~ファーウェイへの「死刑宣告」、その意味するもの~

2020年08月26日17:30
ストラテジーブレティン(259号)~ファーウェイへの「死刑宣告」、その意味するもの~ハイテク市場で予想される地殻変動
https://www.data-max.co.jp/article/37296

『NetIB‐Newsでは、(株)武者リサーチの「ストラテジーブレティン」を掲載している。今回は2020年8月25日付の記事を紹介。

 米国は8月に入り、以下の苛烈な対中ハイテク企業バッシング政策を相次いで打ち出した。
 (1)ファーウェイに対する半導体供給完全遮断。
 (2)中国・中国共産党を世界のインターネットから完全に排除する、クリーンネットワーク構想の提起。
 (3)動画掲載アプリTikTokの米国事業禁止。
 いずれも、7月23日のポンペオ・スピーチで表明された中国敵視戦略の遂行のために打ち出されたものであり、これまでの対応とはレベルが異なっている。

 米国は中国・中国共産党を敵と定めた以上、中国を破る対中戦略を確立しているのではないか。米国が目的を達成するためには、(1)経済交渉と制裁、(2)産業・資財供給の封鎖、(3)金融封鎖、(4)Hot War(武力戦争)の4段階が考えられる。
 これまで米国が行なってきた(1)経済貿易戦争の交渉では埒が明かず、短期で効果を上げることは望めない。よって、(2)産業・資財の供給封鎖により、打撃を与えようとしている。あたかも現代の石油である半導体供給やネットワーク遮断は、額面通り実施されるならば、甚大なダメージを中国に与えるのではないか。
 ファーウェイの破綻、大手IT企業3社のBAT(バイドゥ・アリババ・テンセント)の衰退が起きたとき、習近平政権はどう反応するだろうか。米国が(3)金融封鎖、(4)Hot Warという手段に訴えるのは、(2)の効果が見えた後であろう。

(1)ファーウェイへの死刑宣告
ファーウェイへの半導体全面禁輸
 米国商務省は8月17日、ファーウェイに対して半導体の全面禁輸という苛烈な新政策を打ち出した。ファイナンシャルタイムズ(FT)紙はこれを、Death Sentence(死刑宣告)と形容している(8月22日付FT)。

 この政策は、米国のソフトウェア、テクノロジーを使用して開発または生産されたすべての半導体・電子部品へのファーウェイによるアクセス(※)を直ちに全面禁止するというもの(ただしライセンス取得が必要)。

 商務省は5月15日に、米国の製造装置や設計ソフトを使っている外国製半導体のファーウェイへの販売を禁止したが、米国製品の構成比が25%以下の場合は対象外という軽減措置や、迂回輸出という抜け道があり、猶予期間もあった。

 今回の措置はすべての製品に対して、迂回経路を遮断し、猶予期間なく即時に実施するという激烈なものである。

 これまで避難手段と考えられてきた、サムスン電子や台湾のメディアテックなどのファーウェイにとっての代替調達先からの購入や、メモリなど汎用品の購入にも米国政府の許可が必要になるため、事実上の禁止といえるだろう。

 この措置がいかに唐突で苛烈なものであるかは、中国への対応において政府と歩調を合わせてきた米国半導体工業会(SIA)が「米国政府の突然のシフトに驚きと懸念を抱いている。センシティブでない製品の中国への販売は米国の経済力と安全保障にとって重要である」と表明したことからも明らかである。

 ファーウェイは米国半導体企業にとって、最大手ユーザーの1つであるが、その状況に配慮してファーウェイへの供給が選択的に認められるとしても、限定的なものであろう。

ファーウェイの最先端通信機メーカーとしての命運、風前の灯火
 半導体の取得が絶たれれば、来年初めには6か月分といわれる半導体在庫が払底し、ファーウェイの売上の9割を占めるスマートフォンと通信基地局の生産は立ち往生する。

 新規ビジネスとして注力しているクラウドサービスも、サーバー、データセンターの95%がインテルのCPUを搭載しているといわれる「半導体の塊」であり、中国産の半導体では対応が困難である。米国の対応はさらに厳格化することはあっても、緩和することは考えられず、この窮地を抜け出す手はあるのだろうか。

 中国政府はファ―ウェイを支援するだろうが、その支援は中国国内ビジネスに限られるだろうし、世界最先端の通信機メーカーとしてのファーウェイの命運は断たれつつあるというべきかもしれない。

 ファーウェイはスマホビジネスでは、2020年4~6月に世界スマホシェアの20..2%を占めてトップに立ったが、これは断末魔の輝きともいうべきものだろう。

 ファーウェイのスマホは、2019年にすでにOSであるアンドロイドのアップデート制限とGoogleアプリの搭載が禁止されており、中国外での販売は大きく減少すると見られていた。このことに半導体の供給停止が加わるため、今後はシェアの急減が避けられない。ちなみにファーウェイのスマホは、2019年の世界出荷台数2.38億台のうち4割弱が海外出荷とされるため、相当大きなダメージを受けるだろう。

 米国は8月に入り、以下の苛烈な対中ハイテク企業バッシング政策を相次いで打ち出した。
 (1)ファーウェイに対する半導体供給完全遮断。
 (2)中国・中国共産党を世界のインターネットから完全に排除する、クリーンネットワーク構想の提起。
 (3)動画掲載アプリTikTokの米国事業禁止。
 いずれも、7月23日のポンペオ・スピーチで表明された中国敵視戦略の遂行のために打ち出されたものであり、これまでの対応とはレベルが異なっている。

米国は力ずくで5G基地局からファーウェイ排除
 次に5G基地局ビジネスについて。これまで技術的に先行し価格も圧倒的に安いファーウェイが、次世代ネットワーク5Gのメインプレーヤーとなる、という見方が世界の常識であった。しかし半導体の調達が困難になり、ファーウェイの製品供給が維持できなくなると、ファーウェイを軸とした5Gネットワーク構築を根底から見直さざるを得なくなり、米国によるファーウェイ排除要請に抵抗を示していたドイツのメルケル政権も、路線転換を余儀なくされるだろう。

通信機市場に新たな空白が
 従来はコア基地局の仕様が各国の通信企業ごとに異なるため、メーカーは個別に対応せざるを得ず、実績が豊富で高シェアをもつファーウェイが有利だった。しかしファーウェイに代替する企業の参入を容易にするための米国国防省による呼びかけもあって、O-RAN(Open Radio Access Network)と呼ばれる汎用的規格がつくられようとしており、より小規模の企業の新規参入が可能になりつつある。

 いち早くファーウェイ排除を決めた英国は、コア基地局でのシステム仕様をオープン化して、5Gの代替サプライヤーの参入を求め、日本政府に協力を要請している。こうしてNTTドコモと後発のNECや富士通(世界シェア1%未満)にも、チャンスがめぐってきたのである。

 しかし、ほとんどの関係企業は、情勢の急変に対応できていない。ファーウェイを5G基地局のサプライヤーと決めている多くの欧州通信業者はsuper painful(大きな痛手だ)というのみで、ファーウェイ破綻という不測の事態にまったく対応できていない(FT・8月22日付)。しかし他方で、スマホと基地局という世界の通信機市場で圧倒的プレゼンスを誇ったファーウェイが衰退するとなると、巨大な市場の空白が生まれ、関連企業にとっては大きなビジネスチャンスとなる。地政学が世界の産業地図を塗り替えていく、といえるだろう。

(2)クリーンネットワーク構想
あからさまな対中インターネット封鎖
 米国務長官は8月5日、新たなプログラム「Clean Network」を発表した。Clean Networkプログラムは悪意のある攻撃者(中国および中国共産党)から市民のプライバシーと企業の機密情報を守ることが目的とされ、中国・中国共産党をネットワークの各分野から排除することを意図している。

 究極的にはファーウェイのみならずOPPO(オッポ)など中国のスマホメーカー、およびBATなどのインターネットプラットフォーマー、移動体通信事業者などは、すべて国際的なインターネット空間から遮断されることになるかもしれない。中国国外では、アリペイやウィーチャットペイなどの電子決済もできなくなるだろう。

 Clean Networkプログラムには5つのカテゴリーがあり、各インターネット分野からの中国の追放を目的としている。

(1)クリーンキャリア
 信頼できない中国の携帯電話会社(キャリア)が、米国の通信ネットワークに接続することを禁止。

(2)クリーンストア
 米国のアプリストア(Google PlayストアやApp Storeなど)から信頼できない中国製アプリケーションを排除。

(3)クリーンアプリ
 信頼できない中国のスマートフォンメーカーがアメリカなどの信頼できるアプリをプリインストール(内臓)すること、あるいはダウンロードすることを禁止。

(4)クリーンクラウド
 アリババ、バイドゥ、テンセントなどの中国企業が提供するクラウドサービスに米国のデータを保存することを禁止。

(5)クリーンケーブル
 グローバルインターネットに接続している海底ケーブルが、中国による超大規模な情報収集のために侵害・破壊されないようにする。

 米国は同盟国や協力国の企業に呼びかけ、クリーンネットワーク(中国排除のグローバルネットシステム)を強化していく。

米国は8月に入り、以下の苛烈な対中ハイテク企業バッシング政策を相次いで打ち出した。
 (1)ファーウェイに対する半導体供給完全遮断。
 (2)中国・中国共産党を世界のインターネットから完全に排除する、クリーンネットワーク構想の提起。
 (3)動画掲載アプリTikTokの米国事業禁止。
 いずれも、7月23日のポンペオ・スピーチで表明された中国敵視戦略の遂行のために打ち出されたものであり、これまでの対応とはレベルが異なっている。

(3)TikTok米国での事業禁止
現代のアヘンになる可能性
 トランプ大統領は、欧米でも圧倒的な人気を誇る中国発の動画投稿アプリ「TikTok(ティックトック)」が安全保障上の脅威になるとして、ハイテクユニコーンであるアプリ運営会社のバイトダンスに対して、米企業への事業売却か、米国市場からの撤退を迫っている。

 ティックトックの買収にはマイクロソフト、オラクルが名乗りを上げている。日本経済新聞編集委員・西村博之氏は「Global Economic Trends」の「TikTokは危険なのか、代わるデータと国家の関係」(8月23日付)のなかで、この背景を以下のように分析している。

「若者が歌や踊りを披露する娯楽アプリが、どう国民の安全を脅かすのか。そして米政府はなぜ、強硬な姿勢をとるのか。背景を探ると、何でもないデータを武器に変えうるデジタル技術の進化と、中国の台頭に危機感を抱く米国の姿が浮かび上がる」

「米中央情報局(CIA)はホワイトハウスの指示でティックトックを調査し、潜在的な危険は否定できないものの、今のところ中国の情報機関がデータを収集した事実はないとの結論に達したという(Is TikTok More of a Parenting Problem Than a Security Threat?)」

「ティックトックが大量のデータを集めているのは事実だ。詳細な検証を行ったサイバーセキュリティー会社によると、アプリはスマホ内蔵のカメラやマイク、写真や音声データのほか、全地球測位システム(GPS)機能を使った位置情報、IPアドレス、ネット上の閲覧・検索履歴、ほかの利用者と交わしたメッセージにもアクセスできる。ところが驚くことに、こうしたデータ収集は『ほかのアプリとそう変わらない』という。高性能の携帯端末が普及した今、誰もが便利さと引き換えに知らず知らずのうち大量のデータをばらまいているのが現状なのだ(Understanding the information TikTok gathers and stores)」

「ユーザーの属性や閲覧履歴など無数のデータから趣向をつかんで自動的にコンテンツを推奨する抜群のアルゴリズムは、他のソーシャルメディアの追随を許さないほどアプリの中毒性を高めているという(For Whom the TikToks)」

「これによりティックトックが強力な文化戦争の兵器になり得ると見るのが、著名な歴史家のニール・ファーガソン氏だ。ティックトックは『アヘン戦争以降の屈辱の100年に対する報復であるのみならず、デジタル版のアヘンそのものだ』と指摘。『我々の子どもたちが来る中国の支配を喜ぶよう地ならししている』と主張する(TikTok Is Inane. China’s Imperial Ambition Is Not)。実際、中国は大量のデータ獲得とAIを自国に好ましい『国際世論』醸成の重要な手段と位置づけている。自国内で用いている『社会操作』のグローバル版だという(Engineering global consent)」

 ジャーナリスト福島香織氏は、ネットメディア『現代ビジネス』に寄稿した「習近平は知らない・・アメリカが真っ先にTikTokを狙った本当のワケ」(8月22日付)のなかで、次のように分析している。

「2019年12月、米国防省は初めて、軍部に対しTikTokに安全リスクがあると警告し、今年1月から軍関係者の使用を禁止。7月に米上院国土安全保障・政府活動委員会で、米連邦政府官僚のTikTokダウンロードの禁止を求める法案が可決された」

「元ホワイトハウス国家安全保障委員会の官僚で、大西洋評議会デジタル・フォレンジック・リサーチラボ(DFRLab)のグラハム・ブルーキー主任はTikTokがもたらす米国の国家安全上の脅威を3つ挙げている。その3つとは、(1)中国政府にはTikTokからユーザーの個人情報提供を直接要請する能力がある、(2)ユーザーは個人情報をどのように利用されるか知るすべがない、
(3)投稿内容に対し中国が検閲できる、である」

「思うに、価値観、イデオロギーの異なる米中の戦において、TikTokの世論誘導力も、情報漏洩以上に脅威なのではないか。たとえば、トランプ大統領のオクラホマ州タルサ集会(6月20日)に100万人の参加申し込みがありながら、実際は6000人ほどしか出席せず、トランプのメンツ丸つぶれとなる事件があったが、これはTikTokユーザーの「ステージ上でトランプを1人ぼっちにさせよう」と呼び掛ける動画が広がったことが一因として挙げられていた」

米国は8月に入り、以下の苛烈な対中ハイテク企業バッシング政策を相次いで打ち出した。
 (1)ファーウェイに対する半導体供給完全遮断。
 (2)中国・中国共産党を世界のインターネットから完全に排除する、クリーンネットワーク構想の提起。
 (3)動画掲載アプリTikTokの米国事業禁止。
 いずれも、7月23日のポンペオ・スピーチで表明された中国敵視戦略の遂行のために打ち出されたものであり、これまでの対応とはレベルが異なっている。

(4)米中覇権争いの現局面、中国経済封鎖
米中敵対の新段階、経済封鎖へ
 これまで見てきたように、7月23日のポンペオ国務長官の対中敵対宣言から、米国の苛烈極まる政策が相次いで打ち出されている。米国は自ら進んで中国との敵対関係を強め、敵と認定する中国共産党の崩壊を狙う、宣言通りのアクションである。

 8月になって打ち出された上記3つのハイテク企業バッシング政策は、場あたり的なものではなく、遠大な対中敵対戦略の一環として十分に練られた上で打ち出されたものであろう。

 トランプ氏がいうように米国は対中関係を遮断することも、今や厭わない。関係を遮断・封鎖するとなると中国の経済力は衰弱し、「壊死」へと向かう可能性が高く、降伏または開戦という手段しかは残されなくなるだろう。

 この政策には、1930年代末から41年までの米国の対日対応を彷彿とさせるものがある。ABCD包囲網・対日石油禁輸からドルの凍結による決済ネットワークからの排除まで、経済制裁ではなく経済封鎖であり、事実上の相手国の殲滅作戦であった。日本は開戦を余儀なくされた。ちなみにFTの中国死刑宣告の記事には、満身創痍のゼロ戦が機上砲撃をしているイラストが描かれている。

(5)アップルはトロイの木馬になる深謀遠慮が
中国に商機を見出すアップルとテスラ
 奇怪なのは、米国政府によるアップル、テスラの扱いである。米中デカップリング、EPN(Economic Prosperity Network)による国際サプライチェーンからの中国排除を構想していながら、アップル、テスラの中国事業は何ら制限していない。

 バー司法長官は、6月のスピーチで、「アップルは米国政府に同社の携帯アクセスを拒否した一方で、中国政府にはアクセスを許してきた」「アップルが中国で販売する携帯電話が中国政府に諜報されていないとでも思うか、もし諜報を排除できるならそもそも販売が認められるはずがない」と主張したのに、この結果である。

 アップルのクックCEOはかつて、「中国がテクノロジーに関する優れたエコシステムをもっているおかげで、技術ノウハウ、サプライヤー、労働力まで必要なだけ調達できる。そのことが可能なのは中国だけ」と述べ、中国を尊重する姿勢が顕著である。

 アップルは500万人以上の中国人を雇用しており、中国最大の雇用主という立場が、中国における販売プレゼンスを政治的に支えているという面は大きい。トランプ大統領による中国生産の他国へのシフト要請もあり、アップルとその受託生産会社である鴻海はインドでの生産を開始するという動きはあるが、他社に比べて動きはスローである。中国以外で生産すると、その厳しい品質基準になかなか達しないためと言われている。

 今後、中国のスマホ市場でGoogleによるOSやアプリの提供が抑制されていくと、中国市場でのアンドロイド系製品開発に遅れが出る可能性がある。iOSを独占しているアップルの製品開発力が大きくものをいう時が来るかもしれない。

 米中貿易戦争のさなかに上海工場を立ち上げたテスラも同様であるが、米中敵対関係にあっても優れたビジネスモデルは「その荒波を乗り越える力をもっている」といえるのかもしれない。

(了)』