米研究、危うい中国排除 中国は「独立」へ着々

米研究、危うい中国排除 中国は「独立」へ着々
チャートは語る
https://r.nikkei.com/article/DGXMZO64090150Z10C20A9MM8000?disablepcview=&s=4

『米国が国内の中国人留学生や研究者を一部排除し始めた。研究分野では米中は緊密な連携を続けてきたため相互に依存関係があり、つながりは想像以上に深い。対する中国は、自国中心で研究の体制を築く動きを見せ、米国離れを進めている。米中のデカップリング(分断)は、米国にとって自身の研究力を損なう「もろ刃の剣」となる危うさをはらむ。

「米国より日本の方がよいと思った」。東京大学の博士課程で研究する王宇晨さん(26)は打ち明ける。王さんは2016年に北京大学の物理学院を卒業し、海外への進学を志した。名門の米プリンストン大学大学院にも合格したが、東大の大学院を選んだ。

これまで増加の一途をたどっていた米国に留学する中国人の数は頭打ちだ。米国土安全保障省の調査によると、米国の大学などで学ぶ中国人留学生は、20年1月時点で36万8800人と1年前より約2%減った。17年12月をピークに少しずつ減り始めている。留学生の減少は、米国がビザ発給を遅らせて留学生の排除に動いているのが一因だ。

米国は中国系研究者も遠ざけ始めた。5月、米連邦捜査局(FBI)は中国政府系機関との関係を隠して米政府から研究助成を受けたとして、中国系米国人研究者を逮捕した。米国立衛生研究所(NIH)は同様に70人以上の研究者の助成金の資格取り消しと50人以上を解雇した。

米トランプ政権が発足した時から続くデカップリングと一線を画し、米中の研究現場では蜜月状態が続いていた。国際共著論文では、米中の連携件数が突出。オランダ学術情報大手エルゼビアによると、20年の中国の国際共著論文の38%が米国の研究機関の研究者との連携だ。米国の共著論文の26%も中国との連携で、国別で最も多い。

両国の共同研究は、中国だけにメリットがあるわけではない。米国の研究力や産業競争力の強さも支えている。

米移民税関捜査局(ICE)が7月に出したオンライン受講の留学生へのビザ発給停止の通告に、米ハーバード大や米マサチューセッツ工科大は猛反発、ICEを提訴した。授業料の減収も痛手だが、大きな理由は、最先端の研究分野ほど外国人に頼らざるを得ない大学の事情があった。

全米科学財団(NSF)によると、米大の18年の理工系博士号取得者のうち、留学生は37%に上る。留学生の中で中国人の割合は約4割と最多だ。外国人の博士号取得者は、米国のハイテク産業を担う。文部科学省の科学技術・学術政策研究所のまとめでは、米国のコンピューター関連企業などの博士号取得者の6割は外国人だ。金沢大学の吉永契一郎教授は「米国は中国などの外国人学生から恩恵を受けている」と分析する。

知を貪欲に吸収すべく米国に倣ってきた中国は、すでに米国離れを虎視眈々(たんたん)と狙っているようだ。

圧倒的な共著関係を持つ米中の論文だが、エルゼビアによると中国の相手国に占める米国のシェアは15年の45%をピークに5年連続で減少。20年は38%まで低下した。代わりに欧州やアジア、ロシアなどとの共著が増えている。

中国は、17年(16~18年平均)の科学論文の投稿数で米国を抜き世界1位となり実力を示した。2月には国内研究機関に、「サイエンス」や「ネイチャー」などの欧米科学誌偏重を改め中国国内雑誌への投稿を促す通達を出した。

ハーバード大学で国際研究を統括するマーク・エリオット副学長補佐は「中国などの排除が続くと米国の大学は強さを維持できず、米国産業界の競争力は低下し、痛手を被るだろう」と予言する。(大越優樹、三隅勇気)』