吉野家HD、「10%減収でも黒字」可能か 鍵握る3つの改革

吉野家HD、「10%減収でも黒字」可能か 鍵握る3つの改革
証券部 田中嵩之
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO63979480X10C20A9000000/

『 吉野家ホールディングスが費用構造の見直しを迫られている。2021年2月期は連結営業赤字額が87億円(前の期は39億円の黒字)と過去最大になる見通しだ。コロナ禍による客数急減が主因だが、理由はこれだけではない。損益状況を分析すると、コロナ前から費用負担が重く利益が出にくい体質になっていた影響も出ている。

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今期は11年ぶりの営業赤字を見込む。外食ではコロナ禍での客数急減の影響が大きいが、同社で気になるのはもともとの採算性の低さだ。ここ5年の売上高営業利益率平均は1%強にとどまり、同業の松屋フーズホールディングス(4%台)などより劣る。

損益分岐点比率をみると理由が分かる。有価証券報告書のデータをもとに、正社員給与や家賃、役員給与・賞与、減価償却費などの項目を固定費、食材関連費やアルバイト給与の一部、販管費などを変動費として試算してみたところ、同比率は前期までの3年平均で97%になった。これは3%超の減収で赤字になる状態を意味する。同じ条件で計算した、同業の松屋フーズホールディングス(91%)や上場する主な外食企業平均(約90%)と比べても高い。

損益分岐点比率=損益分岐点売上高÷実際の売上高
黒字確保に必要な売上高水準を示し、低いほど利益が出やすい。
損益分岐点売上高の詳しい説明はこちらから

背景にあるのが固定費の重さだ。試算では、売上高に占める固定費の比率は52%程度(松屋フーズは49%程度)と高止まりしている。同社は昼間の人口が多い「ビジネス街」などでの主力の牛丼を軸とした高い店舗回転率が強みだ。客数増による売上高拡大で費用を吸収してきたが、近年は同業だけで無く、コンビニなど異業種も弁当や総菜の質を高めて攻勢をかけるようになり、売上高が伸び悩んでいた。

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加えて「本部の費用の重さが課題」(吉野家HDの河村泰貴社長)になっていた。「京樽」や「はなまる」などの業態買収に伴い本部人員は膨らんでいた。また、人手不足や働き方改革で人件費が上昇する中、雇用を維持してきたことも響いたようだ。

この状況下、コロナショックが直撃している。テレワークなどを背景に主力地域のビジネス街への影響は深刻だ。今期の売上高は損益分岐点を大きく下回る1700億円台(前期比2割減)に低下し、赤字幅も膨らむ。客足の不透明さと元々の低採算体質を踏まえると、抜本的な費用構造の転換が欠かせない状況だ。

「売上高が10%減で利益が出せる事業構造へ」。会社が目指すのは抜本的な経営転換だ。一部の事業売却影響を除いた前期売上高から10%低い約1770億円(今期の売上高予想は1723億円)という水準でも利益がゼロになる体質を目指す。損益分岐点比率でいえば90%になり、前期の試算値から7ポイント程度も改善することになる。

最優先するのが固定費の圧縮だ。人員再配置やオフィス合理化などを進め、70億円のコストを減らす。具体的には、店舗勤務への転換などを通じ500人近い本部人員(非正規社員含む)を300人に減らし、本社オフィスの3分の1を返上して賃料を適正化する。不採算店舗の閉鎖や国内外の不採算事業の撤退・休止も進める。

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売上高を適切に伸ばす戦略も欠かせない。軸になるのが商品単価の向上だ。代表例が「超特盛」メニュー。「大盛り」の2倍近い量を並盛り2杯以上の価格で販売し大ヒットになった。牛丼の肉部分だけを多めに提供する「肉だく」など、コストがかさむ新メニュー投入に頼らない対策も進めている。実はこれらの施策によって、前期は固定費を維持しながら売上高を伸ばせ、損益分岐点比率の改善につながっていた。

そしてもう1つ。過去に買収した業態のてこ入れだ。例えば、「京樽」は販管費の負担が重いとみられる。同社は2月、不採算を理由に「ステーキのどん」などを運営するアークミールを売却したが、今後もどんな対策に踏み込むがが焦点だ。

足元の株価は、緊急事態宣言解除前の5月末比で2割安く日経平均株価(7%高)より軟調だ。痛みを伴う改革と商品戦略を融合し、コロナ禍に即したビジネスモデルへ転換できるかが株価浮上のきっかけになる。』