米の対中圧力、輸出・投資・調達で 全体像を解説

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『華為技術(ファーウェイ)やスマートフォンアプリ「TikTok(ティックトック)」をめぐり、米国が中国への圧力を強めている。中国への輸出、米国への投資、米政府の調達の3方面から法的な規制をかけるとともに、非常事態の際に認められる大統領の強大な権限を活用しており、全体像はつかみにくい。改めて解説する。(渋谷江里子、世瀬周一郎)

(1)中国への輸出 半導体以外も技術規制へ
米国の輸出規制は本来、安全保障上の理由からテロ支援国などへの武器や軍事転用される可能性のある製品・技術の持ち出しを制限するためのものだ。ただ米政府は「安全保障上の懸念」があるとして中国企業に対して幅広く適用。また日本など第三国の企業に対しても「再輸出規制」という形で制限している。

この枠組みの代表的な事例が、2019年5月から実施されているファーウェイに対する措置だ。米政府はファーウェイがイランへの経済制裁に違反したとして、安全保障や外交政策上の懸念がある企業を列挙した「エンティティー・リスト(EL)」に掲載した。

米国はその後も複数の中国の企業や団体をELに追加している。これまでのEL掲載は中東諸国などの企業が多かった。掲載されると米輸出管理規則(EAR)に基づき、米国企業からの幅広い製品の輸出が原則できなくなる。

日本企業にとって影響が大きいのは、米国由来の製品や技術が一定の割合含まれる場合は、掲載企業と取引ができなくなる「再輸出規制」があることだ。

米国に拠点のない日本など第三国企業には本来、米国の主権が及ばないはずだが、規制対象となった取引を停止しない場合、その企業もEAR違反として、米国企業との取引が禁止される可能性がある。罰金や課徴金を課す規定もある。このため「非米国の企業でも順守せざるをえない」(篠崎歩弁護士)。

米国はファーウェイとの取引企業に対して、米国由来の製品や技術が最終製品の価格ベースで25%超含まれた外国産の製品の輸出を実質禁じていたが、今年5月、8月と規制を強化。米国の技術を使って作られた半導体は汎用品でもファーウェイに輸出することが困難になった。規制強化の枠組みは「東西冷戦の際に作られた、最近はほとんど使われない異例の措置」(板橋加奈弁護士)。

EARは根拠法が01年に失効。非常事態に大統領に強い権限を認める国際緊急経済権限法(IEEPA)により効力を維持する例外的状態が続いていた。18年成立の国防権限法2019には、EARの新たな根拠法として輸出管理改革法(ECRA)が盛り込まれた。現時点では大半が未施行だが、輸出規制の相手や対象の製品・技術はさらに広がる見込みだ。

これまでの規制対象の製品や技術は主に「軍事転用可能かどうか」という基準でリスト化されている。ただ最近は技術の進化が加速し、「従来型の方法では規制が間に合わず重要技術が米国外に流出する懸念が生じている」(篠崎弁護士)。

そのため規制の対象を人工知能(AI)やアルゴリズム、データ分析といった「新興技術」と米国が優位性を確保する上で重要な「基盤技術」まで拡大。従来規制されていなかった主に民生用の技術も対象にする見込みだ。中国を念頭に置いた規制だが、対象国は限定していない。

ただこの法律の適用を巡っては産業界からの反発も大きく、具体的な技術の特定も進んでいない。民間から意見を募集している段階だ。

米国由来の技術を使用しているほとんどの企業が対応しなければならなくなるため日本企業への影響は甚大だ。「特に自動運転の開発を進める自動車メーカーなどは影響が大きいだろう」と大手米国法律事務所の弁護士は語る。

(2)米国への投資 政府機関、権限強化進む
中国からの投資を制限するのは、米国の技術や個人情報の流出を防ぐのが狙いだ。手法として代表的なものが米国の政府機関である対米外国投資委員会(CFIUS)による審査だ。ここ数年は中国に関連する投資が審査対象となり、買収を断念せざるをえなくなるケースも増えている。

CFIUSは米政府の複数の省庁でつくる組織で、1975年の発足。大統領令によってつくられたが、複数の法律により段階的に権限が強化され、安全保障上の観点から外国企業による米国企業への出資などを審査・規制するようになった。調査を経て安保上の懸念があると判断した場合、大統領が投資に対する中止命令を下す。

権限は幅広く、買収完了後も審査の対象となる。今回問題となったティックトックの米国事業は、運営元である北京字節跳動科技(バイトダンス)が2017年に米ミュージカリーを買収したのが発端だ。CFIUSは買収完了後の19年に審査を開始し、トランプ大統領が今年8月、審査に基づきティックトックの米事業の売却命令を下した。

何を「安全保障上の懸念」と判断するかは、審査後も明らかにされず「恣意的に運用されることもしばしば」(国際問題に詳しい弁護士)。審査基準も時代によって大きく変わる。「長らく軍事国防関係に限定した消極的な運用がなされていた」(猿見田寛米国弁護士)が、近年は個人情報を持つ産業や人工知能(AI)など新技術を開発する産業にも射程を広げている。

一見、米国と関連がなさそうな投資でも適用対象になることもあり、日本企業も注意が必要だ。18年、LIXILグループがイタリアの建材子会社を中国企業に売却しようとしたが、CFIUSの承認が得られず、最終的には断念することになった。子会社が、米重要機関の外壁工事を手がけていた経緯が影響したとみられている。

判断に従わない場合は「課徴金を含め米政府からのあらゆる制裁が予想される」(西理広弁護士)ため、命令が下されれば、ほぼ従わざるをえない。

投資規制強化に伴い、CFIUSの権限はさらに強まろうとしている。これまで審査対象は米企業への支配権を握るM&A(合併・買収)投資が主だった。国防権限法2019に盛り込まれた外国投資リスク審査現代化法(FIRRMA、2月から本格運用)では、支配権は握らないものの、重要技術・個人データにアクセスできたり、インフラに関わったりする投資も審査対象にすることになった。軍事施設に近い不動産の取得も審査の対象だ。

CFIUSの審査の届け出は原則任意だったが、一定の条件を満たすものは届け出が義務化した。投資を行う際は注意をする必要があるだろう。

(3)米政府調達 間接取引でも影響
米政府は段階的に政府調達の規制を厳しくしている。2019年8月には華為技術(ファーウェイ)など中国企業5社の製品・サービスの政府調達を禁止。今年8月13日には5社の製品を使う企業が、米政府と取引することも禁じた。米政府と直接取引している企業だけでなく、これらの企業と取引している企業にも影響が及ぶ可能性もある。

規制の根拠となるのは18年に成立した国防権限法2019。米政府の調達に制限を設ける同法889条には取引禁止先として、通信機器のファーウェイ、中興通訊(ZTE)、監視カメラの杭州海康威視数字技術(ハイクビジョン)、浙江大華技術(ダーファ・テクノロジー)と特定用途無線の海能達通信(ハイテラ)の5社を明記している。

規制の対象となるのは「システムの主要、または必須の要素、もしくはシステムの一部としての重要技術」として5社製品を使っている場合。官報に7月公表された暫定措置によると「米政府との取引には関係なくても、企業内で使っていた」場合も取引禁止にあてはまるとしている。専門家によると納入企業の社員がファーウェイのスマートフォンを使っている場合も規制対象となる可能性があるという。

ファーウェイの店舗に掲げられたスマートフォンの広告(4日、北京)=共同

米政府と取引がある企業は39万社に上るとされる。米政府との取引企業は毎年、政府に使っていないことを報告しなければならない。自社で保有している文書、公開情報などからシステム上の主要な部分を構成する製品、サービスの提供企業を特定する作業が必要だ。調査が不適切だった場合、調達契約はキャンセルとなり、違約金が発生するとみられる。

米国の規制は発動してから細部を決めていくケースも多い。新たな調達ルールには産業界からは懸念の声が出ており、米政府はこうした声を踏まえて今後詰めていく考えだ。西理広弁護士は「規制の例外をどこまで明確化できるかが焦点だ」と指摘する。

納入企業の米国内の関連会社などをファーウェイ製品の利用禁止の対象にするかも現在検討中だ。猿見田寛米国弁護士は「法律の抜け穴を防ぐためにも今後、対象となることが十分に考えられる」と話す。

この調達ルールは米政府への納入企業に対して、その下請け企業や調達先から中国5社の通信関連機器の供給を受けていないか「合理的な調査」を通じて確認することまで求めている。そのため調達先から5社の製品利用の有無について、表明保証を得ることが実務では広がるとみられる。

米政府と直接取引している日本企業は800社程度にとどまるとされる。ただ直接取引する企業と取引関係がある企業まで含めると、日本への影響は決して小さくはない。

(4)国際緊急経済権限法 「特殊な脅威」大統領に権限
3つの規制と並行して対中制裁で補完的に幅広く用いられているのが国際緊急経済権限法(IEEPA)だ。安保や経済などに対する特殊な脅威が生じた際に、非常事態宣言を出した後、大きな権限を大統領に認めており、様々な大統領令の法的根拠になっている。

特殊な脅威に関しては「定義もなく、恣意的にも解釈されうる」(米国法に詳しい弁護士)。クーデターやテロ行為などに適用されてきたが「国単位に対してかけることが多く、特定の企業に対しての事例はあまりなかった」(同)。今回の適用は異例だ。

対中制裁を巡ってはトランプ大統領が2019年5月に情報・通信技術と関連サービスに対する脅威に関連する国家非常事態を宣言。そして民間の情報サプライチェーンから「敵対者」を排除する大統領令を出した。「敵対者」の定義は明記されず、華為技術(ファーウェイ)などを指すと考えられている。

ティックトックの利用禁止命令もこの大統領令に沿った追加措置とされる。「今後も同様の枠組みにより中国のハイテク企業に対し措置がとられる可能性がある」(猿見田弁護士)という。』