規制改革で成長軌道へ 「幻の3%」を取り戻せ

規制改革で成長軌道へ 「幻の3%」を取り戻せ
菅新政権 政策を問う(1)
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO64002610X10C20A9MM8000/

『16日に発足した菅政権は政策運営のど真ん中に規制改革を据える。「いろいろな抵抗はあるのは分かっている。思い切ってやった方がいい」。菅義偉首相がまず号令をかけたのはオンライン診療の全面解禁だ。

これまでは初診時の対面義務といった規制に縛られ普及が進んでいない。パソコンやスマートフォンで医師がいつでも対応できれば、患者の利便性は高まる。せっかく新首相がゴーサインを出しても厚生労働省の中からは「オンラインは対面より診療の質が落ちる」といった声が漏れる。

「拙速に一律に進めるのではなく、丁寧な合意形成を」。17日の記者会見で日本医師会の中川俊男会長はけん制した。安全確保には対面が必要と主張する。地方の診療所などにはオンライン診療が広がれば都市部の病院に患者をとられるとの危機感がある。

菅義偉首相は17日午後、首相官邸に河野太郎行政改革・規制改革相を閣僚のなかで最初に呼び「しっかりやるように」と指示した。河野氏は同日午後、自身のツイッターで「行政改革目安箱(縦割り110番)」を新設した。本人がすべての意見に目を通すという。

長年維持される「岩盤規制」は簡単には崩れない。国民が得られるはずの利益を規制が奪うケースはいくつもある。

ネット企業のBotExpress(東京・港)は10日、総務省を相手に東京地方裁判所に訴えを起こした。同社が4月に始めたLINEアプリで住民票を取り寄せられるサービスに「待った」をかけられたからだ。

総務省は「国が求める電子署名で本人確認をしていない」として全国の自治体に導入しないよう通知を出した。しかしLINEは広く国民に普及し、新サービスでは顔認証など最新技術も導入している。

中島一樹社長は「国の規制は民間のアイデアや技術を阻害する。規制を解いてくれればイノベーションはもっと前進するのに」と憤る。

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政府はコロナ対策で大規模な財政出動に踏み切り2020年度の歳出総額は160兆円超に達する。公的債務の国内総生産(GDP)比率は21年度には250%を超える恐れがある。財政を立て直す原資は成長戦略で作り出すしかない。

「日本は潜在成長率を今より1.5~2ポイント程度高められる」。世界がリーマン・ショックに揺れていた08年、ペンシルベニア大学のクライン教授ら日米の経済学者がこんな共同研究をまとめた。米国のように規制緩和を進めてIT(情報技術)革新を進めれば3%成長を達成できると提言した。

その後、日本の潜在成長率は1%未満に落ち込み欧米各国を下回って推移した。この結果を見れば、革新を起こす努力を怠ったといわざるをえない。世界銀行が毎年公表するビジネスのしやすさに関するランキングで日本は29位にとどまる。

九州大学大学院の篠崎彰彦教授は「取り逃がした成長力を取り戻すには、今からでも医療や教育など公的サービスをもっと民間に開放すべきだ」と強調する。

アベノミクスが掲げた「3本の矢」のうち成長戦略は尻すぼみに終わった。菅新政権が取り組むべき政策を検証する。』