、平時には撃墜される恐れがないため、あからさまに接近して威圧する行動に出ることがある。

 メディアは、これらのことを「爆撃機の脅威」という文字で表わすことが多い。これを見た国民が不安や恐れを抱くことがある。

 このため、過剰な不安や恐れを抱かないために、これらが現実的に生起することなのか、脅しのために見せつける行動なのかを区別して理解する必要がある。

 現在の爆撃機の運用は、過去のイメージを変えている。

 図体がでかく飛行速度も遅い爆撃機は、防空ミサイルや戦闘機から容易に撃墜される。

 そこで爆撃機は、防空ミサイルの射撃を避けて、防空ミサイルの射程外(アウトレンジ)から大型で長射程のミサイルを撃ち込むように変更している。

近年では、射程を延伸して敵の戦闘機や艦艇のミサイルの範囲外、つまり友軍の掩護を受けた空域からミサイルを発射する能力を持つ。

 米空軍の「B2」ステルス爆撃機だけは、防空レーダーに映らないために、敵国の内陸部まで侵入し、約14トンもの超大型貫通爆弾を撃ち込むことができる。

 当然、長射程のミサイルも使用できる。

 中国空軍は、まだステルス爆撃機を保有していないので、友軍から掩護された空域から長射程のミサイルを撃ち込む戦略を採用せざるを得ない。

 では、中国空軍爆撃機の脅威とは、どのようなものなのか。

 特に中国本土や南シナ海の西沙諸島に展開する爆撃機が、日本、台湾、南シナ海を取り囲む国々およびグアム島に対してはどうかなどを分析し解説する。

旧式爆撃機の改良にとどまっている現実
 中国空軍は1994年頃、「H-5」爆撃機(旧ソ連名「Iℓ-28ビーグル」)を350機、「H-6」爆撃機(旧ソ連名「Tu-16バジャー」)を中国国内でライセンス生産し約120機を保有していた。

 2020年現在では、H-5爆撃機は、すでにすべて廃棄し、H-6爆撃機を約180機保有している。

 H-5爆撃機を使用しているのは現在、世界でも北朝鮮に80機あるだけだ。他の国では、軍事博物館に飾ってある。

 H-6爆撃機は、ロシアでは1993~94年頃には、旧式であることを理由に破棄された。ロシアが、この型の爆撃機を6機廃棄してから、約25年以上も経過している。

中国のH-6爆撃機でもかなり旧式であることから、「Tu-22M」超音速爆撃機(バックファイア)をロシアから導入しようとしたが、何らかの理由で、実現しなかった。

 2017年にTu-22M×1機が国際行事のために、中国の長春を訪問した。売買交渉が続いているのかもしれない。

 超音速爆撃機を導入できないためか、中国はロシアが廃棄したTu-16爆撃機を新たにH-5爆撃機として製造している。

 長射程のミサイル、特に、約2000キロの巡航ミサイルや約1500キロの弾道ミサイルを搭載し、長い槍で日米や周辺諸国を衝く空・海軍戦略を考えているようだ。

 中国空軍は、射程40キロの巡航ミサイルや射程250キロの対艦ミサイル搭載の「H/M型」を60機、長射程巡航ミサイル(射程1500~2000キロの「長剣-10」:「CJ-10A」)搭載のK型を100機、射程1500キロの「DF-21D」対艦弾道ミサイル搭載のN型を4機以上保有している。

 中国海軍は、射程約250キロの空対艦ミサイル「YJ-83A」を装備したG型を27機、射程400キロの超音速対艦巡航ミサイル「YJ-12」や射程250キロの対艦弾道ミサイル「CM-401」を搭載可能なJ型を8機保有している。

中国爆撃機はグアム島まで攻撃可能か
 中国沿岸部や南シナ海の西沙諸島からグアム島まで4000~5000キロである。

 H-6爆撃機は、戦闘行動半径3500キロと長射程巡航ミサイルの射程2000キロをプラスすれば、計算上は、空対空のミサイルがグアム島まで到達できる(図1参照)。

だが戦時ではどうなのか。

 H-6爆撃機は、最大速度が時速1050キロである。Tu-22M爆撃機は時速約2300キロ、「Su-27」戦闘機が2500キロであり、それらと比べると半分以下だ。

 大型で飛行速度が遅い爆撃機は、防空ミサイルの標的になる。

 遅い速度で、戦闘機の防空掩護なく、あるいは、あったとしても空中給油を受ける戦闘機だけの防空掩護で、南西諸島やフィリピンと台湾間のバシー海峡を通過して、3500キロを移動すれば、米空母の戦闘機や米海軍イージス艦の防空ミサイルに容易に撃墜されてしまう。

 日本が南西諸島に配備する防空ミサイルが残存していれば、そこを越えて飛行することはできないであろう。

 戦時では、図体がでかくのろまな航空機がミサイルの射程圏内に入って来れば、容易に撃墜される。

 同様に随伴する空中給油機も戦闘機も同じ速度で飛行するので、同様であろう。

 これは、自殺行為である。

 おとりために出て来る以外、戦時、みすみすやられるために西太平洋に出て来ることは有り得ない。

 では、中国爆撃機はどうするか。

 爆撃機は、撃墜されないために、中国の沿岸部から発進して上空に上がっても、Su-27戦闘機から掩護される空域から出ることはないであろう。

 そうなると、Su-27戦闘機の戦闘行動半径以内、おおよそ南西諸島のライン付近からは出られない。

 この範囲から、長射程巡航ミサイルが届く範囲の目標は攻撃できるが、それよりも遠方にあるグアムを攻撃できないことになる(図2参照)。

東シナ海での威嚇飛行の狙いは
 H-6爆撃機は、次の3つのパターンで飛行すると考えられる。

①沖縄本島と宮古島の間の宮古海峡を越えて、西太平洋に進出して中国に戻る。

②宮古海峡を越えて台湾の東に接近する。

③対馬海峡を越えて、日本海に進出する。

 この時、爆撃機を支援する戦闘機が、南西諸島まで掩護して随伴飛行をする。つまり、戦闘機の戦闘行動半径付近までは、戦闘機が爆撃機を掩護する。

 爆撃機のパイロットは、戦闘機の掩護がなければ、単独では行動できないことを知っている。

 爆撃機は、援護がなくなってから延々と単独飛行をして、爆撃機の戦闘行動半径の3500キロを飛行しているのかというとそうではない。

 西太平洋への単独飛行はせいぜい100キロ程度だ。台湾方面へは、単なる威嚇飛行であり、撃墜される可能性はないことを承知で、約300キロ単独飛行をしている。

 戦時の戦闘行動では、まず、南西諸島に配備されている防空ミサイルシステムを完全に破壊しない限り、南西諸島を通過して、西太平洋に出ることは不可能である。

 平時では、国際海峡の上空を通過するだけでは、その航空機を撃墜することはできないので、中国の爆撃機は日本や台湾を威嚇するために、堂々と飛行しているのだ。

 戦時には、中国爆撃機がこのような行動を取れば、直ちに撃墜されることになるであろう。

では、台湾有事になれば、日本はどうすべきなのか。

 日本は、中国軍機の行動を、見て見ぬふりをして沈黙するのではなく、南西諸島一帯での、中国軍機の飛行を禁止することを世界に宣言すべきである。

図3 平成28年9月25日中国軍機の行動概要

出典:防衛省統合幕僚監部プレスリリースに筆者コメント
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図4 平成28年12月10日中国軍機の行動概要

出典:防衛省統合幕僚監部プレスリリースに筆者コメント
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西沙諸島への爆撃機展開の狙い
 まず、中国による南シナ海の占拠の違法性についてである。

 南シナ海において一方的な海洋権限を主張する中国に対し、2016年、オランダのハーグに設置された南シナ海仲裁裁判所は、中国の主張を全面的に否定する裁定を下した。

 つまり、中国は南シナ海を不法に占拠しているのである。

 中国軍用機専門ブログ「CMA」は8月、中国人民解放軍海軍が、南シナ海のウッディー島(中国名・永興島)にH-6J×1機を展開したと伝え、関連写真を公開した。

 展開という表現は、一時的に着陸して短い期間滞在したものか、長期間の配備なのかを判断しなければならない。

 長期間の配備の可能性について検討すると、爆撃機を西沙諸島の永興島に長期間実戦的に配備するのであれば、この爆撃機を守るために、南沙方面の人工島に戦闘機を数十機配備しなければならなくなる。

 戦闘機の掩護の配備がなくて、爆撃機を配備することは、自滅行為に等しい。米海軍の艦対地ミサイルに簡単に破壊される恐れがあるからだ。

 よって、永興島への一時的で短時間の展開であったと見るべきであろう。では、その狙いは何か。

 中国による南シナ海領有の既成事実化であり、周辺諸国への軍事的恫喝である。

 実戦で、この爆撃機が周辺諸国に使用できるのかというと、米海軍が存在し、あるいは周辺諸国が防空ミサイル装備の艦艇を保有していれば、その行動は大きく制限されるであろう。

中国軍爆撃機の真の脅威とは
 中露の大型の爆撃機が、現実にわが国の周辺に接近飛行し、時には領空侵犯を行う。

 かつて、米ソ冷戦時代、旧ソ連空軍遠距離航空隊の爆撃機が日本に接近し、航空自衛隊のレーダーサイトを明らかに攻撃する航跡を取ったことが何度もあった。

 最近では、中露の爆撃機が東シナ海から日本海にかけて共同訓練を行った。

 中国の爆撃機が、台湾を威嚇する飛行も行い、南シナ海では、西沙諸島の永興島に一時的に展開し、周辺諸国を威圧し、領有の既成事実化を図っている。

 中国の習近平国家主席は、中国が保有する兵器を防衛的なものと言う。だが、これらの兵器の保有と行動は、中国が意図的に行っているものであり、極めて威圧的である。

「遼寧」などの大型空母、長射程のミサイルを搭載した爆撃機、大量の弾道ミサイルは、周辺国を脅かす兵器だ。

 だが、これらの兵器や行動を恐れるだけではいけない。存在自体に、また、白紙的な計算で攻撃される恐れがあるからといってむやみに恐れてはいけない。

 その兵器の実態、具体的には戦闘における強さ、運用の限度、弱点を知って、勝てる対策を講じることが必要である。

 戦闘の場面を考察し、どのような脅威があるのかを知っておくべきだ。

 ただむやみに恐れることは、中国の威圧的な宣伝戦に踊らされることである。

 これらは、防衛担当者や軍事専門家だけが、知っておけば良いものではない。日本国民全体が、メディアが、中国の宣伝戦に揺さぶられて、右往左往しないことだ。

 国を守るということは、国民が軍事力について恐怖を感じるのではなく、具体的な知識を持つことであり、そして防衛兵器を保有し、防衛政策に生かすということであろう。』