「習近平の友達」を駐中国大使から降ろすトランプ

「習近平の友達」を駐中国大使から降ろすトランプ
米中対立激化で習近平との個人的パイプも結局は機能せずじまい
https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/62117

『(作家・ジャーナリスト:青沼 陽一郎)

 米国のテリー・ブランスタッド駐中国大使が退任する。来月初旬に帰国する予定だ。

 ブランスタッドは、4年前にトランプ大統領が当選した直後に起用が決まり、翌年6月に着任している。以来、3年以上にわたり、トランプ政権下で大使を務めていた。その退任を今月14日、駐中国米国大使館が突如発表した。

 そもそも、彼が駐中国大使に選ばれた理由は、「習近平のお友達」だから。

31歳の習近平がホームステイしたアイオワ州の知事
 中国の習近平国家主席が、かつて米国にホームステイしていたことは、以前にも書いた。

(参考記事:35年前、米国ホームステイで習近平が見たあの大河)
https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/61340

 1985年、当時31歳で河北省正定県の書記だった習近平が、同省のトウモロコシ視察団の随行幹部として、米国で最大の穀倉地帯であるアイオワ州を訪問。州境を流れるミシシッピ川の畔のマスカティンという小さな町の子ども部屋に寝泊まりしている。

「マーク・トウェインの小説を読んで、それに憧れて、ミシシッピ川を一度は見てみたかった」

 未来の国家主席はそう語っていたと、ホストファミリーから聞いた。ミシシッピ川が舞台のマーク・トウェインの小説と言えば、『トム・ソーヤーの冒険』『ハックルベリィ・フィンの冒険』くらいだ。

 その時のアイオワ州知事だったのが、退任の決まったブランスタッドだった。

 さらに、2012年2月、すでに翌年の国家主席就任が規定路線であった習近平は、米国を再訪。首都ワシントンDCで当時のオバマ大統領、バイデン副大統領らと会談。いわば「挨拶」「顔見せ」を済ませると、そこから次に向かったのが、アイオワ州だった。

 そこで、わざわざかつてのホームステイ先の家を訪れ、ホストファミリーと再会を果たしている。この時のアイオワ州知事もブランスタッドだったのだ。

彼は、習近平がホームステイした頃から知事を務め、その後、オバマ政権で農務長官を務めるトム・ヴィルザックが知事に就いたあと、再び知事になっている人物で、中国大使の起用が決まった時も、アイオワ州知事として6期目を迎えていた。米国で就任期間が最も長い州知事だった。

 しかも、習近平がホームステイ先を再び訪れたあと、州都デモインにある世界食糧財団の本部で開催された「農業シンポジウム」にヴィルザック農務長官と出席。そこで、今後5年間にわたる米中両国の「農業関係を導くための戦略的協力の計画」に署名を交わす。

アイオワへ凱旋した習近平、大量の大豆買い付けを即断
 その夜のことだった。ブランスタッド知事が主催した晩餐会で、習近平は随行してきた中国の取引業者と43.1億ドルの大豆の買い付け契約を結ばせて周囲を驚かせている。その額は、生産自給率がわずか7%の日本の大豆輸入額の2年分を超える。

 その晩餐会で、ブランスタッドはこう演説している。

「私たちは中国との互恵的な貿易提携を誇りに思っておりますし、アイオワ州の農家は中国の人々が消費するための、安全で信頼性の高い農産物を収穫することを誇りに思っています。私たちは、これらの協力関係をバイオテクノロジー、高度な製造業、食品加工、および金融サービスなど、アイオワ州が世界をリードしている関連分野で築くことを願っています」

 実際に、中国への農産品輸出の増加は、この前年に16万人以上の雇用を創出し、2000年には250万ドル未満でしかなかったアイオワ産品の中国の購入額は、2010年には約6億ドルへと急増。その上での大豆の大量購入だった。

 いまでは、米国全体で生産される大豆の55%が輸出されるが、そのうちの60%は中国向けで占められる。

 そのウィン・ウィンの関係を駐中国大使として期待していたのだろう。ところが、ブランスタッドが就任から1年もすると、期待どころか米中関係は貿易戦争に突入している。

米中貿易戦争のさなか、アイオワの地元紙に中国が「記事風」広告
 中国による知的財産権の侵害などを理由に、対中制裁関税を段階的に実施したのは2018年7月からだった。それから2カ月。

「中国が我々の政権に対抗し、11月の米中間選挙に干渉しようとしている」

 9月26日の国連安全保障理事会でトランプ大統領は、そう発言して中国を厳しく批判している。

「中国は(米大統領選で)トランプに投票した農家や労働者を攻撃し、米国の政治システムに介入している」

 その直後にトランプはツイッターに、アイオワ州の地元有力紙『デモインレジスター』の写真を載せ、以下のような投稿をしている。

「中国は『デモインレジスター』および他の新聞に、それが紙面のニュースであるように見せかけてプロパガンダ広告を掲載している。私たちは、貿易、市場開放で中国を叩いているからだ。それでも米国の農民は、この貿易戦争が終わったときに幸運を得るはずだ!」

 その問題とする“新聞記事”の見出しには、こうある。

「貿易戦争は貿易による利益を失う」

 そして小見出しでは、

「米国産大豆の最大の輸入先として、中国は失うことができない強固な市場だ」

 として、地元関係者のコメントを引用。

「米中貿易戦争の影響で、大豆など米国農産品の大口輸入者である中国は、輸入先を中南米(ブラジル、アルゼンチンなど)に変えることを検討している」

「米中貿易は、米国に260万人の雇用を産み、1世帯に年間840万ドルの恩恵をもたらしている」

 ちゃっかり習近平がアイオワ州にホームステイしていたエピソードも盛り込まれているこの紙面。表題には「チャイナ・ウォッチ」とあって、中国名の記者が英文でレポートしている。まるで地元紙の記事のように見えるが、よく見ると小さく「この紙面はスポンサーのチャイナデイリーによるもの」というただし書きがついている。チャイナデイリーという中国系英字新聞が米国政府の許可を得て提供したものだ。トランプのいうように、中国の意見広告に他ならない。

 それもアイオワ州を狙って攻撃したことが、トランプの怒りをかったのだろう。州知事が中国大使に赴任するほどの関係性を中国も熟知して、逆手にとっている。しかも、同州は大統領選挙におけるスイング・ステートのひとつだ。

ブランスタッド大使の寄稿を掲載拒否した人民日報
 結果的に、「習近平のお友達」は機能しなかった。

 一部報道によると、今月9日にブランスタッドは中国共産党機関紙『人民日報』に「中国は長年にわたり米国の開放性に付け込んできた」などとする論評を寄せたところ、その指摘は「事実誤認だ」と非難され掲載を拒否されたという。前述の一件でも開放性に付け込んでいるというのに。

 ブランスタッドは北京を離れたあとは地元のアイオワ州に戻る予定とされる。トランプが彼を呼び戻し、アイオワ州の選挙運動を支援させたい意向だとCNNが伝えている。中西部での知名度が高く、アイオワ、ウィスコンシン、ミズーリ、ミネソタの各州で有権者にアピールできるとみる。ウィスコンシン州もスイング・ステートのひとつで、黒人が警官に背後から撃たれる事件が先月あったばかりだ。』