北極圏で地下資源争奪、中国山東黄金の金鉱買収に反発

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『【ニューヨーク=中山修志、北京=多部田俊輔】中国国有の金鉱大手、山東黄金集団が計画しているカナダの鉱山企業の買収に反発が強まっている。買収先が北極圏に金鉱を持つことから、豊富な地下資源を奪われかねないとして買収を承認しないよう求める声が出ている。米国も資源開発に積極的な姿勢に転じ、埋蔵資源を巡る争奪戦の激化が新たな対立を生む可能性がある。

「2025年までに金生産企業で世界トップ5入りを目指す」。8月、山東省済南市で開かれた国有の中国銀行との戦略提携の調印式で、山東黄金の陳玉民董事長は事業拡大に意欲を示した。同行から300億元(約4500億円)の信用枠を得て海外買収で協力を受けることが決まった。中国共産党との関係も生かし世界進出を加速する。

■金生産量で世界トップ10

山東黄金は山東省が管轄する国有企業で、同社の源流となった金鉱は抗日戦争の時代に大量の金を延安の共産党に運び党を支えた。同省内に大規模な生産拠点を構え、17年には金生産で中国トップに躍進。アルゼンチンなどでも鉱床の開発を進めており、19年の生産量は48トンで世界トップ10に入った。同年の売上高は768億元に達する。

海外展開の次の一手として打ち出したのが、20年5月に発表したカナダの鉱山企業、TMACリソーシズの買収計画だ。だが、この計画がカナダで反発を招く。買収総額が1億4900万ドル(約157億円)と1年前の時価総額の半値であるだけでなく、TMACが北極圏ヌナブット準州に金鉱を持つためだ。豊富な埋蔵資源が見込まれるうえ、北極圏の交通の要衝に中国の国有企業が拠点を構えることに将来を懸念する見方が強まった。

北極圏にはロシアや米国、カナダなど8カ国が領土を持ち、地中には金やニッケル、ダイヤモンドなどの鉱物資源や天然ガスなどが豊富に存在する。ロシア科学アカデミーによると、埋蔵資源の価値は北極圏の6割を占めるロシア領だけで30兆ドルを超える。温暖化のため海氷面積が年々縮小し、50年までに北極海は夏に氷がない状態になるとの見方がある。採掘の機会が広がる中で中国勢の動きは脅威に映る。

「政府は国家と公共の利益のために行動する必要がある」。カナダの野党、保守党のジョン・ウィリアムソン下院議員は議会の特別委員会で、山東黄金による買収の阻止を主張した。カナダ政府は外国の国有企業による買収を制限する「カナダ投資法」に基づき買収計画を審査中で、年内には結果が出る見通し。カルガリー大学軍事戦略研究センターのロブ・ヒューバート副センター長は「主権の維持には、買収の可否を慎重に判断する必要がある」と警告する。

■関係悪化に拍車の可能性も

中国共産党系メディアなどはカナダで広がる山東黄金による買収の懸念を打ち消そうと努めている。だが、省政府などが買収計画を異例のスピードで支持したことから、カナダなどでは背後に中国政府の意向が働いているとの疑念が消えない。

華為技術(ファーウェイ)の副会長の逮捕や香港国家安全維持法を巡る香港との犯罪人引き渡し条約の破棄などで関係が悪化している両国だが、買収計画の承認の行方次第では、関係悪化に拍車がかかる可能性もある。

中国政府は12年、砕氷船を派遣して北極圏戦略を本格化。18年には北極海を通る航路を「氷上のシルクロード」と呼び、広域経済圏構想「一帯一路」と結びつける基本政策をまとめた白書を発表した。中国企業が「北極圏での鉱物資源の開発に参加することを支持する」ことも盛り込んだ。

中国企業は北極圏での権益獲得を進める。国有資源大手の中国五砿集団はカナダで、埋蔵量が約2900万トンのアイゾック・コリドーと呼ばれる鉱床で亜鉛・銅の開発権益を保有。国有石油大手の中国石油天然気集団(CNPC)はロシアのガス大手ノバテクが進める液化天然ガス(LNG)プロジェクトに参加。17年に生産を始めた「ヤマルLNG」のほか、23年の生産を目指す「アークティック(北極)2」への出資も決めた。

米国のオバマ前大統領やカナダのトルドー首相は環境や野生動物の保護の観点から北極圏の開発を制限してきたが、これを覆したのがトランプ大統領だ。17年には米加両国が打ち出した北極圏での石油・天然ガスの採掘禁止の合意を撤回する大統領令を発布。19年には開発の強化を念頭に「(デンマーク領の)グリーンランドを買いたい」と述べ、デンマークの不興を買った経緯もある。

米国務省は今年4月、エネルギー分野などでグリーンランドに1210万ドルを支援すると発表した。北極圏で勢力を拡大する中国などへの対抗心を鮮明にしている。国防や安全保障に詳しい米コンサルティング会社CRAのマイケル・クラル氏は「今後10年で北極圏の緊張がさらに高まるだろう」と話す。』