はっきりしないFRBの約束(NY特急便)

はっきりしないFRBの約束(NY特急便)
米州総局 後藤達也
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO63947720X10C20A9ENI000/

『16日のダウ工業株30種平均は午後に値動きが大きくなった。午後2時過ぎには前日比の上昇幅が360ドルを超えたが、終値は結局36ドル高の2万8032ドル。株価を揺らしたのは米連邦公開市場委員会(FOMC)とパウエル米連邦準備理事会(FRB)議長の記者会見だ。

16日の米株式市場は朝からFOMC待ちの空気が広がっていた。8月に2%の物価目標の柔軟化を決めてから初のFOMC。新たな政策指針の具体論をどこまで詰めるかが注目された。

「物価上昇率が2%の目標を下回り続けているため、当面は2%を適度に上回る物価上昇を目指す」。午後2時公表の声明には8月に決めた「平均物価目標」の考えを盛り込んだ。物価上昇率が2%に達してもすぐには利上げしないことを改めて約束した形だ。FOMC参加者の多くは2023年までゼロ金利を続ける前提であることも明示し、株価は上昇した。

だが、記者会見が始まると、ゼロ金利を続ける条件を巡り、市場の風向きは変わっていった。

パウエル議長が「明確な約束」と強調した条件は次の通りだ。1つは労働市場が最大雇用と判断できる状態であること。もう1つは物価上昇率が2%に達し、さらにある程度の期間、2%を適度に(moderately)上回る経路に達することだ。それまで現状のゼロ金利政策を続けると約束した。

ただこの約束には曖昧さも残る。記者会見でもこの点に質疑が集中した。

「最大雇用」の意味を問われると、パウエル議長は「物価上昇率のように数字で表せない。失業率や労働力、賃金といった幅広い労働条件を評価する」と答えた。定性的な総合判断で、この条件を満たしているかどうか、市場は外から把握しづらい。

物価が「適度に」2%を上回るとの表現にも質問が及んだ。パウエル氏は「2%よりも非常に高くはないという意味だ」と答え、物価でも数値面の条件はにごした。どの程度の期間で判断するかも「1カ月の2%を求めていない。(長期で平均2%という)目標達成を約束している」と述べるにとどめた。

市場では「パウエル氏は『明確な約束』というが、8月の決定から踏み込んだ内容はほとんどなかった」(債券トレーダー)との評価が多い。記者会見が進むにつれ、株価は伸び悩み、終値は声明発表の直前も下回った。

約束をどこまで明確にするかはジレンマでもある。明確にするほど約束の効果が強まる一方、将来はその約束に手足を縛られてしまう。総合判断で利上げすべきときでも、失業率や物価上昇率に明確な条件を設けていると自由に動きづらくなる。

ただでさえ、新型コロナウイルスの流行で経済の先行きは読みづらい。財政動向や金融市場など不確実な要因も多く、FRBとしては裁量の余地を確保しておきたい面がある。

FRBは当面は政策金利も資産購入も現状維持の方針で、市場もそれを織り込んでいる。だが、景気や物価の動向次第で、次の一手はいずれ迫られることになる。FRBは市場とどのように対話していくのか。約束に曖昧さが残る分、今後の情報発信は難度を増す可能性がある。(ニューヨーク=後藤達也)』