ドコモ口座事件、真の原因は「認識の甘さ」ではない

本田雅一の時事想々:
ドコモ口座事件、真の原因は「認識の甘さ」ではない 露呈した「銀行との風通しの悪さ」
2020年09月14日 18時00分 公開
https://www.itmedia.co.jp/business/articles/2009/14/news127.html

『いくらなんでもそれはないだろう。

 情報化社会の昨今、そのように感じる問題が起きることなど、1年を通してもそうそうあるものではない。

 ところが、あろうことか日本はもちろん、グローバルにみても最大手クラスの通信企業であるNTTドコモが、「お前、それはないだろう」と思わずツッコミを入れたくなる対応を取るとは、情けないを通り越して笑い話のようにさえ思えてくる。

 被害総額約2542万円(9月14日午前0時時点)と、果たしてどこまで被害が拡大するのか見えていない「ドコモ口座」の不正出金の問題についてだ。

photo
ドコモ口座を使用した不正出金が相次ぎ、被害総額は約2542万円に拡大(9月14日午前0時時点)
 口座と名付けられているがサービスの本質は、いわゆるスマートフォン決済サービス。送金やショッピング支払いなどに使えるものだ。金利などは一切付与されないものの、自身の銀行口座からチャージできる。

 サービスそのものは、よくある決済サービスの亜種。いくつかの特徴はあっても特別なものじゃない。何より“ドコモさま”の提供なんだから信頼できると思っていたら、実にグダグダだ。

 何しろ被害者がドコモ口座対応の銀行口座を持っているだけで、ドコモユーザーではなくとも、加害者が捨てメールアカウントを使って自由に、いくつでも口座を作り、不正出金を行える可能性があったというのだからタチが悪い。

 ここまでグダグダだと、いったいなぜこんなことになったのか、グダグダになった理由が見つかるかどうかさえ怪しいほどだ。

せっかく責任ある行動と判断ができるというのに
 既報の通り、山ほどツッコミを入れたくなることがたくさんある一方で、ドコモはしっかりと責任ある行動も示している。サービスのセキュリティ設計がずさんなことは批判対象だが、まずは褒めるべきところは褒めておきたい。

 ドコモの丸山誠治副社長は9月11日の記者会見で、認識の甘さについて反省を口にしつつも「1日の取引が約1万3000件もある」ことを理由に、ドコモ口座のサービスを停止しないと話した。

photo
ドコモが9月11日に開いた記者会見の様子=編集部撮影
 自分たちのケツは自分で拭く。不正出金は、銀行と連携しながら全額補償する。それよりも一度、始めたサービス事業だ。信頼できるものに改良をしていく上で、しっかりサービスを止めずに解決策を見いだしていきたいということなのだろう。

 世間での“ウケ”を狙うなら、不正出金の補償はもちろん、すぐにサービスを止めて問題解決を図る方が印象がいい。

 まだ明らかになっていない潜在的な被害、あるいは被害に遭う可能性がある、まだ出金されていない口座もあるかもしれない。犯罪者にこれ以上の送金を重ねさせるな、という意見もあるだろう。

 しかし、最もグダグダだった新規口座登録を止め、ドコモの携帯電話契約情報との照合、「eKYC」やSMSを用いた本人確認などを行うというから、一般的なネットでの取引に求められる信頼性は確保できるはず、というわけだ。

photo
「eKYC」導入などの対策を強化=ドコモの資料より
 不正出金が確認された銀行は11行(14日午前0時時点)。取引を継続して行える15行に関しては、ドコモと銀行の双方でネットでの口座の扱いが十分だと判断したのだろう。ここまで問題が拡大した上で、なおも大丈夫というのだからドコモ口座を止める必要はない。それさえも問題ならば、ドコモ口座がなくとも危険ということなのだから、止める意味はない。

 とかく世間体を意識して「まずは止めて謝るところから」という、全く論理的ではないダメージコントロールを選ばなかったところは、きちんと自分たちの頭で考えて対策をしていることが伝わってきて、むしろ好感を持ったほどだ。

 サービスだけではなく、問題発覚後の対応もグダグダだった「7pay」の事件のときとは大違いで、ここは褒めるべきだろう。いや、もちろん、システムそのものは褒められたものじゃないのだが。

それ、誰が判断したの?
 さて、ドコモ自身は「認識の甘さ」と言っているが、筆者としてはこの問題の根っこにあるのは認識の甘さではなく、責任の所在が曖昧なことではないかと感じている。「ドコモが悪い」「いや簡単にハックされる銀行の仕組みが悪い」「その両方だ」といろいろな意見があるが、そもそも「あっちにも、こっちにも問題があった」にもかかわらず、相互に問題意識を共有できていないことに、筆者は絶望感を覚える。

ごく基本的な部分だが、日本の銀行キャッシュカードは、たった4桁の暗証番号で現金を引き出せる。この全銀フォーマットの仕様も、とっくの昔に見直されていて然るべきだ。各メディアがいくつもの指摘をしているので、ここであらためて紹介するまでもないが、現代のネットワークサービス、それも顧客の財産を扱う仕組みとしては脆弱(ぜいじゃく)すぎる。

 それでも辛うじて社会問題にならなかったのは、対人にしろ、対機械にしろ、キャッシュカードを用いた現金引き出しに物理的な手続きが必要だったからだ。こんなことは誰もが分かっているはずなのに、従来の仕組みを使い回してしまった。

 今回の不正引き出しの全貌が明らかになっているわけではないが、不正送金が明らかになっているケースでは、こうした銀行からの現金引き出しにかかわる基本的な部分での脆さが問題だったとみられる。

photo
ドコモ口座のWebサイトより
 NHK NEWS WEBでは、ドコモ口座問題について「暗証番号を定期的に変えましょう」と注意喚起する記事を掲載していたが、全くもって無意味(14日時点では記事内容が修正されている)。暗証番号がバレたのなら変更は必要だが、ネットを通じての不正送金があったのなら、システム側の問題であり頻繁に変えたからと行って問題解決にはならない。

 暗証番号を変えて「もう大丈夫」と思って安心してる人たちに、正しい情報を伝えた上で謝ってほしいぐらいだ。

 ところで、銀行口座にネットからアクセス可能になるのだから慎重になるべき、なんてことは今さら指摘するまでもないことなのに、なぜ「そのまんまなの?」という、大きなクエスチョンマークがここで出てくる。

 物理的なキャッシュカードと比べ、はるかに便利になっているのに、個人認証の仕組みはスマホ時代非対応どころか、インターネットが発明される以前からのそのままなのだから「これで大丈夫って誰が判断したの?」という話になってくる。

当たり前のことを当たり前にできない理由
photo
9月14日夕方時点で、チャージ(入金)を停止している銀行の一覧=ドコモのWebサイトより
 さて、ドコモが問題発覚を受けて精査した結果、その対策としてドコモ口座が対応していた35行のうち13行は不正出金が容易には起きないと判断し、送金サービスを継続するというのだから、前述したように差し引き22行以外は大丈夫だとドコモと各銀行は判断したのだろう。

 ずさんな本人確認に脆弱な出金の仕組み。「両者ともに悪いね」というだけでは済まないのは、ドコモが昨年5月、既にりそな銀行、埼玉りそな銀行で同様の問題が起きていたことを、他の銀行に周知徹底していなかったことが、最終的に今回の問題へとつながっているからだ。

 当時の犯行グループと今回の犯行グループが同一なのかどうかは分からない(期間が空いていることを考えれば別と考える方が良さそうだが)。

 しかしこの時、ドコモは問題の発生を把握し、その原因についてもある程度は知っていたはず。少なくとも、電子メールの到達をもって本人確認されるという、いまでは信じられないような仕組みが問題だったことを、提携銀行各社とはいわないまでも、セキュリティ対策の甘い提携銀行に連絡していれば、今回の問題は起きなかったのではないだろうか。

 もちろん、金融機関のIT化はどこの業界よりも真っ先に行われてきたわけで、規模の大小による意識の違いこそあれ、「お前、それはないだろう」的な状態をさらしてきた銀行側にも問題はある。

 しかし主体的に利便性を提供し、なるべく簡易的な手続きで使って欲しいドコモ側に利用者を速やかに増やし、決済サービス分野での生き残り、ライバルとの競争に勝ちたいという意識がなかったとは思わない。

 そんな邪推も「邪推じゃないかもね?」と筆者が思ってしまうのは、ドコモと金融機関の風通しの悪さが理由だ。

 今回、不正送金があった11行は、ドコモ口座との連携にCNS(地銀ネットワークサービス)を利用。そこに脆弱性があったのでは? という推測があるが、11日の記者会見でドコモの丸山副社長は「金融機関側の仕組みなので把握していない」と答えた。

 実はここに問題の根っこがある。

誰もが見えるはずの景色が見えていない
 ドコモ口座と連携し、銀行口座から入金するための仕組み、手続きの手順は銀行側に依存している。

 「ドコモ口座というプリペイドサービスにお金を入れたいのだけど?」という時、どのような手法でお金を送金可能とするかの判断は銀行側にある。ドコモは、所定の手続きに従って情報を送り、その結果、入金されたから取引を承認しただけなのだから、本来は責任がない。

 と、そんなふうに考えているかどうかは分からないが、この金融機関との距離感が、誰もが見えるはずの景色を見えなくしていた、あるいは「見ようとしなかった」(面倒くさいし、速やかに利便性の高い、簡便なサービスにしたいから)のではないか。

 繰り返すが、ドコモ口座の本人確認のずさんさは責められて当然。本当にもう勘弁してくださいよ、と言いたくなるような”ポカ”であり、罪深い。

 だが最も残念なのは、これほど明確な“穴”を見過ごし、しかも一度は発覚していたのに風通し悪く、見通せる景色を共有できなかったことだ。まさに木を見て森を見ず。大企業にありがちな、見えにくいものは見ない方が面倒が少ない──そんな前時代的な問題が透けて見えるならば、大きな問題はまだまだ隠れていることになる。

 ドコモが巨大企業であることは言うまでもないが、メガバンクとは比較にならないとはいえ、地方銀行も大きな組織に違いない。まさか2020年にもなって「今さら大企業病かよ!」とあきれることになるとは。ドコモでさえ、この調子ならば日本全国、至るところに構造不良が隠れていても不思議じゃない。』

HEVに現実を見た中国、判断ミスで自縄自縛の欧州

HEVに現実を見た中国、判断ミスで自縄自縛の欧州
第2回 この2年の変化
藤村俊夫 愛知工業大学工学部客員教授(工学博士)、元トヨタ自動車
https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/column/18/01416/00002/

『世界の自動車産業はここ2年で劇的に変化した。その動きを規制動向と規制への対応状況、電動化の拡大、エネルギー動向の観点で分析すると、次のようにまとめることができる。

[1]電動車の「現実解」はハイブリッド車(HEV)である。電池性能を含めて依然として多くの課題がある電気自動車(EV)の拡大は難しい。

[2]エンジン車とHEV、プラグインHEVに搭載するエンジンは脱化石燃料に転換し、エンジン車を存続させる。これにより、新興国を含めた多くの人が購入できる価格の実現と二酸化炭素(CO2)の削減の両立を図ることができる。

 世間にはさまざまな報道があるが、冷静に見ると世界の自動車産業はこれまで筆者が唱えてきたシナリオ(第1回の図1)の信頼性を裏付ける方向に進んでいる。以下、詳細について解説しよう。

第1回 基本方針:鍵はHEVと低炭素燃料、売れないEVでCO2は減らせない
全く強化になっていない各国・地域のCO2基準値
 CO2削減率(年)に関して、先進各国・地域の2021年~30年の基準値が出そろってきた。ところが、それらはわずか5%前後。2015年~21年の5%前後とほぼ同等であり、全く強化されていない。パリ協定(国連気候変動枠組条約第21回締約国会議;COP21)の目標達成(2℃以下)を意識した新車削減率(年)である12~13%にも遠く及ばない。

 一方で、先進各国の政府は2030~40年に電動車構成比を100%(エンジン車はゼロ%。英国はHEVも除外)にすると、あたかもパリ協定を意識したかのような野心的なシナリオを表明している。だが、基準値とのギャップがあまりにも大き過ぎて、実効性に欠ける。まさに「絵に描いた餅」と言わざるをえない。日本を例にとると、国土交通省と経済産業省が、基準値とシナリオに関して全く調整していないという、まさに縦割り行政の弊害が出ている。

 CO2基準値は自動車メーカーが可能な範囲を想定して決められている。その基準値が今後見直されるとは思えない。従って、各国・地域の自動車メーカーには、生き残りを懸けて先のシナリオ(年率12~13%削減)に近い開発の推進を期待したい。

 併せて、日本をはじめ各国の政府には、せめてCO2削減を後押しする補助金と優遇税制へと見直しを進めてほしい。ZEV(無公害車)に対応するEVや燃料電池車(FCV)などで一律に手厚くするのではなく、Well to Wheel (WtW)*1でのCO2やLCA*2でのCO2と、段階的にレベルに応じて補助金や優遇税制を決めれば、地域のエネルギー事情に応じて実効性のあるCO2削減が可能になるはずだ。

*1  WtW  油田からタイヤを駆動するまでのCO2排出量。

*2  LCA 自動車のライフサイクル全体でみたCO2排出量。

進まない欧米メーカーの電動車展開
図1 世界の主要な自動車メーカーのエンジン車と電動車の構成比
2018年の主要5社の電動車構成比率を示す。非常に低調である。(作成:筆者)
[画像のクリックで拡大表示]
 図1は、2018年における世界の主要な自動車メーカーのエンジン車と電動車の構成比を示したものである。彼らは2025~30年の間にほぼ25~50%を電動車とし、残りをエンジン車とすると表明している。だが、ドイツVolkswagen(フォルクスワーゲン;VW)と米General Motors(ゼネラル・モーターズ;GM)のEVおよびPHEVの比率は、2018年で共にわずか0.4%。2019年においても1%以下と非常に低調だ。

 中でもVWは、同グループ最高経営責任者(CEO)のヘルベルト・ディース氏(VW乗用車ブランドのCEOは2020年7月に退任)の下で、2025年に25%をEVとする目標を掲げて世間の注目を集めた。だが、技術的な課題が山積している上、製造ライン構成の見直しや人員削減など生産面での対応にまで苦慮している。25%という目標の実現は非常に厳しいと予想される。

 一方、HEVを得意とする日本メーカーは、HEVとPHEVの比率がトヨタ自動車が15.4%、ホンダが7%と欧米メーカーと比べて相当高い。しかも、トヨタ自動車は2019年にはこれをさらに3ポイント上積みした。今後は日産自動車も含めて日本メーカーの電動車比率はさらに高まるはずだ。

HEVが電動車の「現実解」と気付いた中国政府
 2019年、それまで拡大していた世界のEV販売にブレーキがかかった。主因はEV販売の50%を占める中国の減速だ。中国では同年9月に補助金が大幅に減額された。2016年に最大330万円もあった補助金が50万円に下がったのだ*3。これにより、それまでの急速な拡大基調から一転、前年比-2%となる78万台へと減少したのである。

*3 ただし、補助金の終了期限は2020年から2022年に延長された。

 これはEVの販売がいかに補助金に支えられてきたかを如実に表している。

 それまで自国産業を育成するためにEV一辺倒だった中国は、NEV(New Energy Vehicle;新エネルギー車)規制に含まれるCAFC(Corporate Average Fuel Consumption;企業平均燃費)への対応を考えると、やはりHEVは外せないと気付いた。そこで、2021年1月からNEV規制で優遇する低燃費車にHEVを加える方針に転換したのである。具体的には、HEVを量販するメーカーにNEVに対するクレジットを与える。

関連記事:中国「HEV外し」を急転換、VWに試練 トヨタに追い風か
 この方針転換は、HEVを得意とする日本メーカーにとって追い風だ。反対に、EVの拡販を狙っていたVWなどにとっては、EVへの補助金の減額も含めて大きな逆風となる。既に、2019年のトヨタ自動車とホンダの中国におけるHEV比率はそれぞれ16%と9%を占めている。今後はさらに拡大すると予想される。

 中国がHEVを優遇する動きは、2019年4月にトヨタ自動車が発表したHEV関連特許の無償開放と、中国メーカーへのHEVシステムの販売決定が大きく影響していることは言うまでもない。

関連記事:「次世代ハイブリッド完成の自信」か、トヨタの特許無償提供
2021年欧州CO2基準で苦しむドイツメーカー
 現実を見て軌道修正した中国に対し、それができずに苦境に陥っているのが欧州メーカーだ。原因は、2020年1月から始まったCO2基準の強化である*4。課せられたCO2基準は95g/kmと、2015年の130/kmから3割も厳しくなった。

*4 新型車は2020年1月から、継続生産車を含めたものは2021年1月から。

 欧州では「ディーゼルゲート」、すなわちVWによるディーゼル車の排出ガス不正問題で、頼みの綱であったディーゼル車の販売が落ち込んだ。この売り上げの落ち込みと傷ついたイメージの向上のために、欧州メーカーはEV路線への転換を打ち出した。ところが、肝心の顧客が付いてこず、EVの販売は欧州メーカーの期待を大きく裏切っている。

 それでもなんとかCO2を削減しようと、2017年から「マイルドHEV」の販売拡大を図ったのだが、CO2の削減効果が小さくて基準を満たす「特効薬」にはなり得ない*5。苦しんだあげく出てきたのが、パラレル方式(CO2削減効果が小さい)のHEVをベースとしたPHEVだ。欧州委員会の救済措置とも言われるこのPHEVを、欧州メーカーは2018年から押し出している。

*5 欧州メーカーは「マイルドHEV」と呼ぶが、本来は48V電源を使うエンジンのモーターアシストシステムと定義すべきものだ。この呼称は、日本メーカー(トヨタ自動車とホンダ)が得意なCO2削減効果の高いストロングHEVを造れない欧州メーカーの苦肉の策と言える。

PHEVを「クリーン車」に位置付ける欧州のカラクリ
図2 VWのPHEV「Touareg R」
(出所:VW)
[画像のクリックで拡大表示]
 欧州メーカーがCO2削減効果の高いHEV(ストロングHEV)を造れない理由は、日本メーカーがHEVに関する重要な特許の大半を押さえているからである。そこで欧州委員会が救済策として打ち出したのが、PHEVへの優遇だ。現に、ドイツの乗用車メーカーはHEVよりもむしろPHEVをラインアップに加えている図2。ところが、これはまさに名ばかりの「クリーン車」と言わざるを得ない。モーター走行(EV走行)が終了すると大量のCO2を排出するからである。

 図3は、1トリップの距離に応じたPHEVのCO2排出量を示したものである。PHEVでは「Electric Range(EV走行)」を基に「削減係数(Reduction factor;K)」が決まり、実際のCO2排出量を削減係数(K)で除したものを認証値にすることとなった。

図3 PHEVの実走行と認証値とのかい離
PHEVはモーター走行を終えると大量のCO2を排出するが、長い距離を走るほど認証値から計算したものよりも、実際のCO2排出量は大きくなる。これには削減係数(K)というカラクリが効いている。(出所:筆者)
[画像のクリックで拡大表示]
 ところが、1トリップの距離が延びるほどPHEVで認可された値から算出したCO 2排出量と、実走行を考慮したCO2排出量とのギャップが広がってしまう。例えば、100~300kmでは認証値に対して1.5~2.5倍のCO2が実際には排出されることになる。アウトバーンなどでは200~300kmの走行は日常茶飯事であるにもかかわらず、だ。

 これに対し、日本メーカーのPHEVは電池が切れてもCO2排出量の少ないHEV走行を行うため、CO2の総排出量はもともと少ない。シリーズやシリーズ/パラレルという日本メーカーが得意なHEVを持たない欧州メーカーは十分なCO2削減効果を得られないため、PHEV化と削減係数で規制を乗り切ろうという戦略なのである。

 これでは欧州委員会は、「大気中のCO2の実質的な改善よりも、自動車メーカーの救済を優先している」と非難されても仕方がないだろう。欧州メーカーも、世界でESG(環境・社会・企業統治)投資が叫ばれる中、何を重視して開発をしているのかと疑いたくなる。さらに言えば、欧州委員会はディーゼルゲートの際も、米運輸省高速道路交通安全局(NHTSA)から指摘を受けるまで、既に認知していた自動車メーカーの不正を公にしなかった。その上でこの2020年CO2規制においても、環境よりも欧州メーカーの利益を優先しているのである。

ドイツメーカーに数千億円規模の罰金の可能性
 ところが、ここまでしても欧州メーカーの平均CO2排出量は、それまでの減少基調から2016年以降に悪化に転じている。ディーゼル車の販売減や大型SUV(スポーツ多目的車)の販売拡大、WLTP(国際調和排出ガス・燃費試験法)の導入などの影響を受けているからだ。

 図4に、各社のCO2基準への対応状況を示す。このままいくと大半の自動車メーカーは達成できず、販売台数の多い「ジャーマン3〔VW、BMW、Daimler(ダイムラー)〕」などは、数千億円規模の罰金が課せられる可能性がある。唯一、基準達成が見込めるのは、欧州におけるHEV比率が50%に達するトヨタ自動車だけだ。

図4 2021年欧州CO2基準に対する世界の自動車メーカーの対応状況
トヨタ自動車以外の大半の自動車メーカーが基準を満たせないと見られる。(出所:筆者)
[画像のクリックで拡大表示]
 ここで欧州におけるEVとPHEVの販売に目を向けてみよう。世界全体で見るとEVとPHEVの販売は2019年からブレーキがかかっているが、欧州における販売は前年比で40%程度増え、42万台から58万台(欧州シェアは3.6%)に増加した。2020年に入り、コロナ禍で自動車全体の販売が落ち込む状況下においても、EVとPHEVの販売は伸びている。

 だが、ここにもカラクリがある。欧州メーカーが赤字覚悟の大幅値引きをしているからだ。背景には、「2020年CO2規制の未達で罰金を払い、企業イメージを悪化させるくらいなら、利益度外視でEVとPHEVを売った方がまだましだ」という欧州メーカーの思惑がある。

 だが、果たしてその思惑通りにいくのか。上述のようにEVとPHEVのシェアがたかだか4%弱程度では“焼け石に水”にしかならない上、いつまでも赤字覚悟の販売を続けるわけにはいかない。そこで次の救済策として出てきたのが、EVとPHEVへの補助金の増額というわけだ。ドイツでは新型コロナによる経済ダメージからの再始動という名目で、EV補助金が現状の約37万円から約74万円に倍増される。ドイツ以外の国の政府も、補助金拡大を既に表明している。

 このように、欧州メーカーは現在2020年CO2規制への対応にもがき苦しんでいる。2014年のディーゼルゲートの後、拙速にEV戦略に転換したドイツ勢(言うまでもなく主犯はVWである)の判断ミスの影響が、今噴出しているのである。』

Emotetの猛威再び…。

Emotetの猛威再び、攻撃メールを見破るポイントは差出人や署名にあり
https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/column/18/00001/04576/

※ ともかく、「無闇に、安易にクリックするな!」これに尽きる…。

※ 「添付ファイルは、まず開くな!」

※ 「一拍、呼吸を置いて、よく考えよう。」

『2019年秋に大きな被害をもたらしたマルウエア「Emotet(エモテット)」が再び猛威を振るい始めた。セキュリティー組織やセキュリティーベンダーは相次いで注意を呼びかけている。Emotetは「進化」を続け、今では差出人の詐称や添付ファイルの暗号化などの危険な仕掛けを幾つも備えている。

関連記事:Emotetが「感染爆発」の兆し、トレンドマイクロかたる悪質な引っかけの手口
 最新のEmotetによるサイバー攻撃の特徴は何か、どうすれば被害を防げるのか――。トレンドマイクロは2020年9月9日、サイバー攻撃の脅威動向「2020年上半期セキュリティラウンドアップ」について説明会を開いた。そこからEmotetの最新動向が分かった。

バックドアへの「アクセス権」が売られる
 「企業ネットワークへのアクセス権を販売する動きが見られる」。同社の岡本勝之セキュリティエバンジェリストは2020年上半期のサイバー犯罪の動向をこう説明する。攻撃者は何らかの方法で企業ネットワークに侵入してバックドアを構築し、そのバックドアを使う「権利」を販売したりレンタルしたりしているという。

 「既に英国企業のネットワークにアクセスする権利が販売された事例がある」(岡本セキュリティエバンジェリスト)。同社はバックドアの販売/レンタルを「アクセス・アズ・ア・サービス(AaaS)」と名付けた。

ネットワークへのアクセス権を販売する書き込み例
(出所:トレンドマイクロ)
[画像のクリックで拡大表示]
 岡本セキュリティエバンジェリストは「AaaSとEmotetは関係がある」と話す。攻撃者は、不特定多数に向けて同じ文面のなりすましメールを送り、マルウエアに感染させたりフィッシングサイトに誘導したりする「ばらまき型メール」でEmotetを拡散させている。メール受信者が誤って添付ファイルを実行するなどでEmotetに感染するとパソコンに保存されたメール内容やメールアドレスを盗まれ、その情報はネット上の指令サーバー(C&Cサーバー)に送られる。

 最近のEmotetを使った攻撃では、情報を盗むだけでなく他のマルウエアやトロイの木馬ウイルスに感染させて企業のネットワークにバックドアを構築するケースがある。「他の犯罪者が侵入するという危険性がある」と岡本セキュリティエバンジェリストは警鐘を鳴らす。Emotetの感染を検知できなければ、Emotetを仕掛けた攻撃者だけでなくAaaSでアクセス権を購入した別の攻撃者にも不正アクセスを許してしまうというわけだ。

 トレンドマイクロの調査によれば、Emotetを使った攻撃はたびたび活動を休止する傾向がある。2019年10月から攻撃が活発になったEmotetは2020年になっても猛威を振るった。2020年も新型コロナウイルスの感染拡大に便乗した攻撃が増えると思われたが、実際は2月上旬から7月中旬にかけてC&Cサーバーが休止したという。

日本におけるEmotetの検出数の推移
(出所:トレンドマイクロ)
[画像のクリックで拡大表示]
 しかし2020年8月に活動を再開。「日本国内では8月からEmotetの検出数が急増している」(岡本セキュリティエバンジェリスト)と注意を促す。

差出人に「さん」がつく
 攻撃者はEmotetに感染したメール受信者から不正にアドレス帳やメールアドレス、メールの内容などを盗み取る。盗んだ情報を基に別の感染者から攻撃メールを送信する際、メールの文面などをそのままコピーするため、サイバー攻撃を受けていると見抜くのがかなり難しい。「トレンドマイクロのアンケートをそのまま利用したメールもあった」(同)という。人の隙につけいる悪知恵にたけている。

 ただし盗んだアドレス帳の表記をそのまま使うため、差出人や署名がおかしな攻撃メールが散見されるという。例えば同社が観測した攻撃メールでは差出人や署名が「営業部 大久保さん」となっていた。明らかにおかしい。

 これはEmotetに感染した人がアドレス帳に「営業部 大久保さん」と登録し、それを盗んだ攻撃者がそのまま流用したためと思われる。機械的に攻撃メールを作成するため、そこまで気が回らなかったのであろう。岡本セキュリティエバンジェリストは「差出人や署名に違和感を覚えるメールを受け取ったらEmotet攻撃と疑ったほうがよい」とする。

差出人や署名がおかしなメールの例
(出所:トレンドマイクロ)
[画像のクリックで拡大表示]
 防ぐ手立てについて岡本セキュリティエバンジェリストは「マクロを有効にしないこと」と強調する。Emotetは攻撃メールに添付されたMicrosoft Officeファイルを開き、マクロを実行してしまうと感染するからだ。マクロを実行しなければ感染はしない。情報システム部門やセキュリティー部門は従業員に安易に添付ファイルを開かないことやマクロを有効にしないことを改めて周知徹底したい。』

コロナ禍で必須のマーケツール、増加したジャンルは?

https://www.itmedia.co.jp/business/articles/2009/15/news059.html

『デジタルマーケティングの支援を行うアンダーワークス(東京都港区)は9月15日、国内の主要マーケティングテクノロジーを分類してまとめた「マーケティングテクノロジーカオスマップ JAPAN 2020」を公開した。コロナ禍を受けて、マーケティングや営業の手法が対面からオンラインに急速にシフトしてきており、関連のサービスが大きく伸びた。

国内で利用できる1234種類のマーケティングテクノロジーを、16分野に分けてまとめたカオスマップ
 今回のカオスマップでは、国内で利用できる1234種類のマーケティングテクノロジーを、16分野に分けて掲載。数は昨年の931種類から33%増加した。

 「2020年のマーケティングテクノロジーのキーワードは、3つの“O”だ」と、アンダーワークスの田島学代表は解説。データの統合と可視化、分析を行う「オーケストレーション」、リアルタイムの「ワン・トゥ・ワン最適化」、オムニチャネルの概念を一歩進めオンラインが主でオフラインがサブという「オンライン・マージズ・オフライン」を挙げた。

 背景にはコロナの影響がある。「営業がオンラインから始まり、イベントもオンラインになってきている。マーケティングはプレセールスという感覚だったが、既存顧客との接点をオンラインで管理して、LTV(生涯顧客価値)を伸ばすためのテクノロジーが非常に増えている」(田島氏)

データの加工、分析。そしてABM関連が増加
 数が大きく増加したのは、下記の領域のテクノロジーだった。

・データ整形やクレンジングを行う「ETL」:56%増
・B2Bで外部からデータを購入する「企業データ」:57%増
・「チャットボット/チャットシステム」:47%増
・データを可視化、分析する「BI/ダッシュボード」:39%増
・Webサイトを分析する「アクセス解析」:39%増
・「オンライン商談」:25%増

 B2B企業がデータマーケティングに取り組むことが増えてきており、外部から企業情報などのデータを購入することが増えてきたと田島氏。「ABM(アカウントベースドマーケティング)をプラットフォームとして行えるテクノロジーは限られているが、来年は増えてくるだろう」

 またアクセス解析領域では、グーグルの「Google Analytics」とアドビの「Adobe Analytics」が大きなシェアを持つが、「汎用的なツールではなく、ニッチな機能を持つツールが増えてきている」(田島氏)。

データ管理領域の動向
成熟してきたMA
 一方で、増加が一段落し成熟が進んできた分野もある。顧客管理や分析、メール配信などを自動化するマーケティングオートメーション(MA)分野は、10%の減少となった。「5年前はバズワードだったが、減ってきていて、成長市場から成熟市場へ変わってきている」(田島氏)

 また、自社以外の企業が集めたユーザーデータを使った「3rd Party DMP」は、個人情報の取り扱いに関する懸念などから数が減った。一方で、「プライバシー」関連のテクノロジーは20%増加している。「GDPRやカリフォルニア州消費者プライバシー法(CCPA)、改正個人情報保護があり、個人情報の取り扱いに関心が増えている」(田島氏)』

菅氏の人脈、目立つ「構造改革派」 経済優先へ幅広く

https://www.nikkei.com/article/DGXMZO63845920V10C20A9PP8000/

『自民党総裁選で勝利した菅義偉総裁は経済優先を掲げる政権運営に向け幅広い人脈を築く。観光政策や規制改革、金融といった個別分野ごとに構造改革を主張する人物が目立つ。自民党に限らず、公明党や日本維新の会にもつくった連携先が政権運営の強みとなる。

菅氏は若手議員の頃、「政治の師」と仰ぐ故・梶山静六氏から「官僚は説明の天才だからお前なんかすぐにだまされる」と指導を受けたという。梶山氏からは政官財の人脈を引き継いだ。

【関連記事】
菅義偉氏、たたき上げの「令和おじさん」
官房長官を務めた7年8カ月の間も朝昼夜と各分野の人物と会食をこなした。夜は2軒をはしごすることも珍しくない。

安倍政権下で成果を上げた外国人旅行客(インバウンド)政策は小西美術工芸社のデービッド・アトキンソン社長の意見に耳を傾けた。同氏は『新・観光立国論』の著作を持つ。

菅氏は2016年3月、当時20年に2000万人だった目標を4000万人に引き上げた。国際観光旅客税(出国税)を新設するなどして、安倍政権発足時に約100億円だった観光庁予算を約700億円に増やした。

アトキンソン氏は最低賃金の引き上げや中小企業の再編も提唱する。菅氏は5日の日本経済新聞のインタビューで「検討に値する」と述べた。

「大胆な改革」を掲げた規制改革は金丸恭文フューチャー会長兼社長らの意見を参考にする。金丸氏は規制改革推進会議のメンバーとして菅氏を支えた。新型コロナウイルスの感染拡大を受け、オンライン医療の解禁を訴えた。デジタル関連の政策にも詳しい。

サントリーホールディングスの新浪剛史社長(写真左)と楽天の三木谷浩史会長兼社長

サントリーホールディングスの新浪剛史社長とも意見を交わす。新浪氏は安倍政権で経済財政諮問会議の民間議員を務めた。最低賃金の引き上げを促し、菅氏を後押しした。

産業競争力会議を通じ、楽天の三木谷浩史会長兼社長とも距離を縮めた。楽天は菅氏が利用料の4割下げを提起した携帯電話事業も手掛ける。地銀再編や大阪・神戸を国際金融都市とする構想を巡っては、SBIホールディングスの北尾吉孝社長との連携が目立つ。

総務副大臣の頃に総務相だった竹中平蔵氏とも付き合いが深い。竹中氏は小泉純一郎元首相の経済ブレーンとして構造改革をけん引した。

竹中平蔵氏(写真左)とペンス米副大統領

アベノミクスの継続を公言する半面、リフレ派との付き合いは薄い。安倍晋三首相は米エール大名誉教授の浜田宏一氏や本田悦朗氏を内閣官房参与などに積極的に起用した。

霞が関は故・香川俊介元財務次官や和泉洋人首相補佐官との関係が深かった。15年に香川氏が死去した折に、追悼文を寄せた。

和泉氏は若手議員の頃に出会い、安倍政権で米軍普天間基地の名護市辺野古への移設などの調整を委ねた。前官房副長官補の古谷一之氏と共に官邸主導の原動力となった。古谷氏は公正取引委員会の委員長に就く。携帯や地銀などの政策調整の要所となる。

菅氏は安倍晋三首相が力を入れる外交にほとんど手を出さなかった。海外の人脈は官房長官として培った駐日大使らが中心となる。

駐日米大使だったキャロライン・ケネディ氏と月に1度会談し、友情を育んだ。ケネディ氏は菅氏が19年5月に訪米した際、自宅に菅氏を招いて漢字で「令和」と書いたケーキを用意してもてなした。

訪米時にはペンス副大統領ともホワイトハウスで会談した。ペンス氏は会談後、菅氏が車に乗り込むまで見送る厚遇ぶりを見せた。ハガティ前米大使や次期大使に指名されたワインスタイン氏とも親交がある。

中国は外交担当トップの楊潔篪(ヤン・ジエチー)中国共産党政治局員らと会談を重ねる。

自民党内に限らない幅広い与野党のパイプが強みだ。日本維新の会の松井一郎代表(大阪市長)や大阪維新の会の創設者、橋下徹氏と連携してきた。安倍首相と菅、松井、橋下各氏はほぼ毎年、年末に会合を開く。行政改革や憲法改正を巡り一致する点が多く、維新の大阪都構想を後押ししてきた。

公明党は井上義久副代表らと税制改正や選挙などを巡り連携してきた。公明・創価学会側の菅氏への信頼は厚く、菅氏の政権運営を支える。』

自民 菅新総裁 幹事長など党4役らの役員人事を正式決定

https://www3.nhk.or.jp/news/html/20200915/k10012618851000.html?utm_int=news_contents_news-main_001

『自民党の菅新総裁は、15日午後、党の役員人事を行い、二階幹事長と森山国会対策委員長を続投させるとともに、総務会長に佐藤勉氏、政務調査会長に下村博文氏を起用することなどが正式に決まりました。

自民党の菅新総裁は、15日午後、党の役員人事を行いました。

菅氏は、党本部の総裁室で、二階幹事長と森山国会対策委員長を続投させるほか、総務会長に佐藤勉氏、政務調査会長に下村博文氏、選挙対策委員長に山口泰明氏を起用することをそれぞれ正式に伝えました。

さらに、幹事長代行に野田聖子氏、広報本部長に丸川珠代氏、組織運動本部長に小野寺五典氏が起用され、党の4役ら役員の人事は、午後1時半から開かれた臨時総務会で了承されました。』

官房長官に加藤厚労相 麻生財務相再任の方向

官房長官に加藤厚労相 麻生財務相再任の方向―茂木外相、赤羽国交相続投・菅総裁
https://www.jiji.com/jc/article?k=2020091500136&g=pol

『自民党の菅義偉総裁(官房長官)は15日、新内閣人事の焦点である官房長官に竹下派の加藤勝信厚生労働相(64)を起用する方針を固めた。茂木敏充外相(64)、赤羽一嘉国土交通相(62)は再任が固まり、麻生太郎副総理兼財務相(79)と橋本聖子五輪担当相(55)も再任の方向。二階派の平沢勝栄広報本部長(75)、石原派の坂本哲志元総務副大臣(69)の初入閣も内定した。自民党・政府関係者が明らかにした。

 加藤氏の後任の厚労相には石破派の田村憲久政調会長代理(55)を充てる案が有力。田村氏は厚労相経験があり、党で新型コロナウイルス対策の責任者を務めた。麻生派の河野太郎防衛相(57)は総務相で調整。岸信夫元外務副大臣(61)の防衛相起用が取り沙汰されている。
 事務方トップの杉田和博官房副長官(79)の続投も固まった。
 菅氏は15日、二階俊博幹事長(81)を続投させるなど党4役人事を決めた。政調会長に細田派の下村博文選対委員長(66)、総務会長に麻生派の佐藤勉・衆院憲法審査会長(68)、選対委員長に竹下派の山口泰明・党組織運動本部長(71)をそれぞれ起用。午後の臨時総務会で正式に決定した。
 二階派を率いる二階氏は総裁選でいち早く菅氏支持を打ち出し、圧勝の流れを主導した。細田、麻生、竹下の3派も菅氏を支援した。菅氏が二階氏を中心に4派の幹部を党運営の柱と位置付けた形だ。』

「菅内閣」誕生で政治はどう動く?

「菅内閣」誕生で政治はどう動く?自民党総裁選の内幕を伊藤惇夫氏が斬る
ダイヤモンド編集部 小尾拓也:副編集長
経済・政治 DOL特別レポート
2020.9.8 5:15
https://diamond.jp/articles/-/247973?utm_source=daily&utm_medium=email&utm_campaign=doleditor&utm_content=free

『来る9月14日、自由民主党の総裁選が実施される。7年8カ月に及んだ安倍政権は、功績と共に多くの課題を残した。次期自民党総裁には新しい首相として、難しい国の舵取りが求められる。総裁選における「菅一強」は揺るがないのか。新政権のもとで解散・総選挙はいつ行われるのか。注目すべきポイントを、政治アナリストの伊藤惇夫氏に聞いた。(聞き手/ダイヤモンド編集部 副編集長 小尾拓也)

雪崩を打って「勝ち馬」に
自民党内で勢力図が一変
――安倍首相の辞任を受けて9月14日に実施される自由民主党の総裁選は、候補が3名に絞られました。現段階では、党内5派閥の支持を受けた菅義偉・官房長官が圧倒的に有利な状況です。各派閥が雪崩を打って「菅支持」に回ったのは、なぜでしょうか。

 ひとことで言えば、「勝ち馬」に飛び乗ろうとする動きが起きているということ。しかし、なぜ菅氏が急速に「勝ち馬」と認識され始めたのかは、定かではありません。強いて言えば、「石破茂・元幹事長だけは総裁にしたくない」という考えが、党内で強かったのでしょう。それが一番大きな理由だと思います。

 一方で、次期総裁の本命とされてきた岸田文雄・政調会長が失速した影響もあります。6月を境に安倍首相が方針転換し、岸田氏は後継候補から外れたと見られています。理由は、新型コロナ対策で党の責任者を務めたにもかかわらず、発信力・存在感が高まらないから。また、コロナ支援策として岸田氏が主張してきた、30万円を減収世帯に限定給付する構想が閣議決定後に覆され、国民への一律10万円給付に変更された一件で、岸田氏の政治手腕には大きなマイナスイメージがついてしまいました。

 興味深いのは、この頃から麻生太郎・副総理も「岸田は平時の宰相だ」と言い始めたことです。過去、金丸信・副総理が将来の総裁候補について述べた「平時の羽田(孜)、乱世の小沢(一郎)、大乱世の梶山(静六)」という発言に倣ったのでしょう。

 実はこの発言、それで終わりではなくて、金丸氏は「政治の世界に平時はない。そして大乱世になったら自民党はない」と付け加えました。要するに、「総裁候補は小沢一郎しかいない」と言いたかったわけです。麻生氏がそこまで考えて金丸氏の発言を引用したとすれば、「岸田氏では無理だ」と言いたかったのかもしれません。

本命だった岸田氏が失速する中、安倍政権を支えてきた人たちの間で、「次の総裁候補探し」が始まっていました。そこに安倍首相が突然辞任を表明したため、ここで緊急登板できるのは石破氏や岸田氏ではなく、長年官房長官を務め、安倍首相の政策運営を知り尽くしている菅氏しかいない、という機運が一気に高まったのでしょう。

――菅氏が「本命」に躍り出るまでには、どういうやり取りがあったのでしょうか。

 安倍首相から総裁選を任された二階俊博・幹事長は、早い段階から菅氏と頻繁に会合を重ねており、そこで総裁選への出馬を後押ししていたと見られます。二階氏は動物的な勘の鋭い人物。党内や安倍首相の意向をある程度察知した段階で、菅氏擁立へと舵を切ったのでしょう。

 菅氏自身も、7月上旬くらいから微妙にスタンスが変わってきていました。それまでは「次期総裁になる気は全くない」との発言で一貫していましたが、親しい人に対しては必ずしもそれを否定しないことがあったといいます。安倍首相に一番近いところにいたので、首相の体調面の変化にいち早く気付き、「もしかしたら」という思いがあったのかもしれません。

二階幹事長にとっては
「勝利こそが正義」
――二階氏は、石破氏とも気脈を通じている印象がありました。総裁選で党員投票を省略し、地方票に強い石破氏のハシゴを外す方向へ動いたのは、なぜでしょうか。

 二階氏は、「勝つことが正義」と考えている人。菅総裁が誕生したら、少なくとも自身の幹事長留任はほぼ確実となります。勝つためには、いつもあらゆる選択肢を持ちたいと思っているのでしょう。石破氏の勉強会への出席要請に応じたり、「期待の星」と発言したりしたのは、当時の勢力図を見据えながらのリップサービスの一環と思われます。先の東京都知事選でも、「必ず勝つ」と確信したからこそ、自民党との間に深い溝がある小池百合子氏の支援を表明したのです。

――石破氏を総裁にしたくないという雰囲気が、自民党内でここまで根強い理由は何でしょう。

 今の自民党の実力者たちは、これまでの安倍政権の体制を崩したくない。変化ではなく、継続を前提に考えているのです。石破氏は、国政選挙で6連勝し総裁として結果を出し続けた安倍首相に対して、批判的な態度を貫きました。そんな石破氏がもし総裁になれば、体制をガラリと変えてしまう恐れがあります。それを大方の人が不安に感じたのでしょう。

石破氏が総裁選で
苦戦する真の理由とは
 さらに勘繰ると、好き嫌いの問題だけではないのかもしれません。安倍政権下で起きた森友、加計、桜を見る会などの問題を石破氏に追及され、不都合な真実が明るみに出たら、自民党は混乱に陥ります。そうした側面から、石破氏が危険視された可能性もあります。

 かつて、田中角栄首相が金脈批判で辞任し、その後、当時の自民党内で最弱の反主流派だった三木武夫氏が、総裁に就任したケースがあります。これは、国民にクリーンなイメージを与えることが目的でしたが、三木首相はその後発覚したロッキード事件で疑惑の積極的な究明に動きました。そのこともあって、田中元首相は裁判の被告人となったのです。そうした「過去の記憶」も、情勢に影響を与えたかもしれません。

――岸田氏や石破氏が、これから劣勢を挽回できるチャンスはあるでしょうか。

 ここまで菅氏支持が固まってしまうと、難しいでしょう。しかし、2人がそれでも出馬するのは、「次」を見据えているからです。次期総裁は、安倍首相の残りの任期を引き継ぐ形になります。来年9月にはまた自民党総裁選が行われるため、そこでもう一度勝負できる。もし来年も目指すなら、今回出馬しておかないと、「勝ち目のない戦いから逃げる人」というネガティブなイメージが付き、不利になってしまいます。つまり今回は、勝ち負けではなく、出馬をすること自体に意義があるのです。

 もちろん、どちらが2位につけて、どちらが3位に沈むかという問題はあります。今回の結果が、次期総裁選の優劣に少なからぬ影響を及ぼすことが考えられます。

――目下、次の自民党総裁・内閣総理大臣に最も近いと思われる菅氏ですが、菅政権ができると仮定した場合、その政治手腕をどう見ますか。

 菅氏は、少なくとも内政では十分経験を積んでおり、個別の政策には非常に強い印象があります。よって、安倍政権の路線を継承するには最適だと思います。ただ、アベノミクスをはじめとする安倍政権下の政策が、全て成功しているわけではない。それをどれだけ軌道修正できる手腕があるかは、未知数です。

 また、菅氏はパフォーマンスが得意ではないので、安倍首相のように華々しく外交を展開することは考えづらいです。外交をはじめ自分の苦手分野は、適任者を選んである程度の裁量を与え、任せていく体制になると思います。

菅氏は修羅場をくぐってきた
ただの「つなぎ」ではない
 いずれにせよ、総裁を目指すほどの政治家には、自分がのし上がるために戦略的にライバルを蹴落としたり、時の実力者に食い込んだりするパワーが必要です。今回、安倍政権の「単なるつなぎ」と評されることが多い菅氏ですが、安倍政権ができるまでは、戦っては負け続けるという修羅場をくぐり抜けてきました。多くの派閥に支持されるのは成り行きではなく、「たたき上げ」の強さも評価されてのことだと思います。

――「菅内閣」の重要閣僚には、誰が選ばれそうでしょうか。

 現段階では予想できませんが、どういう人事をやるかによって、菅氏の「腹の内」がわかります。派閥のバランスを重視したり、安倍政権で主流派だった人たちを重用したりする人事なら、「つなぎ」の意識が強いでしょう。反対に「菅カラー」を打ち出す人事なら、来年の総裁選も勝ち抜いて長期政権を築こうという意欲が強いことになります。
 
――新首相の元で、衆議院の解散・総選挙はあるのでしょうか。あるとしたら、どのタイミングでしょうか。

 永田町では、10月25日投票などという噂も出ています。安倍首相が辞任を表明した途端、「ご祝儀」で政権の支持率が50%を超えて復活する一方、立憲民主党や国民民主党の合流などで野党の体制が整っていないからです。こうした状況を好機と捉えて、早期解散を主張する人は自民党内にいます。また新しい首相にとって、早い段階で解散・総選挙を行い国民に信を問うことは、悪い選択肢ではありません。

解散・総選挙は
近いのか、先なのか
 ただ私は、早期に解散・総選挙がないとしても、菅氏は首相になったとしたら、来年9月までの任期中に解散のタイミングをうかがい続けると思います。どんなに謙虚な政治家でも、首相になったら1日でも長くその座にいたいものだから。

 ともあれ、解散は首相の専権事項です。政界には、「解散についてだけ首相は嘘をついてもいい」という不文律もあります。だから、解散の時期は本当に予測不能です。

――来年の総裁選は、どんな顔ぶれになりそうですか。

 仮に今回の総裁選で菅氏が勝利を収めた場合、石破氏と岸田氏が次期総裁選に名乗りを上げる可能性は高いです。ただ、岸田氏はこのままだと微妙かもしれません。非常に優秀な政治家ではありますが、今党内では、「安倍首相からの禅譲を待つ戦わない政治家」といった評価が増えています。来年も立候補を目指すなら、これから「発信力」を磨いていかないといけません。

 新しい注目株を挙げるとすれば、今回出馬を見送った河野太郎・防衛大臣です。河野氏は危なっかしいところもあるけれど、発信力が強く、国民の人気も高い。実は、菅氏も河野氏を買っています。2009年の総裁選に河野氏が出馬し、谷垣禎一氏と争った際、菅氏は宏池会に所属していましたが、派閥の意向に逆らって河野氏を支持しました。もし菅氏が今回総裁になったら、自分の後継に河野氏を推す可能性はあります。

――今振り返って、安倍政権の8年弱をどう評価していますか。レガシー(遺産)と呼ばれる成果がなかったとも言われていますが。

「記録は残るけれど記憶に残らない政権」だったと思います。過去の歴代政権を振り返ると、吉田茂の日本の独立回復、岸信介の日米安保改定、佐藤栄作の沖縄返還、中曽根康弘の行政改革、田中角栄の日中国交正常化など、首相の名前と実績がセットで浮かんできます。しかし、安倍氏にはそれがない。

 印象が強いのは、経済政策アベノミクスで株高・円安を演出したことですが、あれは金融市場が、リーマンショックの後遺症から「自然治癒」する過程と時期が重なった側面も大きいと思います。特に株高は、日銀とGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)の大量の資金投入により、2~3割は下駄を履いた状態だったでしょう。

その一方、マイナス金利政策で金融機関は疲弊し、財政は出動するだけで建て直しは行われず、国の借金は増え続けました。デフレ脱却は「永遠の道半ば」の状態です。

 また、積極的な外交は評価されていますが、ロシアとの北方領土問題や北朝鮮との拉致問題は解決しておらず、日韓関係は過去最悪と、成果に乏しいです。日中関係は改善に向かっていますが、米国と仲が悪くなると日本へ向いてくるという、中国側の都合が大きい。

 米国のトランプ大統領と良好な関係を築けたことは評価できますが、通商交渉では押されまくりで、国益にはなりませんでした。「仲良くすれば何とかなる」という発想に留まらず、日米地位協定の改定くらいまで踏み込めればレガシーをつくれましたが、そのレベルまでは至りませんでした。

「やっている感」の演出だけで
レガシーがなかった安倍政権
――なぜ、長期政権を築けたのでしょうか。

 第一次政権の教訓からか、第二次以降の政権では理念的な政策を掲げずに、経済を前面に押し出して実務的なイメージをアピールしました。そのことから考えても、政権を長期化させること自体が目的だったのではないか。そして、窮地に陥ると解散総選挙を打って切り抜け、安保法制や特定秘密保護法案を成立させるというやり方を続けました。

 その過程で奏功したのが、「やっている感」の演出です。三本の矢、女性活躍、一億総活躍、地方創生、働き方改革、人づくり革命というように、華々しい看板を掲げて国民の期待を集め、飽きられてきたら違う看板にかけ替えるという作戦を繰り返し、国民の支持を持続させました。結局、どれも大きな成果は出ていませんが、うまいやり方だったとは思います。野党勢力がかつてなく弱体化していたことも、環境的な追い風になりました。
 
 政権の正しい在り方は、「一内閣・一仕事」だと私は思います。一度大きなテーマを掲げたらそこに集中し、「目標を成し遂げられたら内閣がつぶれてもいい」というくらいの気概でことに当たる。安倍政権は、それとは正反対でした。現内閣が成し遂げられなかったことをいかに実現していくかが、次の総理・総裁に課せられた使命なのです。』

謎の無派閥議員集団「菅義偉グループ」を解析する

謎の無派閥議員集団「菅義偉グループ」を解析する
【一覧表掲載】世襲ゼロ、秘書・地方議員経験者がゴロゴロ
https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/62084

 ※ これは、絶対見ておいた方がいい記事だ…。ここで挙げられている「菅グループ」の面々が、手となり足となって、菅さんを支えていくはずだからだ…。
 そして、菅さんもまた、「子飼いの手下(てか)」として、存分に使い、処遇していくはずだ…。「無派閥」が「最大の派閥」…、という実体が、垣間見えた感じだ…。
 当然、「党内力学」の上に成立している「菅総裁」であるから、そっちの処遇の方が優先されるだろう…。それでも、「子飼い」の面々に不満が出ないように、どう手綱をさばいて行くのか…。
 菅さん自身は、「豊臣秀長になりたいと思っていたが、豊臣秀吉を目指す立場になってしまった…。」と述懐したそうだ…。しかし、「天下太平のため」配下の武将に「高禄」を分け与えることはせずに、せいぜい「一万石」程度の「最低限の大名」としての処遇しかしなかった…。その代わりに、「役職」という「権威」を持たせて不満を封じた徳川家康的な手腕が、要求されるだろう…。そこいら辺の手綱さばきも、見どころだ…。不満が高じれば、軍団は瓦解する…。そういうこともまた、人心だ…。

『菅義偉内閣がまもなく発足する。党内の主要派閥に推され、総裁選では圧倒的な数の力を見せつけたが、改めて注目されたのが衆参の無派閥議員からなる「菅グループ」の存在だ。約30人と報じられ、石破派(19人)や石原派(11人)以上の勢力とされている。しかし、顔ぶれについてはほとんど知られていないのが実情だ。「菅グループ」にはどんな人物がいるのか。詳細に検討してみると、意外なことが判明した。

衆院15人、参院11人でカウント
 一般的に「菅グループ」とされるものには、派閥横断の勉強会である「韋駄天の会」もあるが、真っ先に言及されるのが衆院当選4回以下の無派閥議員からなる「ガネーシャの会」である。このほか、参院にもグループがあり、各派閥にも隠れ“菅派”がまるでスパイのように紛れ込んでいる。グループは非常に緩やかなつながりとされており、菅氏が全員を個別にコントロールしているようだ。

 さて本稿では、グループの面々が菅氏に面会して出馬を要請した際の記念写真、一部推薦人名簿を基準に衆院15人、参院11人の計26人を「菅グループ」と認定する。

 衆院は、大串正樹氏のフェイスブックにアップされた写真を基準にする。菅氏に総裁選への出馬を要請した当選4回以下の「無世襲・無派閥」の14人の顔が確認できる。対外的に名簿が発表されているわけではないので、動かぬ証拠として写真を根拠にしたい。

大串正樹議員Facebookより
ギャラリーページへ

 敬称略で名前をあげると、後列左から、三谷英弘、熊田裕通、穂坂泰、木村哲也、藤井比早之、秋本真利、田中英之、黄川田仁志、武村展英。前列左から、大串正樹、星野剛士、田中良生、菅義偉、坂井学、山本朋広の各氏だ。

 写真には入っていないが、菅氏の推薦人である牧原秀樹経済産業副大臣を加え、衆院は15人とする。

 参院に関しても、総裁選への出馬を要請した11人と菅氏の記念写真を根拠にする。島村大氏のツイッターなどから確認することができる。

島村大議員ツイッターより
ギャラリーページへ

 こちらも敬称略で名前をあげると、後列左から、小川克巳、徳茂雅之、朝日健太郎。前列左から、三宅伸吾、和田政宗、三原じゅん子、松下新平、菅義偉、島村大、園田修光、阿達雅志、柘植芳文の各氏だ。

 以上11人を参院の「菅グループ」とする。

地方議員出身者3割 東大法卒が最多
 26人がどういう「属性」の人物であるか、一覧にまとめたのが下に示した表だ。細かくて見えにくい場合は、表下の「拡大画像表示」ボタンで大きな画像を参照してもらいたい。

菅グループ議員の属性分析(筆者作成)
拡大画像表示
ギャラリーページへ
 では、表の内容に準じて、いくつかのポイントに絞ってみていく。

 やはりというべきか、衆院6人、参院2人の計8人が市議、県議出身であり、グループ全体の3割を占める。国会議員秘書経験者も6人いる。

 意外なのは学歴である。菅氏は法政大出身の初の首相となるわけだが、グループ内での同大出身者は4人にとどまる。最も多いのは東大法の6人だった。令和2年8月版の国会議員要覧(国政情報センター)によると、衆参710人の国会議員のうち、東大出身者は130人に上り、全国会議員の2割弱を占めている。

 菅氏は自らの選挙区がある横浜市内はもちろん、神奈川県内全域に絶大な影響力を持つ。河野太郎防衛相、小泉進次郎環境相という自民党の2枚看板も同県選出議員である。菅グループの「神奈川率」は衆院4人、参院2人の計6人。決して大所帯ではないが、足元をきっちり固めていることがわかる。

 松下政経塾出身者が4人いる点も興味深い。政経塾が神奈川県茅ケ崎市内に拠点を置いているという要素もあるかもしれない。

 知名度でいうと、元女優の三原じゅん子氏の名前が光る。三原氏は2012年の総裁選で石破茂氏を支持していたとされるが、15年に神奈川選挙区へ転出したこともあり、菅氏側近へと華麗に転身した格好だ。元ビーチバレーボール五輪日本代表の朝日健太郎氏は199センチ。今回の総裁選では、小柄な菅氏との高低差が話題になることはなかった。

独自の情報網 脱原発派もタカ派も
 菅氏のネットワークの広さ、豊富な情報網は他の追随を許さないレベルにあるが、注目すべき人物が菅グループにいる。

 住友商事出身でニューヨーク州弁護士の資格も持つ阿達雅志氏である。トランプ米大統領の側近と個人的な関係を構築しているという。前回2016年の大統領選でトランプ氏陣営の参謀役だったスティーブン・バノン氏ともパイプがあったとされる。菅氏は前回の大統領選で、トランプ氏が勝利するとの見通しをかなり早い段階から示していた。阿達氏のニューヨーク人脈が活きたようだ。

 情報網という意味では、旧みんなの党で当選した三谷英弘氏、和田政宗氏を“引き取っている”点も見逃せない。他党から来た議員の情報は貴重である。二階俊博幹事長も10年間の非自民党時代に人脈、ルートを拡大した。菅氏も他党出身者を重宝しているはずである。

 菅グループには谷垣禎一元幹事長のグループ「有隣会」に出入りする議員が5人以上いる。谷垣グループは今回、自主投票だったが、谷垣氏は一定の影響力を保持する。谷垣グループと菅グループが連携している形跡もある。

 全国郵便局長会(通称「全特」)を代表して国会に送り込んでいる徳茂雅之氏、柘植芳文氏がいずれも菅グループであるのは興味深い。徳茂氏は2016年に52万票余でトップ当選、柘植氏も2019年に60万票余を獲得し、特定枠の上位2人を除いて首位である。抜群の集票力を誇る両氏を傘下に収める剛腕ぶりが伝わってくる。

 イデオロギーに固執しない菅氏らしく、政策面や思想面で距離のある議員がグループ内で共存している。法政大出身の秋本真利氏は「脱原発」を堂々と掲げていた一方、和田氏は歴史認識分野などで保守の立場を鮮明にする。自民党はもともと政策の左右の幅が広いが、菅グループもウイングが広い。

苦労している議員を応援、無派閥議員の4割が「菅印」
 俗にいう「たたき上げ」の菅氏は、苦労している人に手を差し伸べている。声をかけられた側が感激するのは言うまでもない。

 永田町では当選同期(初当選した選挙が同じ)の関係が最初に深まる傾向にある。学校生活における同級生のような感覚だ。ただし、途中で落選してしまうと、当選回数が異なり、その後のポストで差が出る。疎遠になることも珍しくない。

 そんな中、菅氏は当選同期との関係を維持することに腐心してきた。

 例えば、園田修光氏は参院当選1回ながら、菅氏と当選同期である。園田氏は96年に衆院で初当選したが、その後衆院選に3回連続落選。参院選でも落選を経験した。16年ぶりに国政復帰したのは2016年の参院選だった。菅氏は折に触れて園田氏を激励、応援してきた。

 衆院には比例復活組が5人いる。選挙区で苦労している議員を可愛がることは、「面倒見の良さ」というリーダーの必須条件を満たすことにつながる。ちなみに、木村哲也氏は野田佳彦前首相、三谷氏は日本維新の会代表を務めた江田憲司氏、牧原氏は立憲民主党の枝野幸男代表と戦っている。いずれも野党を代表する政治家であり、追い風が吹いても簡単には勝てない。裏を返せば、これらの選挙区で彼らが勝利すれば、菅氏の神通力を見せつけることになる。

「マイナーな議員」が勢ぞろいした観があるのは、菅グループの特徴だ。名前の知られている議員は正直、三原氏ぐらいだろう。

 それでも、総裁選においては、有力議員だろうが、マイナー議員だろうが、同じ1票であることに変わりはない。国会議員要覧によると、自民党の無派閥議員は65人。4割が少なくとも菅グループなのである。適齢期にもかかわらず、副大臣や政務官のポストに就けていない議員も少なくない。彼ら彼女が、菅内閣で念願のポストを手に入れる可能性は十分ある。地味な面々が政治の表舞台に出てくるかもしれない。(文中一部敬称略)』

菅新総裁が向き合う三国志 令和の自民党の権力構造

菅新総裁が向き合う三国志 令和の自民党の権力構造
編集委員 清水真人
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO63789680T10C20A9000000/

『総裁選で菅義偉を圧勝させた自民党。小選挙区中心の衆院選の下で権力は党首=首相に集中しがちだから、皆が勝ち馬に乗ろうとする「雪崩現象」は常だ。総主流派内は同床異夢で、菅がよって立つ権力構造は令和の三国志とも見まがう暗闘にきしむ。菅が主導権を確立するための切り札は、閣僚・党役員の人事権と、衆院選で国民の信任を求める解散権の2つに尽きる。

■たたき上げの「裏方同盟」
自民党の総裁に就任し、総裁の椅子に座る菅義偉官房長官(14日)

「もともと、私は横浜の市議会議員。生まれ育ったのは秋田県。その意味でたたき上げだ」

12日の日本記者クラブでの討論会。菅は自らこう名乗った。

首相の安倍晋三が退陣を表明した翌日の8月29日。菅は国会内の議員事務所にこもった後、前からの約束を変更せずに私的な食事会で肩の力を抜いた。本番はここからだ。東京・赤坂の衆院議員宿舎の応接室で幹事長の二階俊博、その側近で幹事長代理の林幹雄、国会対策委員長の森山裕(石原派)と向き合った。この4人組は全員が秘書や地方議員からのたたき上げだ。

菅の擁立を決断した二階。28日の党役員会で、総裁選をどんな方式で実施するか一任を受けていた。対抗馬の石破茂が持つ地方の党員票の強みを封じ込めたい。それには「片時も政治空白をつくってはならない」と緊急事態を名目に「党員名簿の精査に2カ月かかる」党員投票を省略し、両院議員総会での新総裁選出を認めた党則6条2項ただし書きの適用こそ秘策だった。

週明けの31日、二階の電光石火の策動を仕上げたのが森山だ。9月14日の両院総会で新総裁を決め、政治空白の回避を理由に16日に臨時国会を召集して首相指名選挙を実施する。こんな短期決戦の政治日程で主要野党と素早く話をつけた。1日の総務会で総裁公選を要求した青年局長の小林史明ら若手議員も「野党に今さら迷惑をかけられない」との森山の論法に屈した。

霞が関の官僚機構を動かし、情報を吸い上げる官房長官。選挙対策や資金配分など党務を差配する幹事長。野党も巻き込んで政治日程を組み立てる国対委員長。安倍が首脳外交やアベノミクスなどでトップダウンの政権運営を展開した「安倍一強」を舞台裏で支えてきた、たたき上げの「裏方同盟」が総裁選で菅本命の流れを一気につくり出したのである。これを「二階派主導」とだけ見るのは皮相だ。

官邸と党執行部の要のポストを押さえた「実権派」グループだから、次の党内権力の奪取でも決定的な先手を取れたのだ。新型コロナウイルス対策に苦慮した安倍が、側近の官邸官僚たちの進言で一斉休校、アベノマスクの配布、自宅でくつろぐ動画配信などで迷走。内閣支持率を低下させ、健康不安を再燃させていった陰で「裏方同盟」による権力の静かな簒奪(さんだつ)が進んでいたともいえる。

安倍や副総理・財務相の麻生太郎がポスト安倍に擬したのは、同じ世襲議員で気が合う政調会長の岸田文雄だった。2019年に新元号を発表して「令和おじさん」で知名度を上げた菅は岸田後継に反対。安倍側近スタッフたちはポスト安倍への菅の野心を疑い、すきま風が吹いた。官邸がコロナ対策に追われた20年前半、菅の存在感は薄れた。

■アベノミクス・カルテットの「復縁」
安倍晋三首相と麻生太郎副総理は石破茂氏を担ぎ出すシナリオを警戒した

そこへ派内に総裁候補を持たずに幹事長続投を狙う二階がすかさず菅に接近した。返す刀で、安倍と麻生が次期首相には絶対に容認できない宿敵の石破を持ち上げて見せるなど「岸田後継」をけん制。「菅・二階連合」が石破を担ぎ出すまさかの悪夢だけは避けねば、と安倍・麻生ラインが警戒し、次善の選択として「菅後継」も思案せざるを得ない環境が醸成された。

それを象徴したのが6月19日。安倍、麻生が党税調会長の甘利明(元経済財政相)も誘い、菅を入れて4人で3年ぶりに会食した場面だった。12年12月に安倍が首相に再登板し、異次元の金融緩和を軸として発動したアベノミクスを内閣で推進してきたカルテットだ。政権の原点を再確認する形で、安倍、麻生と菅の微妙に開いた距離を縮める「復縁」の儀式ともいえた。

この頃、霞が関の官僚たちからは「菅氏はやる気を失ってなどいない」との驚きも漏れてきた。菅が今夏の各府省の幹部人事の随所に手を入れ、官僚機構の手綱を締め続ける意欲十分だったからだ。官房長官の実権を手放す気配など一切なかった。

農水省で官房長から新次官に昇格した枝元真徹は森山と同じ鹿児島県出身。菅と農林族の有力議員でもある森山の合作人事と見られている。国土交通省では菅が「若返り推進」を漏らした通り、本命視されていた国交審議官の由木文彦が復興次官に転出。同じ旧建設省の事務官系の国交審議官から、入省が1年後の栗田卓也が次官に登用された。

6月18日を最後に官邸での記者会見に応じず、「引きこもり」とも言われた安倍と対照的に、菅は政権の司令塔としての重みを回復していく。コロナで不備が露呈したマイナンバーカードの活用拡大。総裁選でも力説した治水・利水ダムの縦割り行政打破による水害対策。「コロナ感染拡大阻止と社会経済活動の両立」を旗印に掲げ、「Go To トラベル」事業の推進に不退転の姿勢も打ち出した。

安倍が健康不安を隠せなくなり、退陣表明するまでのひと月で、菅は6回もテレビやインターネットの報道・討論番組に出演した。辞意会見の6日前の8月22日、自らのブログで安倍を議長とする未来投資会議を4年ぶりに話題に。「ウィズコロナ、ポストコロナの時代の新たな社会像への議論を始めた」と新たな経済社会ビジョンづくりへの意欲すらにじませた。事実上の権力移行が始まっていた。

■「世代交代」河野・小泉カード
個別の政策ごとに縦割りや業界の既得権の壁を「一点突破」する局地戦に強い菅。外交・安全保障や持続可能な経済社会を巡る包括的なビジョンは語らず、宰相タイプとは見られてこなかった。ポスト安倍への意欲を何度聞かれても「全く考えていない」と否定し続けた。唯一、脈ありと考えられたのが、安倍が不測の事態に見舞われ、路線を継承するため緊急登板を迫られる今回のような展開だった。

「まずはじめに7年8カ月、首相の重責を担い、今日の礎を築いた安倍総裁に心からの敬意を表し、卓越した指導力と判断力に最大限の賛辞を送りたい」

画像の拡大

9月8日の総裁選の所見発表の演説会。菅はこんな謝辞から話を始めて「安倍継承」の衣を周到にまとって見せた。ただ、菅に近い人物は「菅は安倍から『後を託す』とはっきり告げられてはいない」と明かす。じわじわ外堀を埋め、熟柿(じゅくし)が落ちる一瞬を逃さず路線継承劇として演出して見せた。

勝ち馬・菅をつくった「たたき上げ裏方同盟」と不測の早期退陣でそれに乗らざるをえなかった安倍と麻生の世襲ライン。菅はひとまず双方に足場を置き、バランスを測る。安倍を父・晋太郎の秘書時代から知る元首相の森喜朗が「安倍さんの本心は岸田さんだ」と代弁した通り、「平時の人」岸田は総裁選で2位を死守し、安倍から見てなお「ポスト菅」カードたりうる。

菅が権力の正統性を「安倍継承」に頼り切らず、独自に調達するには早期の衆院解散・総選挙で有権者から信任を受けるしかない。「仕事がしたい」と意気込む菅だが、衆院選抜きに「安倍前総裁の残任期間1年の暫定政権」は脱せない。権力基盤を増強するため第3の勢力も育成しつつある。そのキーワードは負けても権力闘争に挑み続けたこの20年余の政治活動で常に旗印に掲げた「脱派閥と世代交代」だ。

「無派閥で総裁になるのは私が初めてだろう。派閥の組み合わせから総裁候補になったんじゃない。無派閥を貫いていく」

菅は11日、インターネット番組でこう「脱派閥」を訴えた。

総裁選で「防衛相の河野太郎さんが出れば、河野さんを応援します」と環境相の小泉進次郎が発言し、河野も「非常にありがたい」と応じるひと幕があった。麻生派の河野も無派閥の小泉も結局は同じ神奈川県選出の菅支持に落ち着いたが、これは麻生にとって笑い事ではなかった。「総裁候補・河野」への世代交代を派内が一致して受け入れる態勢になかったからだ。

といって、麻生が岸田支持なら、河野は出馬に走って派閥は割れたかもしれない。河野に影響力を持つ菅を担ぐことで降ろすしかなかったのだ。世代交代のマグマは安倍のお膝元の細田派でも胎動する。「改革意欲に富む人材を登用する」と宣言する菅は親しい河野や小泉らに仕事をさせ、世代交代の後見役を演じることで派閥領袖たちをけん制するはずだ。天下三分の計は現代に生きている。=敬称略』