新政権はデジタル庁を本当に実現できるか、e-Japanの失敗を繰り返すな

新政権はデジタル庁を本当に実現できるか、e-Japanの失敗を繰り返すな
木村 岳史 日経クロステック/日経コンピュータ
https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/column/18/00849/00032/

『突然の首相交代だった。「安倍1強体制」とも呼ばれ、7年8カ月に及んだ長期政権があっけなく幕を閉じ、新政権が発足することになった。

 気になるのは、安倍晋三政権の政策がどれだけ新政権に引き継がれるかだ。もちろん大半の政策はそのまま継承されるだろう。新型コロナウイルスの感染防止対策が当面の最重要課題であることは変わらないし、経済の立て直しに向けた取り組みもそのまま引き継がれるのは間違いない。外交政策についても踏襲されるだろう。では、ITやデジタル関連の政策はどうか。

 2020年7月17日に閣議決定された「経済財政運営と改革の基本方針2020」(骨太方針)は、まさに「デジタル一色」に染まった。例えば「感染症対応策の実施を通じて(中略)特に行政分野でのデジタル化・オンライン化の遅れが明らかになった」と述べた上で、「デジタル・ガバメントの構築を、早急に対応が求められる、言わば一丁目一番地の最優先政策課題として位置付ける」とした。このほか企業や社会全体のDX(デジタル変革)の推進やデジタル化推進に向けた規制改革などについても明記した。

 骨太方針は、首相が議長を務める経済財政諮問会議でまとめる経済財政の基本方針で、年末の予算編成や税制改正の指針となる。従って普通なら、骨太方針に多数盛り込まれたデジタル関連政策はこの先、順次具体化されていく。新政権でもそれは変わらないと考えるのが順当なところだ。

不安は「票にならないIT」
 ただITやデジタル関連政策にとって突然の首相交代は不吉だ。前例がある。2001年1月に当時の森喜朗内閣が発表した「e-Japan戦略」である。「我が国が5年以内に世界最先端のIT国家となることを目指す」とぶち上げたものの、同年4月に森首相は退陣してしまう。e-Japan戦略は小泉純一郎内閣へと引き継がれたが、ネットバブル崩壊の余波もあり、徐々に推進力を失っていく。

その結果、目標にした「世界最先端のIT国家」の実現は夢のまた夢となった。「変化の速度が極めて速い中で、現在の遅れが将来取り返しのつかない競争力格差を生み出すことにつながる」とは、e-Japan戦略の中に記されていた警鐘だが、まさに今、その「取り返しのつかない競争力格差」を目の当たりにしているわけだ。

 もちろん今は当時とは違う。ITやデジタルの重要性は格段に高まっているからだ。一律10万円を給付する特別定額給付金に絡むシステムトラブルなど、新型コロナ禍により日本のITの後進性が嫌というほど明らかとなり、政治家や官僚の問題意識も高まった。新型コロナ禍対策をはじめ地方創生、防災、教育などの政策でもデジタル活用が前提となっている。

 だが安心はできない。骨太方針では省庁や地方自治体のシステムの標準化や相互連携を推進するとあり、「デジタル庁」構想も浮上しているが、実現のためには強力な指導力が必要であるのは周知の通りだ。規制改革もしかり。例えば、新型コロナ禍により初診患者にもオンライン診療が認められることになったが、感染収束までの特例措置にすぎない。日本医師会などの慎重論を押し切って恒久化するにも強い指導力が不可欠だ。

 新政権にそうしたリーダーシップを期待できるかは不透明だ。以前、複数の政治家から「ITは票にならない」との話を聞いたことがある。衆議院選挙が近いとなれば、内閣支持率にもよるだろうが、デジタル関連政策の優先度は大きく下がる可能性もある。だが世界レベルでのデジタル革命が進行する中、日本のDXが失速する事態になれば、今度は「取り返しのつかない遅れ」程度では済まなくなる。』